ここに来るのは
2年ぶり…
相変わらずに暮らしているのだろう
時は変わらない気がする
晩春の夕暮れでも
もう風は夏の薫り
その風に撫でられている
暖簾をくぐった。
「おう!久しぶりじゃね…よう来んさったね…」
と
オヤジさんは微笑んで迎えてくれた。
「元気にしとりんさったかい…いろいろと大変じゃろう…」
笑顔で麦焼酎を入れている姿が
奥の扉のガラスに映っている
やがて振り向いて
目の前にグラスと
付き出しとが…
ふと
奥の椅子に目をやった
「やっぱり思い出すかい…」
オヤジさんは誰よりも
俺を知っている
…寒い…
と
聴こえる気がする
夏美…
雪解けまでは暮らしたかった
もう
早5年…
俺はずっと一緒にいたかった。
夏美が旅立って
5年…
苦く渋いグラスをの縁を
口に充て
何の目的もない
ただ偲ぶだけの
俺の旅…
・おわり・