僕は晩酌をしない。しなかった。

お酒が嫌いなのではない。
気が置けない人たちとの宴席は大好きだ。
だから「お酒好き」だし「イケルクチ」。
ただ、一人で飲むお酒を、
おいしいと思ったことは一度もない。

田舎暮らしにおいて、
クルマに乗れないことは致命的だ。
夜中に家族に何かあったとき、
身動きが取れなくなってしまうから。
さらには仕事でも、
いつ何時に呼び出されても、
対応すべきポジションにいた。

だから、晩酌はしなかった。

眠れない苦悩の日々には、
気を紛れさせる為に飲んでみたりしたけど、
苦味が増すばかりだった。

このところ、離婚報告をする為に、
友人たちとの飲み会を幾つか持った。
心配してくれる友人たちは、
万障繰り合わせて、駆けつけてくれた。

慰め。労り。共感。叱咤。激励。

僕はビールを、いつもより多く飲んだ。
苦くて優しいビールを、いつもより多く飲んだ。