映画「ネクスト ゴール ウィンズ」を観る | 世日クラブじょーほー局

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 南太平洋の中心に位置するサモア諸島。主要な4つの島および小島からなる。もとは一つの国だったが、独、英、米の支配権争いにより、1899年に分断。現在、東西で別々の国家を形成している。

 

 西側の2つの大きな島を主な領土とするのが「サモア独立国」。ラグビーの強豪国として名が知られ、一般に「サモア」と呼ばれる国がそれ。だが、サモアと名の付く国はもう一つあって、それが東側の2つの小さな島を主な領土とする「米領サモア」であり、本作の舞台だ。

 

 領土面積は197㎢(世界212位)、人口は4万5千ほど。主な産業は農漁業や観光であり、Wikipediaによれば、2016年のGDPは658百万ドル(日本は最新データで4兆2861億87百万ドル)という小さな小さな国。当方も「サモア」が二つあることは初めて知った。

 

 本作冒頭、衝撃的な映像が流れる。2001年、サッカーW杯オセアニア予選で、米領サモア代表チームは、オーストラリア代表相手に、0ー31というラグビーかと見紛う歴史的大敗を喫したのだ。以来10年以上、FIFAランキング最下位をキープし続け、かつまた1ゴールさえ決められないという不名誉の上塗りだった。

 

 2014年のW杯こそはこの汚名を晴らしたい!米領サモアサッカー協会会長のタビタ(オスカー・ナイトリー)はその思いを実現すべく、これまで地元の人間だけが占めていた監督を急遽、海外から招聘することに。こうして国民の期待を一身に背負ってやってきたのが、トーマス・ロンゲン(マイケル・ファスペンダー)。しかし、実は彼は試合中、椅子は投げるわ、暴言は吐くわなどで過去3回監督をクビになった経歴があり、今回もクビかサモア行きかの二者択一を米サッカー協会から突き付けられ、やむなく赴任してきたのだった。

 

 ただでさえ、米本土から遠く離れたサモアくんだりまで飛ばされて、心中穏やかでないロンゲン。一方、代表チームは、さぞかしリベンジに燃え、士気高く、ロンゲンの指導を渇望している…と思いきや、その実力は2001年よりさらに悪化していた…!! 彼らはそれぞれ別に職業を持つアマチュア集団。サッカーに対する意識はサークル程度で、「才能、スキル、理解力ゼロ」。パスさえままならない状況に、ロンゲンは絶句。なおかつ彼らの心の奥底に、白人に対する歴史的な不信感が横たわっていた…。

 

 熱血ブチ切れ監督とクセ強アマチュアサッカーチーム。果たして彼らは、国民の悲願である「ワンゴール」、さらにその先にある奇跡の勝利を掴み取ることができるのか!?

 

 米領サモアの住民の95%がキリスト教信者。劇中、島の習慣で、鐘を鳴らす音が聞こえると、皆、作業を止め、目を閉じ両手を組んでお祈りし始める。日曜は礼拝を欠かさず、働くことが罪だとしてサッカーの練習も当然休み。これにロンゲンは当惑するが、原理主義的に思える側面も、よく見るとカラオケマイクを握ったキリストの肖像画が掛かっていたり、祈る内容も高尚とはほど遠い他愛ない日常をごちるようなユルさも併せ持つ。

 

 ディフェンダーのジャイヤ(カイマナ)は、ホルモン剤投与が欠かせないトランス女性。見た目が女性であり、当初、登録名と違う呼び名を巡って、ロンゲンとトラブルになるが、島では彼のような存在をファファフィネ(第三の性)と呼び、「社会の花」として尊重されている。またロンゲンがあてがわれた家はケータイが圏外だったり、島では車の制限速度が30キロなど、サッカー以前に、南国特有のポジティブ思考とのんびりさという文化の違いがのしかかる。

 

 うまくかみ合わず行き詰まる状況でも、タビタはロンゲンに、あなたから学びたいと。しかし、自分たちのスタイルを否定もしない。そして、誰も不幸になってほしくない。自分も幸せでありたいし、あなたもそうなって欲しいと。これこそサモア精神だ。なお、ロンゲンは、チームの運営費などがタビタや選手たちがいくつも兼業することにより捻出されている事実を知り、胸に熱いものがこみ上げてくるのだった。ガツガツせず、「足る」を知り、全てを受け入れる懐の深さを持つサモア人の生き方、その基盤にあるアイガ(家族)第一主義を日本人も大いに学ぶべきだろう。何より、ロンゲンこそ、このサモアに来るべくして導かれたのだ。その心に深く刻まれた傷を癒すために。

 

(監督)タイカ・ワイティティ

(キャスト)

マイケル・ファスペンダー、オスカー・ナイトリー、カイマナ、ピューラ・ユアレ、セム・フイリポ、クリス・アロシオ、ヒオ・ペレササ、リーハイ・ファレパパランギ、ウリ・ラトゥケフ、イオアネ・グッドヒュー、デヴィッド・フェイン、レイチェル・ハウス、ウィル・アーネット、エリザベス・モス