新国立競技場と積極財政 | 進撃の庶民 ~反新自由主義・反グローバリズム
水曜日は、みぬさ よりかず氏による経世済民・建築論です!

今号では、最近話題になっている新国立競技場の話です。みぬさ様だけではなく、様々な分野で第1線で活躍する人の稿が集まっているのが、当ブログの自慢でございます。


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経世済民・建築論『新国立競技場と積極財政』

『庶民の怒りが爆発』

7月7日に安倍政権が工事費を2520億円に増額した新国立競技場ですが、それ以降ワイドショーのネタと化し完全に全国民的に周知されてしまいました。論調は『無駄な公共事業』として庶民の怒りが爆発した状況です。この問題は非常にカオス化しておおり、その複雑さを『積極財政』の観点から解説します。

『完全に失敗したアンダーコントロール』

世間一般では建築コストの指針として坪単価が使われています。新国立競技場の延べ床面積は約22万m2で坪換算すると約6万6千坪となり、坪単価は約380万円です。これは「ベラボウ」に高い金額です。ザハと日建設計のプロジェクト・チームは、完全にコスト・コントロールに失敗しています。

『コスト・マネージメントの経緯』

元々コンペ時の要望面積は約29万m2で予算は1300億円でした。約8万8千坪で坪単価は150万円弱で計算した事になります。その後、基本設計で1700億円に増額されて坪単価が250万円に増額されています。業界人の感覚として、特殊な公共建築でここ迄のラインの増額はアリだと考えます。

『減額案なのに減額にならなかった』

ザハを1984年の国際コンペで1位に引っ張り上げて発掘した人物として知られる建築家の磯崎新氏は、コンペ時のデザインは素晴らしいが、現状案は『亀の甲羅』みたいだと批判しています。確かに減額案が当初案よりキレが無くなったのは事実です。問題なのは減額したハズなのに増額案になってしまった点です。

『ロンドン五輪のスタジアムとの比較』

新国立競技場のコストが高い根拠として、よく比較されるのは、ロンドン五輪のスタジアムですが、カラクリが二つあります。一つは、ロンドンでも建設コストが当初予算の二倍に膨れ上がったという事実。もう一つはロンドンと比べて二倍の床面積であるという事実。これは何故かメディア触れられません。

『実は競技場じゃなかった新国立競技場』

W杯の決勝戦が行われた横浜国際総合競技場と比べても新国立競技場は延べ面積が二倍もあります。実は新国立競技場は、スタジアム機能と直接関係の無い諸機能が大量に付加された施設なのです。つまりスポーツ振興関連施設が大量に盛り込まれた複合ビルというのが新国立競技場の正体なのです。

『コンペの時から分かっていた事』

今回の新国立競技場のコンペは応募者の条件が大変厳しく建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞受賞者などに限られていたのですが、数少ない応募資格者である槇文彦氏は、案の検討を行ったが要求された床面積が余りに大きく敷地に相応しいデザインにならなかったので応募を断念したと語っています。

『コンペ応募案から感じた不思議』

新国立競技場のコンペ案は、審査途中で公開されていたのですが、1位のザハの案よりも大きなボリュームの応募案が幾つもありました。スタジアムというよりは、地域全体の再開発を行う巨大なショッピングモールという雰囲気の案が散見されたのです。理由は恐らく大き過ぎる床面積に対する回答でしょう。

『私が一瞬でコストを予想出来た理由』

コンペの審査委員長でザハ案を押した安藤忠雄氏は今頃になって、コンペの時に1300億円の予算というのは伝えていたとトボケていますが、私はザハの案をネットで見た瞬間に建設費は3000億円すると予想し、実際にそうなりました。理由は簡単で、東京国際フォーラムのコストを知っていたからです。

『5000人収容のホールが1500億円』

有楽町駅前にある東京国際フォーラムは、西新宿に移転した都庁跡地に建っています。工事費は1500億円です。五千人収容のホールを中心としたコンベンションセンターの工事費としては今でも高過ぎると思いますが、理由があります。新宿に移転した現都庁舎と同じ金額の工事費を突っ込むという政治的判断です。

