到着当日の入国審査とロスト・バッゲージ騒動を経て、2日目は居住許可証(イカーマ)と運転免許証申請のための健康診断と会社の入構ID申請を行った。入構ID申請については会社の関係の話となってしまうので、ここでは割愛させていただきたい。ただ、こちらも発行されるまでには入国審査同様に時間がかかった。

今回訪れた病院は”National Clinic”とあったからおそらくは国立病院であろう。外国人労働者の検査専門の病院のようで、外国人の比率が非常に高かったように思う。パッと見ただけでも我々日本人の他に、中国系、インド系、欧米系、東南アジア系の労働者と思しき人が数多くいた。

面白かったのは、同じイスラム教徒であってもサウジ人と思しき女性は目の部分だけしか出ていない黒服を着ているのに対して、インドや東南アジア系の女性は顔全体を露わにした黒服を着ていたことである。以前、クーリエ・ジャポンの記事でも読んだ記憶があるが、国や地域、宗派によってどこまで露出してよいかが決まっているのだろう。

今回の検査内容は血液検査とX線検査で、検査自体はものの数分で終わったのだが、検査に至るまでと、検査後の書類を回収するまでにかなり時間がかかってしまった。検査後、ID申請と会社での今後の業務説明を受けて帰宅した。

ちょうど日没に近い時間だったので、部屋から歩いて5分くらいのところにあるビーチまで散歩をした。ビーチでは親子連れが遊んでいる。子どもたちは海の中に入って泳いでいるが、母親と思しき女性はアバヤをまとって子どもたちが泳ぐのを見ているだけである。「家族以外の男性に肌を見せてはならない」というイスラムの戒律が、結果的には女性が海水浴を楽しむということを禁止していると考えた方が良いのだろう。紅海に沈みゆく夕陽とアバヤをまとった女性のコントラストは何とも美しかった。

紅海に沈みゆく夕陽はサウジに来る前から何としても観たい風景のひとつだった。この風景を観ながら自分は何を思うのだろうと何度も想像していたけど、やはりその想像の中で考えていたことと同じことを考えていた。この時何を考えていたかについてはあえてここでは書かないことにする。もしも書きたいと思ったり、話したいと思ったりすることがあればいつの日かふれたいと思う。



夕陽を観て少しばかりセンチメンタルな気持ちになった後は強烈な空腹感に襲われた。考えてみれば、サウジ到着以降まともな食事をとっていなかったのである。(到着当日は疲れきってしまい食事を取らずに眠り、この日は朝食をとらず、昼食にカップラーメンを食べただけであった)。コミュニティ内にある日本食レストランに赴き、夕食をとることにした。

コミュニティ内には日本人シェフが常駐している日本食レストランがあり、豚以外の食材を用いて本格的な日本食を愉しむことができる。非常にクオリティが高いことから、遠くジェッダの日本人会がこの店の食事を楽しむためにわざわざラービグで催し物を行うくらいなのだという。

店に到着するなり、いきなり名前を呼ばれた。既に赴任している同期が夫妻で夕食をとっていたのである。入社前から比較的仲の良い同期で、こちらに赴任して4~5年ほどになる。この店を利用していることは以前からよく聞いていたから、「もしかして」とは思っていたが、初めての来店時から会うことができた。

日本人シェフが2人常駐しているとのことだが、ホールスタッフは全てアラブ人のようだ。だが、日本人従業員が数多く利用するということもあり、ホールスタッフは片言の日本語をしゃべることができ、日本語のメニューも置かれている。今回は本日の定食(Today’s Set)のチキン味噌かつ定食を注文した。御飯と味噌汁付きで30SR(810円)であったから、社員食堂で食べるよりは少し高いが、大戸屋で食べるのと遜色ない金額と言える。味も日本の一般的な定食屋で食べるものとほとんど変わらないかそれ以上であり、ここがサウジアラビアであることを考えるとクオリティは非常に高い方だと思う。

この店はこれ以外にも丼物、うどん、そば、ラーメン、寿司などが充実しており、Sushi Dayなるイベントもあるらしい。私はこの店がすっかり気に入ってしまい、皮肉にもサウジ入国以来未だに本格的なアラビア料理を食べていない有り様である。

さて、次は日用雑貨や食料品についての話をしよう。私の住むコミュニティ内にはスーパーが併設されており、大概のものはここで購入することが可能である。物にもよるが、物価は日本と同じかやや低く、品揃えは決して悪くない。ただし、日用雑貨も食料品も欧米系の物が多く、日本製品はほとんど見ない。(今のところ私が目にした日本製品はキッコーマンの醤油だけである)。

特に食料品については、イスラム国であることから厳格な基準が定められている。日本製品が少ない理由は単に市場拡大を図れていないというよりも、ハラール認証についての知見が浅いことに起因するのではないかというのが私の見方である。

日本の場合、同じ製品であっても様々なサイズが存在するが、サウジの場合(もしかしたら他の国でもそうなのかもしれないが)、一つ一つの製品のサイズが非常に大きい。これはサウジが大家族であることにも起因するのであろうが、欧米系企業の大量生産大量消費を見事に体現し、サウジもそれを当てはめられているということではないかと思った。そう考えると、日本の市場というのは汎用品であってもマーケティングが非常にきめ細かく行われ、それに対して消費者は知らず知らずのうちにコストを負担しているとも言えそうである。

個別の日用雑貨品や食料品については折にふれて紹介したいと思うが、今日は最後にガソリンについてふれておきたい。あたり前といえば当たり前の話であるが、サウジではガソリンが非常に安い。日本のレギュラーガソリンの平均価格が現在150円/Lとのことだが、サウジでは0.457SR/L(約12円/L)と日本の12分の1以下の価格である。産油国であることを考えると、この価格はほぼ原価に近い価格と言えよう。とすれば、日本でガソリンを購入するということはその大部分が石油市況によって決まるプレミアムと日本国内の揮発油税が上乗せされた価格なのである。日本人は「資源がないから」と言って高いガソリン価格を黙認してしまいがちだけれども、その高いガソリンがどのように価格決定されるのかという点にもう少し関心を抱いてもよいのではないだろうか?

ガソリンの例に限らず、海外で生活をしてみると消費者目線からでも十分世界を考えることができるように思える。今回、サウジに赴任してよくわかったのは、これだけアクセスのしにくい国であってもグローバリゼーションの影響は確実に受けているということである。たったの数日でそれを実感できたのであるから、これから長期間滞在をすることでさらに実感をすることになるだろう。グローバリゼーションを意識しなければ生きていけない、そういう時代を我々は生きているのだと思う。