昨日のジェッダ出張で疲れきっていたはずなのに4時間ほどの睡眠で起きてしまった…。この国に来てから良い意味での緊張感が持続していて、それがおそらくは眠りを妨げている感じだ。前の部署にいた時にストレスで不眠症に陥ってしまったのだけど、その時は「あれをやっていない、これをやっていない」という不安感からだった。今回は常に「何かが起こるかもしれない」という緊張感をずっと持っているのだと思う。

先日読んだ菅原出とニルス・ビルトの『海外進出企業の安全対策ガイド』の中で「五段階の意識レベル」というものが扱われている。①Turn out(意識を切った状態)、②Relaxed awareness(落ち着いた意識の状態)、③Focused awareness(集中力を高めた意識の状態)、④High alert(高度に緊張を高めた意識の状態)、⑤Comatose(昏睡状態)なのだけど、デフォルトが③の状態で、昨日のように空港のようなところに出向く時は④の状態になっていたはずである。

理想的なのは常時②の状態で、たまに③や④になるのがよいのだろうけど、まだまだ慣れていないということもあってか緊張度が非常に高い感じになっている。多分、海外出張によく行く人は短期間で③と④になる感じだと思うけど、私の場合は赴任以来ずっとその状態が続いている感じである。

海外進出企業の安全対策ガイド/菅原 出

¥2,376
Amazon.co.jp

海外では緊張感を失ったその時にトラブルに巻き込まれやすいと思っている。戦場カメラマンの久保田弘信さんと飲んだ時に言っていたけど、「戦場に行く時、僕のように「死ぬ」と思って行く奴は死なない。でも、「死なない」と思って行く奴は死ぬんだよ。(シリアのアレッポで射殺されたジャーナリストの)山本美香は「死なない」と思っていたから死んだ…」というのは多分本当なのだと思う。

実際自分の赴任の際も同僚がロストバッゲージになりかけたのだけど(結果的に荷物の取り違えだった)、彼は成田からトランジットのドーハからの出発までずっとビールを飲みまくっていた。語学力に難があるのにもかかわらず、「これが最後の一杯」と言わんばかりにビールを飲む姿を見ながら、「緊張感ないなぁ…」と思っていたらジェッダでロストバッゲージ騒動に巻き込まれた。原因は相手の荷物の取り違えであったから当然彼の責任ではないけど、何となく成田以来の緊張感のなさがこの事態を招いたのではないかなと思っている。

今回のジェッダ出張は新規赴任者の出迎えであった。海外経験がないのにもかかわらず単独での入国とならざるを得なかったため、せめてジェッダからはアテンドがいた方がよかろうという上司の判断であった。自分の時もそうであったが、初めての海外赴任というのはとにかく「不安」と「緊張」に支配される。この「不安」と「緊張」を共有する人間が他にも何人かいるという状態が最も望ましい。なぜならば、一緒にいることで「不安」と「緊張」が少し緩和される一方で(私の時のように一方の「緊張」が崩壊するのは論外だが)、お互いに周りをきちんと見る態勢が維持され、トラブルが起こるのを未然に防ぐことができるためだ。

昨日の新規赴任者はジェッダで私と会うまで本当に「不安」であったらしい。トランジットのアブダビではラウンジの場所がわからず、8時間のトランジットをずっとベンチで過ごし、乗り継ぎ便のゲートもよくわからず(チケットに表示されていなかった)、出発時間も3時間遅れた。ジェッダ到着後は例によって入国審査で1時間ほど待たされた挙句、入国管理官の高圧的な態度を目の当たりにする…。海外経験もなく、言葉(入国管理官は英語が喋れず、終始アラビア語である)もわからなければ、「不安」にならないわけがない。

こういう「不安」の中で私のような海外駐在人事の人間にできることといえば、いかに赴任者の「不安」を和らげられるかであると思う。自分自身も赴任から日が浅く、まだまだ「不安」を抱いている状態であるけれども、私の立ち振る舞い見た赴任者が「不安」にならないように努めなければならないのだと思う。

海外駐在人事の究極的な仕事というのは、赴任者の「生命」を守ることにあるというのが私の考えである。彼らの「生命」を守るためには、「緊張感」を持たせつつも「不安」を軽減することであると思う。海外駐在人事の仕事は始まったばかりであるから、まだまだ学ばなければならないことがたくさんある。それでもこの3週間ほどで学んだこと、考えたことは今後も大切にしたい。