うちの店に勤続50年のおばあちゃん店長がいた。


まぁ店長って言ってるのは語呂がいいからってだけで、薬局のリテールマネージャーなんて実際はあまり権限がない。



「いた」って過去形になってしまっているんだけど、タイトルの通り彼女はもう退職してしまった。




二月ぐらいだったっけな?

彼女の94歳になるご主人がなんかの感染症で病院へ担ぎ込まれたって話だった。




まぁ年齢も年齢だから相当危ない状態だったらしい。

でもその後何も知らせを聞いてないから、おそらく峠は越えたのだろう。


すごい生命力だなと思う。




そんなわけで店長、しばらくケアラーズリーブ(家族の看病のための有休)を取ってた。



彼女、よっぽどのことがなかったら休まなかったらしいから、相当な日数のリーブが貯まってて、彼女が来なくなってから数ヶ月経った今でもまだ有休(病欠/看病)状態なんだよね。びっくり



だから退職した…と言っても実はまだ正式には辞めてないのさ。



退職させずに病欠/看病手当を消化してるのは、長年働いた彼女への労いみたいなもんなんじゃないの?知らんけど。



普通退職ってなったらこの休暇については自然に淘汰されてしまい、いっぱいあろうがなかろうがお金として戻ってくる事はない。


一方のアンニュアルリーブ(普通の有休)は退職時に未使用のものは換金される。


だから「シックリーブは効率よく使え」なんて言う人もいるよね。





ちなみに彼女はほとんどホリデーも取ったことないらしい。


オージーなのにちょっと珍しいなと思う。



普通、みなさん職場の状況なんか気にせずガンガンホリデー取りまくるからね。





長年の常連客や、製薬会社等の営業さん達におばあちゃん店長のことをきかれ、


「実はリタイアしました。」


っていうと、特に驚きもせず、みんな「でしょうね」って感じ。



いや、もうちょい「えっ?!」みたいなリアクションねーの?って思うくらい薄いリアクション。


こっちが逆に「えっ」て引くわ。





長年彼女と一緒に働いて来た人から聞いた話。



彼女はうちの店がオープンした時からショップガールとして働いて来たんだそうな。



私は面接の時、当時のマネージャーから彼女が18歳の時からと聞いてたけど、実際は13歳からだってよ。キョロキョロ



っていうかどっちが本当なんだ?

彼女72歳とも75歳とも言われてるけど、勤続50年だったらどう計算しても70代にはならないしね。



それにご主人が93-4だから、60代だとちょっと離れすぎだしな…


っていうか、75だとしてもご主人と20歳ほど離れてるんだね。


彼女のプライベートは何も知らない。

私にとっては謎だらけだし、実は周りの人もそんなに彼女のことを知らない。



っていうか、子供とか孫とかいるのかどうかも聞いた事ないな。


大概そう言う話って聞いてなくてもして来るイメージなんだけど、彼女からは全くない。

わざわざこっちから詮索するみたいな事もしたくないしね。






店長、最初はブリスベンのアルバニークリークだかどこかから通ってたんだけど、結婚を機にゴールドコーストから通うようになった。


しかも、偶然にもD猫さんの実家と同じストリートだったりする。


そこに家を購入したのは1982-3年の事で、それ以来そこからブリスベンに通っている。


40年前って…

D猫さんすら生まれてねーし。



マジで意味がわからんよな。キョロキョロキョロキョロ

その時代、ゴールドコーストには仕事がなかったんだろうか?


昔は逆にブリスベンに仕事がないからゴールドコーストまで通ってた的な話が聞いた事あるけど。





ちなみにD猫さんの実家はハイランドパークというサバーブにある。



D猫さんと暮らす前は、毎週木曜日に彼がゴールドコーストからブリスベンに車で来てた。



その距離約80km。



決して近くはないよな。




日本だったら…うちの地元からだったら、だいたい小田原行ける感じ。



小田原って普通に旅じゃん。滝汗




毎週旅するD猫さんにでさえ、物好き…いや、タフだなと思ってたけど、彼女はその距離を週4-5日ペースで、平日は電車、土日祝日は駐車場$5だからって車で通ってたわけよ。




とりあえず、みんな




なぜ?



