仲良かった飲み仲間が亡くなった。
その訃報は当時毎晩通ってたバーの常連仲間から、Facebookメッセンジャーで伝えられた。
珍しく入ったメッセージがその訃報だったのは残念だったけど、それでも彼女からそうして連絡を受けた事自体は嬉しかった。
それから私は、もう一人、同じ歳の友達にメッセージを送った。
彼もまた、同じバーで知り合った飲み仲間で、私のブログ、それと離婚した後に色々あちこち行ってた時にネットで書いてた日記も読んでくれていた。
こういう発信してるものは、知り合いや友人の全員に教えてるわけじゃなくて、この人なら読んで貰ってもいいかな?という人にしか教えてない。
ちなみに亡くなった友人には教えてない。
別にそこまで仲が良くないからとかそういうんじゃなく、私が書いたもんを読んでくれて、読者として公平な目線で感想もくれるような人に読んで欲しかったのだ。
彼には闘病するような病気で、余命とか伝えられる事態になったらちゃんと教えてよね、できる限り会いに行くからとメッセージした。
そして、もう一人。
やはり同じようにバーつながりの友達がいる。
でも、もう何年も連絡してなかった。
というのも、何があったのか知らないけど、疎遠になった。
2017年に日本へ帰った時、その亡くなった友人達とタコパするって話で、そのもう一人の友人に都合を聞いたんだけど返信がなかった。
たまにつっけんどんな時もあるけど返信しないタイプではないから、どうしたのかな?と思ってた。
この彼は、私が常連だった店とは違う店でバーテンダーをやってたんだけど、そこを辞めてからイス職人になり、独立して自分で工房をやっている。
しかもそれがかなり人気があるようだ。
インスタもすごい。
だから忙しい。
とはいえ、返事がないのはなんでなのか気になってたら、その亡くなった友人が「俺らも全然アイツと連絡してないんだよ。なんか…避けられてるっつーか、俺らもよくわかんねーけど」って話だった。
「とりあえず、ほっときゃそのうちまた連絡来んじゃね?」
って感じでその話は終わったんだけど、私もそこからその彼には連絡してなかった。
なんかもう違う世界の人になっちゃったからなのかな…?
ヤツは元々若干めんどくさい拗れ方する時あるし、何だかよくわからないけど、私もなんとなく「ほっときゃそのうち…」って思って連絡はしてなかった。
今回訃報を受けて、すぐ思い浮かんだのがそのイス職人の事だった。
「っていうか、アイツに連絡行ってるのかな?」ってメッセージくれた子に思わず返した。
イス職人の彼は、バーテンダー時代、その街でもかなり有名なバーでバーテンダーをしていた。
当時五年目でリーダー的存在ではあった。
老若男女問わず人気があった。
礼儀正しくて、人懐こさもあり、面白いやつだから。
私はその界隈のバーはだいたい飲み回ってたし、他の飲み仲間も同様に飲み回ってたし、なんならバーのオーナーやバーテンダー達もみんな顔出しがてら飲み歩いてたから、みんな知り合いとか友達になっちゃうんだよね。
そんなこんなでイス職人ともなんか友達になっていった。
しかもその街はそこそこ都会だけど、地元愛が強い町だったし、町内会とかも結構活発で、地域対抗でお神輿担いだり、横のつながりみたいなのが私の地元と違ってかなりしっかりしてるような土壌だったから、余計「仲間」になったらその関係が強い感じだった。
まぁ私はいつしかそれが窮屈になってっちゃって、その輪から静かに離れていったんだけど…
亡くなった友人もそうだった。
生まれ育った好きな街で、大好きな人達もいるけど、だから俺はここを離れると言ってた。
私も地元を離れたのはそれと似ている理由だった。
私は自分の地元を離れて、そのバーがある街でひとり暮らしを始め、その近隣の街を転々としながら今度はその街で働くことになって、それで当時の同僚とたまたま入ったバーが気に入ってひとりで通うようになった。
そこで出会ったのが彼らだった。
それまでは、仕事仲間しか飲む人がいなかったから、仕事仲間ぐらいしか友達がいなかったけど、バーで一気に交友関係が増えて、色んな人に出会えて楽しかったんだよね、最初は。
でもこうして繋がりの強いコミュニティに危険外来生物みたいなのがたまにやってくるんだよね。
マルチ商法とかいうやつ。
その大好きだったバーのオーナーがそれを始めちゃってさ。
私はその亡くなった友人と、そういうのを傍観して「最近あの店かったるいから他行くか!」みたいな話をして、しっくり来るバーを探していた。
しかしその亡くなった友人はイス職人が働いてるバーでそんなに毎日飲みたいとは思ってなかった。
そこはハコも大きいし、しっとり大人の雰囲気だから、私達が行ってたような地域に根付いた庶民的なバーではない。
それならば、という事で、地元のバーテンダーにも評判の店で、超隠れ家的な店に行くことにした。
駅から離れているので「あそこまで歩くのかったりー」とかぼやかれたけど行くことにした。
私は何度かそのイス職人とその同僚とその店に行った事があったけど、まだ一人で行く勇気はなかった。
