第183回国会(常会)を終え、政治は7月21日投開票予定の第23回参議院議員通常選挙へと焦点が移る。今日は会期末関連の新聞記事をいくつか読んでいて考えたことを書いておきたい。

衆議院のHPによると、今国会で可決成立した法案は73本、内閣提出立法が63本(提出件数75本)、衆議院提出立法が7本(同49本)、参議院提出立法が3本(同32本)である。議院内閣制を採用している性質上、提出・成立法案数で行政府の方が立法府を大きく上回るというのが日本の政治の特徴と言えるだろう。(米国の場合、そもそも行政府に法案提出権が認められていないため、立法は全て連邦議会上下両院議員の手によって行われる)。

民主党政権下での最後の常会である第180回国会での内閣提出立法は83本で、可決成立は55本、成立率は66%であった。これに対して今国会での内閣提出立法の成立率は84%であるから、定量的に考えると自民党政権になって「決められる政治」になったと考えて良いのかもしれない。

一方で、18本提出された条約のうち9件が会期末の混乱により審議未了・廃案となってしまった点は指摘しておきたい。今回審議未了・廃案となった条約の多くが、内容に問題があるというよりも、国会への提出日程ゆえに会期末政局に巻き込まれたと考えた方が良いだろう。

さて、かくして今国会では73本の法律が成立したが、我々有権者はどのような法律が成立し、それによってどのような影響を受けるかという点を意識しているだろうか?もちろん73本の法律全てについて熟知している必要はないし、そのようなことは立法者たる国会議員でも不可能であろう。しかし、昨年12月の衆院選において関心を持った政策が今国会でどのように取り扱われたかについて考えることは可能である。

国会の会期末には新聞の政治面において「今国会で成立した法律」というコーナーが設けられるが、その多くは成立した法律名の列挙にとどまり、その法律の目的や内容、法案審議過程などについてはほとんど紙面は割かれない。むしろ、会期末の政局取材に力点が置かれる。国会会期末の政治面を読むだけでも、大手新聞社の政治部がもっぱら政局や人事の取材には力を入れるが、政策の取材に力を入れているとは言いがたい現実が見えてくる。

有権者は主に新聞やテレビを通じて政治のニュースを得る。しかしながら、新聞やテレビで展開される政治のニュースの多くは政局や人事のニュースであり、政治本来の政策についてのニュースは非常に少ない。有権者の側が政策について知りたいと思っても、マスメディアはそれを報じてはくれない。マスメディアという媒介物が機能を果たしていないのであれば、政治家や官僚、学者、専門家の話に耳を傾けようと思っても、彼らの言葉は何だか難しい…。これが多くの有権者の抱く本音なのではないだろうか。

もちろん政治家や官僚、学者、専門家並に政策を語るべく様々な政策課題について勉強するというのもひとつの手であろう。しかしながら、それには途方も無い時間がかかるであろう、とすれば、自分として関心を持つ政策を絞込み、それらについて自分の考え方をある程度構築することにしてはどうであろうか?

例えば、働きながら子育て中のママであれば、どうすれば「働きやすいか?」、「子どもが安心して成長するのにはどのような環境が必要か?」といったことを自分なりに考えてみる。その過程で、「こういうのがあったらいいな」という想いが出てくるはずである。その「あったらいいな」を実現してくれそうな政治家や官僚、学者、専門家の話に耳を傾けてみる、本を読んでみる、調べてみることで、関心を持つ政策課題への理解は深まるはずである。

たった一つの政策課題に関心を持ち、それだけを根拠にして投票行動につなげるだけでも、その一票には「何となく」ではない「価値観」が込められることになる。有権者一人一人が何がしかの政策課題に関心を抱き、各人の「価値観」が反映された投票を行うことができれば、無関心と雰囲気で決まってしまう政治からは脱却できるはずである。

民主政治において大切なことは、常に自分なりのレベルで政治への関心を保つことである。単に選挙に行くだけではなく、自分なりに関心のある政策課題についてはどのような進捗状況にあるのかという点をある程度把握しておくことである。その際に、机上の理論や数値だけではなく、肌で感じるということも重要であろう。上述の子育て中のママの例であれば、「お、新しい制度のおかげで保育園の待機児童の数減ってきてるな」といった感じである。

7月には参議院選が予定されている。昨年12月の衆議院選同様、今回の参議院選においても「誰に投票すればよいかがわからない」という意見が出てくるであろう。候補者と政党が乱立し、様々な争点が存在するがゆえに出てくる意見であろう。そこで私は次のような考え方を提示しておきたい。

すなわち、自分の関心のある政策を3つに絞り込んで、その3つについてのみ各党のマニフェストを読み比べてみる。マニフェストを読み比べて最も親和性の高かった政党とその候補者に票を投じる、というものである。

候補者と政党が乱立し、様々な争点がある際に忘れてはならないのは、「自分の考えと完全に一致する候補者も政党も存在しない」ということである。とすれば、自分自身が重視する政策課題に対する取り組み方が「比較的近い」と思える候補者や政党を選ぶことが、「比較的正しい」あるいは(自分にとっては)「おそらく間違いではない」ということになるはずである。

「完璧な人間はいない」という事実には多くの人が賛同するであろうが、こと選挙の際に我々は「完璧な候補者と政党」を求めようとする。候補者と政党もまた我々人間同様に不完全な存在であることを考えると、より自分の価値観や考え方に近いと思える候補者や政党を選び、選ばれた後は自らの価値観や考え方を体現しているかをチェックするという姿勢を持ってはどうだろうか。