って思ってたよ。



家の近所にいくらでも薬局あんだろ?って。

なぜそこまでブリスベンのあの店に拘ってたんだろう?


マジでそこは聞きたいよな。

多分どこかのタイミングからは辞め時を見失い、ここだー!って終止符を打つ勇気も気合も無くなって、歯車に噛み合ったような感じでただ毎日同じように流れるように生きてたんだろう。



彼女のこと嫌いではなかったけど、でもこの人いるから色々めんどくさいんだろうなって思えることが多々あった。



私がこんなこと言うのもなんだけど、彼女、なんかちょっと変わってたと思う。



最初は古い人間ならではの、そして長く同じ場所に留まってる人の独特の感性だと思ってた。


でもなんかそれだけじゃないよなぁっていうのがしばらく仕事していくと見えて来た。


彼女が職場を離れてからは彼女こそが「排他的な人」だったという事を思い知った。



2番手として君臨してきたバイポーラのお局もまたすごく排他的な人で、まるで田舎の村社会って感じなのはこいつのせいかと思ってた。



でも、おばあちゃんがむしろもっとヤバかったんだと今だから思える。




彼女の存在が薄れるにつれ、そういう新しい人、若い人を輪の外に置く事に注力している空気も薄れていっている。



長年いた薬剤師曰く、彼女は年々失礼な人間になって来ていると言う話で、以前はかなり人格者だったけど、年齢的な問題もあるのかなんなのか理由はわからないが、ここ2-3年特に酷く排他的になって来てると言っていた。



私が今の店に来たばかりの時、


「この店で仕事をしていいのは私たち(お局4人衆)だけ」


みたいな状態だった。



でも彼女たち仕事めっちゃ遅いし、リウマチあったりする人もいたり、そもそも体力もないから、入荷した品物とか私だったら一発で運べるものも数往復して出したりしてる。


「体力仕事なら私やりますよ?」と言っても、


「問題ないからあなたは店番してて」と、断られてた。



こんな感じなのにお局達、



「あの子達は何もしない!私たちはコレもあれもやってるのに!」とか、キレだすわけ。



じゃあ何して欲しいんだよ?

うちらはうちらのできる事精一杯やっとるわ。



今はおばあちゃん店長がいなくなり、バイポーラさんがその仕事を担ってから彼女の負担が増え、必然的にちょっとずつ、私たちにも色々仕事が振られるように。



って言うか、バイポーラさんすぐテンパるからね。

仕事を人に振るって言う決断力がないんだよね。


自分が知っていることや当たり前だと思ってることを知らない人の世界観を理解出来ないから、教えるのとかもすっごく下手くそなの。


自分でも教えるの下手なのわかってるから、結局自分でやっちゃった方が早いってなっちゃうんだよね。


それで新人育たないっつーか、そもそも育てるという概念がないよな、うん。


なんかこのお局だけじゃなく、オーストラリア社会って結構こういう人多いかな?






話それたけど、うちらスタッフも色々仕事を任されるようになったおかげか、ここ最近はおばあちゃんがいた時よりも、全体的にオープンエアーな感じになった。




おばあちゃん店長は基本穏やかなんだけど、どこか日本人的な「事なかれ主義」がある人だった。



オーストラリアにも何気にいるんだな、こういうタイプ。


自分の保身だけを考えてるような。


っていうか、結局こういう人はどこにでもいるんだなって思う。





…なんかおばあちゃん店長のことを思い返すと色々愚痴ばっかりになってるな。キョロキョロ


そこまで嫌いでもなかったんだけども。




って言うかむしろ、その歳になっても自分が働きたいと思って働いてるならハッピーで、素晴らしいことだなと思って見てた。



経済的に困窮してて嫌だけど働かなきゃいけないとかだったら悲しいけど、幾つになっても働くのが好きで、それが幸せだったらいいよねって思う。



だけど、そうして年を取っても社会に貢献したいと思うのであれば、昔の考え方とか今までのやり方的なのに固執するのは良くないね。



他のお局方も同じだけど、マネージャーが変わる度にマネージメントが変わるのは当たり前なのに、それでキーキーと「昔はこうだった!」と怒るのとかさ、昔習った知識をアップデートせずにいて、それを正しい!と思い込んで押し付けて来るのとか、それが「老害」ってやつなんだろうなって思うよ。



