SJペンピクは過去の話…現在、育児中 -1667ページ目

第02話-2 Vampire House

 カンインの頑強な様子にヒチョルはいまにでも横にあった物を一つ掴んで投げつけようかという勢いで怒鳴った。しかし、全く動じないカンインはヒチョルを鋭く睨みつけた。ヒチョルは大ゲンカでも始めるかというように立ち上がったがなんとか怒りをおさめてカンインに頼み込んだ。



「家でやるなってことについてはとっくに話してあるし。ルールを破ったらお前の好きなようにしてもいいし。よく考えろよ、今うちらは金に困ってるんだって」


「お前の贅沢のせいだろ」


「おい!正直お前が稼いでくる金はどんだけだよ?それでどうやって食っていけって言うんだよ?」


「お前は飯食わないじゃんか」


 何も考えずに怒鳴ったカンインが急にジョンスをじろっと睨んだ。



「小食だってことだよ。」

 

 聞こえるかどうかわからないくらい小さな声で付け加えた。



「だな。とにかく多かれ少なかれ金は必要だってことだ。この広い家をそのままにしておいても仕方ないし、副収入でもあったほうがいいだろ?」


「そんなに金が要る理由はなんなんだよ?」

「ああ、聞いてくれよ。お前も俺のプランを聞けば賛成するはずだ」

「まず、俺の部屋のインテリアが気に入らないから変えようと思う。スペインからの輸入品を買うんだ。床には極楽鳥の柄のアジア風のカーペットを敷いて、テーブルの上には中国産の陶器を揃えるんだ。どう?想像してみろよ。ビューティフルだろ?」



 ヒチョルは麻薬中毒のように光悦にひたって頭に描いているイメージを語った。



「結局おまえの部屋の家具を変えるってことじゃんか」


「来年の家賃でお前の部屋も改装してやるよ!」


「やってらんねぇな」

「本気で言ってるのかよ?なぁ?」

「下宿費なんて貰ったところでいくらだよ。すぐに金を返して追い出せよ」



 カンインはまるで噛み付くように早口で言った。しかしヒチョルも負けてはいなかった。


 「ゴージャスだった昔を思い出せよ!今のこんな生活に満足してるのかよ?俺は絶対にこんなのは嫌だね。おまえのためにここまで追い込まれてるのに俺に悪いとも思わないのかよ?」



ヒチョルは腰に手を当てて怒ってカッカと文句を言っているが、まるでこの喧嘩の原因であるジョンスの存在が全く目に入っていないようだった。疎外された状況で一度話を整理してみると、ヒチョルはとんでもなく豪華な家具を買うために下宿費をそっくり自分のものにしようとしていて、カンインは下宿生を追い出す勢いで…すると自分はどうなるんだろう?ここまで考えた末ジョンスは自分の状況すらちゃんと認識できずにいた。ジョンスはうんざりしてベッドから飛び降りて二人を止めに入った。



「ちょっと待ってくださいよ!ケンカはあとで二人でしてください、まず僕のことから解決しなきゃでしょ!」


「おまえはどいてろ!」


カンインはそういって突然ジョンスの頭を押しのけた。ベッドに仰向けにひっくり返ったジョンスはカンインが自分を押し飛ばしたということにとても腹が立った。



「いま、僕のことを押しましたよね?!」

「なんでお客さんにそんなことをするんだよ!」

「うちには客なんていないね。俺はおまえと話し合いなんてできないね」

「チッ!おまえは本当に!」

「僕の言うことも聞いてくださいよ」

「もう一回チャンスをやるから元通りにしろよ」

「おまえがなんでチャンスをやるとかやんないとか言うんだよ」

「あの人間はすぐに気がつくだろうよ」

「すみません!まだ僕の話は終わってないんですが」

「お前が過剰に反応しすぎなんだよ!いつでも強がってるくせに本当はばれるかどうか怖いんだろ?この野郎!」




 ヒチョルのカッと開いた目には怒りがこみ上げていた。それはジョンスも同じことだった。自分のことだけ考えて、初対面で首を絞めておいて謝りすらせず、見ず知らずの人間を突き飛ばすなんて…こんな人間が世の中にいるんだろうか?高圧的で前後を考えない家の主人はジョンスもお断りだ。


「僕の言うことも聞いてくださいってば!!この家には住みません!!」


 誰もジョンスの言葉に耳を貸さなかったのでジョンスは声を張り上げた。するとその場は静かになった。


「ジョンスさん大丈夫。すぐに解決しますよ」

「結構です。もう出て行きますから。契約金を返してください」

「それが…」


 ヒチョルは不安げに爪をカリカリ噛んだ。ジョンスは荷物を解いてなくて正解だったと思ってベッドの横に立てかけてあるスーツケースに手をかけた。勝利者となったカンインは満足げな表情を浮かべた。すると、わなわなと震えたヒチョルの声が聞こえてきた。


「その金…もう全部使っちゃったんだけど」

「どういうことですか?!まさか…一年分を全部使ったんですか」

「うん、そういうことです」



 もう、どうにでもなれだ。カンインとジョンスは揃ってあきれ顔でヒチョルを見つめた。ヒチョルは知ったこっちゃないという表情で顔を上げた。保証金すら取り戻すことが出来なくなったジョンスはやられた!とがっくりしてその場に座り込んで天を仰いで寝転がった。カンインはイライラしながら椅子から立ったり座ったりを繰り返した。



「金だせ」

「死んでも出さないさ!もうホ・ヨンガムに渡しちゃったし!」

「またヨンガムから何を買ったんだ?」

「言ったじゃん!インテリアをそっくり変えるって!輸入品に変えたってこと」

「明日朝一で行って返してもらって来い」

「ダメだね。もうあの下宿代は全部ホ・ヨンガムと一緒に海を越えちゃってるから」



 ありのままの事実を伝えるとヒチョルは更に開き直った。



「ヨンガムの野郎!不動産屋に古物商なんてやりやがって!いますぐ追っかけて行ってぶっ殺してやる!」


 カンインはこみ上げてくる怒りを抑えきれずさっきまで座っていたロッキングチェアを持ち上げてベッドの向こうに投げ飛ばした。椅子は壁にぶつかって大きな音とともに脚が折れてしまった。ジョンスはその騒動に一瞬びっくりして目をぎゅっとつぶって耳を手でふさいだ。目を開けてみると、いつの間にかカンインは出て行った後だった。ヒチョルだけがその場でしてやったりという笑みを浮かべていた。



「どうしてくれるんですか?」

「どうするって、ジョンスさんはこのままここで楽しく暮らせばいいんですよ。オッケー?」























 ヒチョルはジョンスの肩をポンポンと軽く叩いた後、全部上手くいくからとどうでもいい長話を繰り広げてカンインを追って出て行った。ジョンスは一人で部屋に座り込み詐欺にあったと床を手で叩きながら大泣きするだけだった。ここを紹介したホ・ヨンガムという奴も詐欺犯に違いなかった。金を懐に入れて海外逃走するなんて…実家の両親にこの事情をどう説明すればいいんだ?急にわびしさがこみ上げてきた。


 どうせもう今晩はここで寝たんだし、とジョンスはこみ上げてくる涙を一生懸命こらえた。ここは誰がなんと言おうと自分の部屋だ、一年間は死んだって自分の部屋だ…そうやって自分を慰めてベッドに横たわり両手を胸の上であわせてつぶやいた。



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