先日、六本木にて”Road to Kingdom of Saudi Arabia”(RKSA)と題した講演会を開催した。当日は主に私自身の生い立ちを話したうえで、ここ数カ月で学んだサウジアラビア情勢の一端を披露した。当日残念ながら参加できなかった方々もおられ、講演内容のシェアを求める声がそれなりにあったため、当日話した内容の一部と追加内容について今回から数回に分けてブログの方にアップすることにした。

講演会冒頭でまず次の質問をしてみた。「以下にあげる国に、ビジネス、観光を問わず行ったことがあるか?」というもの。その国とは、①中国、②アメリカ(ハワイなども含む)、③オーストラリア、④アラブ首長国連邦(UAE)、⑤韓国である。遅刻者もいたため大体25人くらいであったと思うが、この問いに対する答えは次のようになった。①中国(12人)、②アメリカ(14人)、③オーストラリア(4人)、④アラブ首長国連邦(2人)、⑤韓国(9人)である。ちなみにサウジアラビアに行ったことがある人は0人であった。(ただし、遅刻してきた1名が仕事で渡航経験あり)。

上記の国々にサウジアラビアを含めた国々にはある特徴がある。それは、2012年度の財務省貿易統計における日本の輸入国の上位6カ国である。(1位中国、2位アメリカ、3位オーストラリア、4位サウジアラビア、5位アラブ首長国連邦、6位韓国)。サウジアラビアとの地域的・経済的・文化的類似性の高いアラブ首長国連邦でも2人が訪れていることを考えると、4位にランクインしながらサウジアラビアを訪れた人が皆無というのは、この国が容易に訪れることのできる国ではないことを物語っている。

実際、サウジアラビアに入国できる人間は限られている。就労による長期滞在、商用による短期滞在、あるいはイスラム教徒の巡礼(ハッジもしくはウムラー)でなければ入国することが極めて難しく、いずれの滞在もそれぞれの目的に合わせたビザが必要となる。地域的・経済的・文化的類似性の高い湾岸協力会議(GCC)諸国(サウジアラビア以外に、UAE、クウェート、カタール、オマーン、バーレーンで構成)のほとんどがビザを必要とせずに渡航できるのと比較すると、入国することが非常に難しい国である。バックパッカーをやっていた友人や、海外取材を行っているフリージャーナリストの友人曰く、「世界で最も入国することが難しい国」とのことである。

後ほど触れる外国人労働者の不法就労問題もあって、サウジの就労ビザ取得は非常に難しい。就労ビザ取得のためにはサウジ国内の就労先企業(スポンサー)からInvitation Letter(招聘状)を発行してもらう必要がある。招聘状発行の際、詳細なCurriculum Vitae(職務経歴書)が必要となり自らの学歴と職務がリンクしていないと招聘状自体が発行されないということもある。招聘状が発行された後も、様々な理由がつけられては申請手続が遅れることがある。

私の場合はビザ申請が3か月以上遅れているわけであるが、その理由はサウジ当局側の問題というよりは、社内事情に起因する招聘状発行の問題にあった。この点についての詳細な説明はこの場では割愛したい。

日本人にとってサウジアラビアは就労ビザを取ることも難しく、そこで働き続けることも難しい国である。そのことはサウジアラビア在留邦人の数からもうかがい知れる。外務省の統計によるとサウジアラビア在留邦人は829人(人口2,920万人)である。輸入相手国5位のUAEに3,270人(人口920万人)、同7位のカタールに1,078人(人口202.5万人)と比較しても、極端に少ないことがわかる。(人口との比率で考えた場合、その少なさは顕著である)。

しかしながら、上述の通りサウジアラビアは日本の輸入相手国としては4位に位置しており、日本の輸入相手国として確たる存在感を示している。2012年度のサウジアラビアからの輸入総額は43,757億円、そのうちの93%にあたる40,233億円が原粗油輸入で占められている。原粗油分野の輸入については2001年度から現在に至るまで首位を維持し、全体の32.9%のシェアを占めている。

日本人がサウジアラビアを訪れることが稀であるという事実に反して、日本の経済的繁栄はサウジアラビアなくして存在しない。我々日本人にとってのサウジアラビアの一般的なイメージは、石油、王族、イスラム教といったところであろう。次回からは、自分なりに調べてみたサウジアラビアの政治、経済、社会の現状について少しずつ触れることとしよう。


【参考資料】
財務省貿易統計「輸入相手国上位10カ国の推移」 http://www.customs.go.jp/toukei/suii/html/data/y5.pdf 
外務省「サウジアラビア王国基礎データ」 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/saudi/data.html