『談合があった時代とは訳が違う』

原広司氏が設計して97年に完成した京都駅ビルも当初2000億円の見積が何故か500億円も工事費が値引きされ1500億円で施工されました。当時はゼネコンにも経営体力が残っていたので『政治的な判断』も可能だったのです。磯崎新氏も日本の建築は談合のお陰で品質が確保されていると、かつて講演会で語っていました。

『1300億円ではローコスト建築』

その点、公共事業が削られ、更に適正なコストを維持する為の制度『通称:談合=相談して合意』が禁止されて、過度な価格競争が進んだ今日では、ゼネコンが「泣いて」価格調整を行う事は不可能です。私は新国立競技場の当初予算の1300億円も、デフレが恒常化した状態でのローコスト仕様であったと考えます。

『船頭多くして船山に上る』

安倍総理は国会答弁で、ザハ案は民主党時代に決まった事だから自分は関係ないと、得意の何でも民主党政権に責任転嫁する発言を行いました。都知事は五輪誘致と無関係の舛添氏で、五輪組織委員長は、高齢の森元総理、内閣にも五輪担当大臣がいますが、影が薄く誰がリーダーなのか、さっぱり分かりません。

『カオス状態の新国立競技場』

新国立競技場の問題は、現状案が景観に合わないというデザインの問題、建設コストが高過ぎると言う予算超過の問題が混ざっているから、ややこしいのです。ザハの案を選んだのは、コンペの審査委員長の安藤忠雄氏であるのは間違い無いので、先ずは、安藤氏が国民に対して説明責任を果たすべきでしょう。

『緊縮財政の中でのルサンチマン』

先日、大学で准教授をしている文系の知人と話したのですが、文科省は現在、研究関連予算の歳出抑制策を取っているようで、ザハの案にアレだけカネを出すなら、もっと大学に予算を廻せと怒っていました。財政危機が叫ばれる中での、新国立競技場への『特段の配慮』は、多くの大衆の恨みを買う行為です。

『8万人の劇場は必要な施設』

首都圏は人口3700万人を抱える世界最大の都市です。様々な大規模イベントを行う多目的シアターは必要な施設です。バブル時に作られた、幕張メッセ、さいたまスーパーアリーナ、パシフィコ横浜、東京フォーラムなどでは様々なイベントが行われ有効活用されています。ハコ物行政は無駄では無いのです。

『デザインが悪ければ出直せ』

元々神宮外苑は、神々にスポーツを奉納するというコンセプトで作られた都市施設です。要は公園に70mの高さの建築を作って良いかとの疑問は確かにあり、ボリュームが大き過ぎるという槇文彦氏の指摘は一理あります。しかしコンペで勝ったデザインに、外野が手を突っ込んで修正するのは、全くおかしい話です。

『スタジアム関連施設以外を無くせ!』

設計して予算が合わない場合の方法として、面積を減らすという方法があります。私も自分の仕事で減額案を考えるケースが多いのですが、結果的にむしろキレのあるデザインになるケースが多いのです。新国立競技場の場合もスタジアム関連以外の諸機能を削ってしまったらどうでしょうか?大幅な減額が可能です。

『コンペのやり直しも一つの手』

8万人収容の五輪スタジアムは必要な施設です。それを4年でいかに作るかは、今がギリギリのタイミングです。安藤氏か安倍氏か不明ですが、リーダーによる政治的な説明が必要です。その上で、プログラムを整理して、もう一度コンペを行うか、ザハのデザインの良さを活かした面積を減らした再修正案も手です。

『徹底的な積極財政が一番の解決策』

現状の新国立競技場は欲張り過ぎています。10万m2分のスタジアムと直接関係のない諸施設を切り離して別に作れば良いのです。その方がもっとコストが掛かりますが、世論は逆に納得するでしょう。日本には財政問題はありません。国民のストレスが解消するまで徹底的な積極財政を行うのが一番の解決策なのです。



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