でもマスターも女将さんも穏やかないい人で、雰囲気も他のバーとは一線を画していて、なんならマスターも女将さんも見た目はホントにバーやってますって感じの人ではなかった。
レコード屋の店員って感じかな。
昭和な例えだけど。
その店はこじんまりしてて、サイケっぽい、明るい洞窟みたいな感じで、ここならと思って一緒に来たのだ。
マスターが「ブランキージェットシティー」のファンで、イス職人もそのバンドのファンだった。
▲椎名林檎も大好きなバンド。彼女の歌「丸の内サディスティック」の歌詞に出てくるベンジーとはボーカルの浅井健二さんのこと。
私は周りにブランキーのファンがやたら多いけど、私はたまに聴くぐらいでぶっちゃけそこまで好きではなかった。
実は亡くなった友人も熱狂的ブランキーファンだったので、絶対そのバーの事も好きになるし、イス職人とも気が合うはず!という話をしたら、
「ふーん」って反応だった。
交友関係多いけど、好き嫌いもハッキリしていて人見知りな部分もあるやつだった。
狭いコミュニティなので、もちろんイス職人と亡くなった友人はお互い顔見知りで、名前も知っていたけど、なんか関わってこなかったみたい。
最初は、それこそ二人で借りてきた猫みたいに大人しくカウンターで酒を飲んでたけど、その日から亡くなった友人はその隠れ家バーをいたく気に入り、そこからはもうずっとそこでばかり飲んでた。
そして気づいたらイス職人とラブラブになっていた。
ホントにいつもいつもカップルみたいに一緒にいたので、その仲の良さも周りには知れ渡っていた。
その二人のラブラブな友人関係が、2016年か17年かのところでなぜか疎遠になった。
もう二人ともその街では暮らしてなかったから、その街で以前のようにいつも飲み歩くようなことはなくなってたけど、それでも多分みんななんとなく知っていたと思う。
二人が疎遠になってたのを。
狭いコミュニティが故に。
まぁだけど、絶対連絡は行ってるだろうとは思ってた。
だから彼の死を私がイス職人に知らせる必要はないだろうと思っていた。
知らせをくれた子が「ちょっと確認してみるね」ってメッセージをくれて、その後、私も久々にメッセージしてみるか…と、リストの中の彼の名前を探した。
疎遠になる前、イス職人とはかなり頻繁にメッセージはしていた。
けど、そのメッセージは2017年の帰国の時に返信がなかったところでピタリと止まってる。
彼とは、別に恋愛感情とかは全然なくて、弟みたいな感じというか、なんとも言えないけど、彼の人柄もあってか遠慮のないいい関係ではあったかなと思う。
彼の引っ越しを亡くなった友人と手伝ったり、あとは私の離婚届の保証人のサインもしてくれたり、私の中ではいい友達だと思ってる。
でも、久々にメッセージを送ろうとしてて、その手がちょっと躊躇してた。
なんて切り出したらいいのか?
今更ね。
彼とはケンカではないけど、一回彼が冗談だとしてもそれは言い過ぎだろ?と思う事を言ってきたので、ビシッと言い返したことがあった。
疎遠になったのはそれからだった?
過去のメッセージを辿ったけど、とりあえず疎遠になったキッカケがよくわからなかったし、もう十分「ほっときゃそのうち…」のその頃合いも来てるだろうから、亡くなった友人の名を借りるような気持ちでメッセージを送った。
彼からの返信はそんなに期待してなかったけど、ちょっとしてから返信が来た。
素気ない返信ではなく、私と同じくらいのボリュームで。
イス職人によれば、亡くなった友人との共通の友達からガンで闘病中という事と、余命半年という話を聞き、その時容体が安定しておらず、安定したら会いに行こうとしたら、その知らせの1週間後に亡くなったという話だった。
そしてもう何年も会ってなかったと言ってた。
「葬儀行くから、その時イッシーが最期に会いたがってた事もちゃんと伝えるよ。次帰ってきた時連絡待ってるよ。」
と、締め括られてた。
知らせをくれた友人と、このイス職人の話から、その亡くなった友人の逝き方は、穏やかにとか、潔く、彼らしくという言葉が綴られていた。
半年と1週間…
おい、だいぶ潔すぎだろ?
緩和ケアに切り替えてからすぐの事だったらしい。
知らせをくれた子も、このイス職人に連絡をしてたみたい。
最初はインスタでメッセージしたけど返信なかったから、メッセンジャーで送ったら返信が来て…という話だった。
タイトルに書いたRewire という英単語の意味は配線をし直すという意味らしい。
古い配線を取り替えたり、切り替えたりして正常に働く(通電させる)ようにする事なんだけど、なんか友人の死がまさにそういう事をもたらしたかなと思った。
一緒に飲み歩いてた時期は人生の中で考えたらほんの短期間ではあるんだけど、濃厚な楽しい時間を過ごせたんだなと、友人の死で改めて思った。
知らせをくれた子は、出会った当時まだ18-9とかで、今はもう30過ぎてお母さんになってる。
明日は彼の通夜だ。
今度帰ったらその子とは昔みたいにカラオケに行きたいし、イス職人とはメシでも行こうと思ってる。