老害って言葉、嫌いだから軽々しく使いたくないけどね。




常に何からでも学ぼうとする謙虚さを、生きてる限り養っていかないとって改めて思ったよ、彼女たち見て。








で、6月の初めくらいだったか。



日曜の朝、うちの店の前に見慣れた懐かしい姿があった。



おばあちゃん店長だった。



今、上で色々愚痴った私だったけど、元気そうな彼女の姿を見て素直に嬉しかったし、彼女の名前を呼んで大きく手を振ったよ。



彼女は私服で来てた。



たまにバイトしに来る、医学生の薬剤師におばあちゃん店長きてるよー!!って言ったんだけど、彼「あ、うん」ぐらいの反応だった。ニヤニヤ


しかも「彼女何しにきたの?」とか言ってたし。



結構一緒に仕事してただろ?

冷た過ぎじゃね?キョロキョロ




おばあちゃん店長は自分の私物を事務所に取りに来たらしい。


色々どっさりと店の搬入用のワゴンに積んでたわ。




まぁ50年もここにいたんだから仕方ないわな。




そして彼女は帰り際、私に


“Good bye, I won’t be back here”と普通のトーンで言った。(※さよなら、もうここには戻らないわ)






うええええええ?!ポーンポーンポーン




あっさり過ぎじゃね?!




なんかこう、もうちょいドラマチックでも良くねーか?

せめて花束の受け渡しとかさ。



長年の常連客だっているのに。




翌日、バイポーラじゃない方の優しいお局に、前日おばあちゃん店長が来たことと、彼女がもう戻ってこないって言ったことを告げたら、


「えぇ?!…あっそう。そっかぁ。まぁ仕事しながら旦那さんの事やるの大変だもんね。」と、ストンと肩を落とし、ため息混じりに言った。



ちなみにおばあちゃん店長の旦那さんはもう退院してて、今は受け入れてくれる老人ホームを探しているところらしいんだけど、コレがかなり難航してるみたい。



でも私が以前同僚から聞いたのは、彼女たち、お互いのどっちかがボケたり病気になったりしても絶対にそういう施設へは入れないで、お互いがお互いの面倒を見るって約束をしたらしいんだよね。



でも、それは若くて元気だった時の約束じゃん?



年を重ねたらどうなるか?

体力や判断力がどのくらい落ちるかなんてわかんないじゃん?



その約束とやら、

「つか、破っちゃってんじゃんw」って思うかもだけど、実際こうしてお互いに後期高齢者になったら、当時思い描いてた感じと状況ちがってて、その約束を破らざるを得なくなったのは仕方ないと思うんだよね。



だからお互いの今の幸せを考えられる賢明な判断ができる人達なんだろうなと思った。


きっと簡単な決断ではなかったかもだけど。




そして私はお局に「50年も勤めた人に何の花束も渡してないし、リタイアなんだからなんかもっとこうお祝いとかパーティーとかしてあげたいんだよな…」って話したら、



「あぁ、大丈夫よ。彼女そういうの好きじゃないのよ、パーティーとか。だからやるって言っても多分来ないわよ。」



って言われた。ニヤニヤ



やっぱなんかこう排他的なんだな。






そんなわけでおばあちゃん店長はこんな感じであっけなくリタイアしてしまった。



もう少しなんかこう華々しく送り出してあげたかったけど、そうすることがその人の幸せとは限らないもんね。



なんかこのおばあちゃん店長を通して色々年の重ね方みたいなの考えさせられたよ。




※日曜日の日本時間19時に久々に動画あげます。

お楽しみに!



▼前回上げた動画も観てねー