私と同時期に入ったD山くんという、うちの薬局店員の話。


彼は薬学生ということで入店して来た。




D山くんの名前の由来は、うちのD猫さんと同じファーストネームで、山はマッターホルンのようにツンと鋭く尖った鼻から。


ちなみに彼は今でも常にマスクをしている。

そしてその鼻は九分九厘マスクからはみ出している。




彼が一年生だという情報と、立ち居振る舞い等々から察して18-9そこそこくらいの年齢だろうと踏んでいた。





最初にも書いたように彼は“薬学部の学生”なのである。


しかし、


ん??

あれ??



と思わされる事が多く、私が今まで他の薬局で出会って来た薬学部の学生や薬剤師とはちょっと違うなという違和感があった。




もちろん個人差はある。

だけど、やっぱりちゃんと勉強して今そこにいるんだなと納得いくような人たちが多いかな。





でも、D山くん。


一緒に仕事をすればするほど、どうしても彼が薬学部の学生であることが疑わしく思えてしょうがなかった。





例えば、彼は抗ヒスタミン薬とは何かを知らなかった。

薬学部の学生なのになぜ?





それからレジ締めのやり方を教わってる時に、


「2ドルくらいの誤差だったら気にしなくていいから。」


とマネージャーが言った時、


「2ドルくらいの誤差だったら気にしなくていいんですねー。ということは、2ドル余ってたり少なくても問題ないってことですねぇ」


と、しゃしゃり出て「自分横にいるこいつ(私)と違ってすっごく理解してます」的にアピールし出す。


しかも逐一それやるから、頭の中が言葉だらけになって更にごちゃごちゃになる。


流石に「だから今そう言ってたじゃん」ってツッコもうかと思った。





ま、いるよね?

たまに。


お前と会話してると話進まねーって感じの人。

ホント、まるで進次郎。





ただの過度な心配性とか、超確認魔なのかな?とも思ったけど、なんか不安そうな気配もなく、マスクからはみ出した鼻を天高く突き出させて超ドヤってる。



っていうか、しかもこいつ…


「いっしー休憩出てー」とか、ボスっぽく振るまう。


なんなのかなー?こいつ。と、私も一旦様子を見た。

ここの薬局ではただの薬局店員より薬学部の学生が上とか、なんかそういうのあんの?と。


ちなみに当時働いていたD山くんの他の薬学生も若干偉そうだった。



それとかD山くん、私が接客してる時に横から入って来たりもする。


しかも、私が言ったことをD山くんがまた言う。




「D山くん、私がこのお客様接客してるから、あちらのお客様お願い出来ます?」とか「向こうの売り場見ててもらっていいですか?」なんて伝えたけど、


「あはははー」と、笑うのみ。




ソーリーじゃないし、ましてやなんかしらの弁明もなかった。


で、同じ事をまたやる。



こいつどういう神経?



今まで色々酷いの見て来たけど、社会性なさすぎだろ。




それとか、おばあちゃんマネージャーやその他お局に服装の事を注意された時の話。



彼の制服の着こなしはうちの店ではちょっとないかなーと思えるようなもので、最初それを見た時は目ん玉が飛び出そうになった。



シャツはインせずアウト、しかも下はジョギングパンツで、ポケットに手を突っ込みながら接客をしていた。


っていうか、それを誰も注意しないのもドン引きした。




おばあちゃん店長にはスキーパンツなんか(ジョギングパンツ)履いてくるなと言われ、思いっきり反抗的な態度を取ったらしい。



そして、さらに彼はいかにもパジャマなスウェットパンツでやって来た。


「こないだD山くんに注意したら、もっとひどい状態になっちゃったわ…」と、おばあちゃん店長が呆れ口調で言っていた。



スウェットでは流石に来なくなったけど、いまだに彼は、頑なに“スキーパンツ”で仕事をしている。


どんなに注意されても、他の薬剤師に注意されてもそれで仕事に来ているし、ソーリーはなく、あははで済ます。




18-9だから仕方ないか…というレベルではないかな?これ。






さっきも書いたけど、薬学部の学生というのは、想像通り「高い教育」を受けている人たちで、大学に入る以前も既に勉強が出来てるというか、子供の頃から教育環境が整っていたのがわかる人たちばかり。


なんというか、ぶっちゃけみんなそれなりにお嬢様やらおぼっちゃまだったりする事が多いかな?



