ねえ、お母さん、月見える?
見えるよ。
綺麗だね。
耳に焼きついてる母の声は、今もいるように、かえってくる。
良く見えるよ。って。
私が実家から帰ろうとすると、もう行くの?そう聞いた。
正直、鬱陶しくてならなかった。
毎日会ってるのに。
遠くに離れていて会えない親子だっているのに。
私は毎日帰宅前に様子を伺いに実家に寄った。
湯呑みに、白湯を淹れておいてくれる母。
私が手をつけないと
お湯のまないの?って。
そんなものいちいちいらないからって、口に出してしまったことがあった。
そんなことばっかり。
少しずつ感じた最後の時を、決して派手じゃないことをしながら私との時間を持ってくれようとしていたのに。
本当に無くさないとわからないことがある。あの時だっていつだって、頭ではわかっていたのに。
もしなくしてかなかったら、今もわかっていないんだろうか。
どうにもならない大切なもの。
欲しくて欲しくて、もう絶対手に入らないもの。
恋しくて恋しくて、どうすればそばに行けるのかと、ネット検索したりもした。
そうするとね、必ずでてくる命の電話の番号。
大丈夫。
決してそんな道をたどらないから。
お母さんに会いたいだけ。
ありがとう。
ごめんねって言わせて欲しかっただけ。
親が先に行くのが当たり前だなんてわかっている。
逆じゃなくてよかったじゃないって言われても、そうですねって言うしかないから、もう誰にも話さない。
理屈じゃない。
私がお母さんに会いたいだけ。
恋しくて恋しくて、ただ恋しくて、でもわかっている事はもう戻れないこと。