前回はサウジアラビアのイメージの一つである王族について触れた。今回はサウジアラビアのもう一つのイメージである石油について書くことにする。

周知の通りサウジアラビアは世界最大の産油国である。石油産出量は日量1,153万バレルであり、世界全体の産出量2,940万バレルのうち40%を占める。サウジアラビアの総輸出額3,960億ドル(40兆3,920億円、1USD=102JPY)の9割にあたる約3,500億ドル(35兆7,000億円)、税収の8割にあたる約9,000億SR(24兆3,000億円、1SR=27JPY)を石油収入に依存している。豊富な石油収入が外貨獲得の手段であり、公共財・サービスの原資となっていることを考えると、石油こそがサウジアラビアの国益の源泉であることは間違いない。すなわち、サウジアラビアの財政、内政、外交を考える上で石油という要素を無視することは不可能である。

上述の通り税収の8割を石油収入に頼っていることから、その税収も原油市況の影響を強く受ける。近年は原油市況の高騰により手厚い公共財・サービスの提供が可能となっているものの、将来原油市況が下落した際には現在のレベルの公共財・サービスの提供は難しくなるであろう。サウジアラビアにとっては、自国に望ましい形での原油価格を維持する必要があり、これを目的として石油輸出国機構(OPEC)を通じた石油価格と石油生産量の管理が図られる。

また、外交政策においては中東地域の安定という観点だけではなく、自国にとって望ましい石油価格を実現するという観点に立って行動する。たとえば、イラン問題においてイランの国際社会からの孤立を志向する背景には、経済制裁によってイラン産原油を国際市場から締め出す目的がある。対イランの経済制裁が緩和されることで、イラン産原油が国際石油市場で取引されるようになることでサウジアラビアの原油取引価格を引き下げるおそれがあるためである。

サウジアラビアの石油輸出先はアメリカ、日本、中国、韓国であるが、シェール革命の進展によりアメリカが輸出相手国から消えてしまう。北米におけるシェール革命はアメリカという最大輸出国を単純に失うのみならず、サウジアラビア産原油の価格下落や中東地域の安全保障環境の激変をもたらす可能性がある。上述の通り、原油価格の下落はサウジアラビア国内の公共財・サービスの質の低下を招き、国内の混乱を誘発するおそれもある。以上のことを考えると、シェール革命の進展はサウジアラビアにとって外交・安全保障政策、財政政策、国内政策と大きく関係している。

さて、次に石油分野におけるサウジアラビアと日本の関係を見てみよう。第1回目でも見た通り、日本にとってサウジアラビアは輸入相手国の第4位に位置する。とりわけ、原粗油輸入においては2001年以降現在に至るまで首位を維持し、そのシェアは原粗油輸入全体の3分の1を占める。このことからもわかるように日本のエネルギー政策上、サウジアラビアは非常に重要なパートナーである。

一方、サウジアラビアにとって日本はアメリカに次ぐ第2位の輸出相手国であり、今後のシェール革命の進展を考えると将来第1位の輸出相手国となる潜在性を秘めている。また、公共インフラ開発、産業インフラ開発、石油化学分野において依然として日本企業の存在感は大きく、サウジアラビアにとっても日本は重要なパートナーと言える。

以上見てきた通り、サウジアラビア経済においては石油こそがその根幹をなす。近年は石油市況が好調であるため税収も安定している。2013年度予算は歳入1兆1,300億SR(30兆5,100億円)に対して、歳出は9,250億SR(24兆9,750億円)であり、財政黒字は2,000億SR(5兆円)となる。2013年度のサウジアラビア政府の公的貯蓄は1.6兆SR(43兆2,000億円)とされ、近年の好調な石油市況により富の蓄積が一層進んでいることがうかがえる。

しかしながら、これらが全て好調な石油市況に支えられているという点を忘れてはならない。石油市況に支えられているという事実は裏を返せば、石油市況が下落した際には歳入が一気に落ち込むことも考えられる。近年サウジアラビア政府もその点を十分考慮して経済政策を行っており、金融、教育、医療、ITといった非石油分野への公共投資にも力を入れている。

膨大な石油埋蔵量と優良な輸出先を抱えていることから、今後もサウジアラビア経済が石油によって成り立ってゆくことに変わりはない。しかし、非石油分野における起業も少しずつ見られることから、「石油だけ」の国家から脱却する機運も少しずつ現れているという点は忘れるべきではないだろう。