まず育ちの良さを感じるのが、彼らの身だしなみかな?と思う。


親や学校、周りの大人がTPOをしっかりわきまえているし、子供にも厳しく教育するから、こういう場面ではこういう服装をするっていうマナーが普通に染み付いてる。


基本、あんまり小汚い格好の子っていないし、職場で「穴あきジーンズ禁止」みたいなのは、言われなくてもちゃんと履いて来ないタイプが多いかな?



というか、別に普通の家庭で育ってきたうちのD猫さんでさえ、服装の常識みたいなのはきちんとしている。



パブに行く時は短パンは履かず、ジーンズであったとしても長ズボン、つま先が隠れている靴を履いてくる。


そうじゃないとパブに入れないからだけど、そういうのに対して「ちっ!めんどくせー」みたいなのはない。


そういうもんだからそうするってだけの事でやっている。


私はまともな教育を受けて来てる人の殆どがこういう感じだと捉えてる。




だから、D山くんのこうした振る舞い見てて、もしかしてホントは彼は薬学部生でもなんでもないのでは?と思えた。


そして他にも薬学部生ではないのでは?と確信できるような事があった。





以前、私が登録販売者の資格を会社の割引を受けて取得したい話をしたら、彼も食いついて来た。



いつものようにしゃしゃり出て

「俺もそれ取るべきですねー」とか言うので、そこにいた全員「なんで?」と、キョトンとしてしまった。



薬学部の学生は薬学部で薬のことを学んでいるので、それ以外の人が取るような資格を取る必要がない。


って、薬学生ならそんな事わかってるはずなのに、なんかおかしいなと思った。





そして、彼は医薬品以外のものも全然知らなかった。


薬局に勤めるのは今の店が初めてだとの事だったので、それなら仕方ないか。



うちの店の前はサニーバンクの寿司屋にいたらしい。

一応言っておくけど彼はアジア人ではない。



でも薬学部の学生なのに寿司屋?

それも妙な感じではあった。


たまにいるのかもしれないけど、他の薬局でそういう人は見たことない。




どこの薬局も、薬学部の学生はウェルカムだと思う。


薬のこと学んでるから色々一から教えなくても済むし、なんならみんな基本進んで学ぶ。



薬学生は、バイト探しの苦労はほぼせずに薬局で働ける。

基本時給も学年に応じて変わるので、4年生でカジュアルで働いてる人は結構な高給になる。



ほとんどの薬学生は薬局で働き、インターンのインターンのインターンみたいなことをやって経験と知識を積む。



自分がなろうとしてる職の先輩と仕事をして、バイトが学びと直結してる環境だから、自分がやってる事が好きであればすごく楽しいだろうなと思う。



そんなわけで、薬学部の学生が薬局以外でバイトするのはどれだけ妙な事かわかっていただけただろうか?








ちなみに薬局、薬剤師業界はとても狭い。


いろんな薬局で働けば働くほど、色んな薬剤師や薬学生さん達と出会う。


それぞれの出会いは違う薬局であっても、薬剤師同士が学生時代に同じ学校、もしくは同じ薬局で働いてた仲間だったり、現役の薬学部の学生同士がつながってたりはしょっちゅうある。



特にブリスベンの薬学部なんて、大学は主にUQかQUTの二択になる。

サウスに行くとグリフィスもあるけど、北側には基本いない。



先日Facebook見てたら、うちの薬局のUQ生と、前の薬局のUQ生が共通の友達として繋がっていて、こりゃあヘタなことはできないよねーなんて思った次第。



さらに、空港の薬局の時のマネージャーと、今の薬局でたまに入ってる薬剤師が、実は”師弟関係”みたいな感じで、空港のマネージャーが学生の時、うちの薬剤師さんがマネージャーとして空港の薬局で働いていたらしい。



