ミュージカル「王家の紋章」

 

この夏、「王家」が帝国劇場に帰ってきます。舞台稽古も順調に進み、いよいよ8月5日開幕です!


 

今回私はアイシス役に挑戦しており、年季の入った原作ファンとして改めてミュージカル版を考察した時に、色々と語りたい想いが溢れてきましたので、この際、文字に起こして整理しておこうとこのブログを書き始めております。



アイシスは、エジプトの女王です。


そう、ミタムンのように「王女」ではなく、彼女はれっきとしたエジプトの支配者、弟のメンフィスと権力を二分する「女王」なのです。(とはいえやはり男性のファラオの方が位は上ですが…)

 


メンフィスとアイシスは18、19歳という設定ですが、時代背景もあって精神年齢は現代の10代との比ではないでしょう。ただ、こと「恋愛」に関しては現代の10代より疎いのかもしれません。

 


メンフィスは出生時に母を亡くし、アイシスも、原作にハッキリとは描かれていませんが産みの母とは幼き頃に離別しており、肉親と呼べるのは父王をのぞけば姉/弟だけ。分かち難き血筋であるお互いを、支え合うように生きてきた腹違いの姉と弟。


 

ミュージカル版で冒頭に描かれるメンフィス王即位の場面、この日から遡ることわずか70日前に、二人は敬愛する父王を暗殺によって奪われています。それがまた更に二人の絆を深めたことでしょう。



ちなみに…戴冠式を目前にメンフィスもまた、毒を盛られて死線を彷徨うのですが、その時のアイシスの献身たるや…!



神よ メンフィスを守りたまえ

わたくしの命をさしあげます



と言うのですよ。

泣ける。

(ミュージカル版でメンフィスがサソリに咬まれた時にキャロルが看病をして、それでメンフィスはコロっと惚れちゃうんですけど、いやそんなん私これまで何度も介抱してきましたけど…とアイシスは思っているはず!!)



 

とりあえず、心を許せるのはお互いだけという特殊な環境の中で、ただただ、メンフィスだけを見つめ愛してきたアイシスなのです。



そんな愛する弟が、幾多の苦難を乗り越えついにファラオとなる!喜びの戴冠式にはヒッタイトのミタムン王女も参列しています。王女の背後には、豊かなエジプトを侵略せんとする隣国の陰謀が見え隠れする。



メンフィスはファラオとしての野心もあってか、結婚を政治と割り切っている節があるので、年頃のアイシスはいつもやきもき。



思慮深かった先王でさえ、若い異国の女の色仕掛けに惑わされ、あえなく毒殺されてしまった。メンフィスにまとわりつく女の影はあらゆる意味で不吉であり、メンフィスと自分が結ばれることこそが、愛する祖国の防衛と繁栄に繋がるのだとアイシスは信じています。




そしてある日、突然メンフィスがあの金髪の娘を連れてくるのです。

 



さて、ここで原作とミュージカル版の大きな相違点をご説明しておきましょう。

原作では、現代に蘇ったアイシスが明確な意図を持ってキャロルを古代へと連れ去りますよね。なので、古代に戻った後もアイシスはそれを認識しており、キャロルも「私を現代に戻してよ!」と直談判したりします。

 

しかし、ミュージカル版では諸事情によりその設定が省かれています。

 

舞台版の冒頭「王家の呪い」というナンバーで、アイシスはキャロルを古代へと連れ去ります。しかしそれは、あくまでアイシスのミイラに宿った「魂」の仕業であり、古代で生身の人間として生きるアイシスは、その事実(キャロルがタイムスリップしてきた未来の娘だということ)を知らない。

 

泥水を清水に変えたり、死に瀕したメンフィスを救う不思議な力を持っている黄金の娘・キャロルは、アイシスにとって、あまりに突然現れた脅威なのです。


 

エジプトの民や宮廷の女官たちも、己の理解者であるはずのイムホテップも、そして何より最愛のメンフィスまでもが、得体の知れない小娘にどんどん心を奪われていく。下エジプトの女王としての存在感すら、日ごと薄れていくような虚しさを覚えたことでしょう。

 


舞台では時間の都合で描かれませんが、その後、慟哭しながらもバビロニアへと嫁いでいくことになるアイシスの無念までをも背負って、彼女の人生を生きられたらと思っています!!書いていて我ながら「重いな」と思いますが(笑)、考えれば考えるほど、アイシスにもアイシスの正義があるのだよと思うのです。


その想いを届けられる機会をせっかく頂いたので、集中して一瞬一瞬を生き抜きたいと思います!

 


あー止まらないんですけど、最近思ったことをもう一つ。

「王家の紋章」って壮大な「因果応報」ストーリーだと思うんですよね、

 

原作の設定に立ち返ると、

愛する弟の墓を荒らされたアイシスがその主犯であるライアンを憎み、物語が動き出す。

「ライアンの一番大切なもの=キャロル」を奪ってやると宣言して古代へと連れ去り、その結果、「アイシスの一番大切なもの=メンフィス」をキャロルに奪われてしまう。

 


原作でもミュージカルでも、アイシスって気性が荒くカッとしやすいところがありますからね…ブーメラン的な展開は致し方無しか。「目には目を」というレベルを超えて「私に仇なす者に倍返しだ!!!」的なところがある。そう、もはや半沢直樹ですね。古代の半沢。それも総じて女王の気質。危険な芽は徹底的に摘んでおかねば国を脅かす事態になりかねませんので。


 

そんな感じです!!

 


こんなことをずーっと妄想しながら、稽古場で時間を過ごして参りました。さぁ、いよいよ衣装を纏って古代エジプトの世界へ。お客様と共に遥かなる旅に出ようぞ…!



アイシスにとっては幸せでいられる時間はそんなに長くないかもしれませんが…どれほどもどかしくとも、一途に生き抜く尊い人生が待ち受けている予感がします。

 


皆様、母なるナイルの岸辺でお会いしましょう。

 

 


●ミュージカル「王家の紋章」アイシス役

2021年8月東京・帝国劇場、9月福岡・博多座

 

●YouTube動画