だから、私が空港の薬局で働いてた話をしたらそれはそれはびっくりされたし、私もびっくりした。


まぁだからホントに立つ鳥後を濁せないし、渡った橋を燃やせない。


最初に働いた薬屋に関してはボーボーに燃やしたし、むしろ爆破したよなとも思うけど、まぁいいか。





今でも空港でたまにバイトしたり、今の前に勤めてた近所の薬局にたまに手伝いに行ってるんだけど、お金の為だけではないんだな、これが。



若干、保身の為でもあるよね。



薬剤師同士が繋がってた時に「いっしーはやめとけ」的な悪い噂みたいなのたてられちゃあ困るし、万が一、今の店がなくなったとしてもまた戻れる保険にもなるかな。


薬学部の学生、薬局のそういう狭い世界をざっと紹介したところでD山くんの話に戻る。





周りの話で、D山くんはUQの薬学部に通ってるという話だった。


彼の様子から色々信じられなかった私は、彼にやんわりと突っ込んできいてみた。


「いつから学校始まるのー?」とか、

「今何年生なの??」とか。



この時11月だったか12月だったか。


とにかくセメスターブレイクという期間中だったはず。


そんなわけで学生もたくさんシフトに入れる時期ではあった。


この時D山くん、週6とかで働いてたんだよね。

しかも彼はパーマネント。



だから、ちょっと「あれ?」って思った。

他の薬局で、休み期間だからと言ってこんなに働いてる子見たことないぞ?と。


まぁそこは人にもよるか。


彼は当時シティーで暮らしていて、地元はカブルチャーの田舎の方とか言ってたかな。



「休みの間地元には帰らないの?」


「あ、クリスマスには帰るつもり」


「学生なのに週6とか働いてるけど、大丈夫?そんなに働いてる子見た事ないんだけど?!」


「あ、学校はこれからなんだ。これから入学するんだよね。」





ん?と、なった。


え?今現時点で一年生で、来年から二年生になるんじゃないの?



でも、彼がこれから入学という事はつまり高校出たばかりなわけで、彼の振る舞い等々もなんか納得できた。


そりゃ抗ヒスタミン薬自体の意味を知らなくても当然だし、社会のことわかんないのも仕方ないか。




そんなわけで私は彼が18-9だと思い込んでいた。







年明けのある時、QUTに通ってる他の薬学生が、


「なんか普通こんな時期に学校スタートするかなー?」と、首を傾げてた。



彼女もD山くんに対してなんらかの疑念を持ち始めていた。



「ま、でも彼UQだから知らんし。でも、変。」



うちの薬局でQUTに通ってるのは彼女だけ。

あとは全員UQの子達。



そしてD山くんと同じ学年の人はいないし、この時現役薬学生は、彼女とD山くん、あともう一人しかいなかった。



だから、なんか変だな?とみんな思ってても、証拠がない。


というか、みんな自分の学業が大変すぎて他人の事なんかに構ってはいられない。



2月になって学校が始まったら、彼はシフトを減らすと言っていたが、それでも週4で働くって話だった。



「パートタイムで学生やるから」と、D山くんが言っていた。



…ほう?

まぁあり得ない話ではないか。




まだ年が明けたばかりのこの時期に、もう一人カジュアルで薬学生が入って来た。



マレーシア出身の子で、次二年生になるって話だった。



掛け持ちで他の薬局で働いていて、すごくテキパキしてるし、素直だしいい子だなぁと感心してた。


しかも4ヶ国語話せるからね。


すごいよね。


語学スキル、うちの店ではホントに超ありがたい。



彼女はパートタイムでUQの学生をしている。

D山くんもUQでパートタイムの学生だ。



でも、D山くんはこれから一年生。



学年が違うか。


と、この時は思ってた。






長くなって疲れたので次回に続く