12年前の今日、失恋をした。その時の女の子に未練があるというわけでは全然ないのだけど、ただその時の記憶が12年間ずっと自分の心の中に残り続けている。毎年この日が近づくと、まるで墓参りをするかのように告白をした場所とふられた場所を必ず訪れては、あの時のことを思い出す。

年を追うに連れてその子との記憶は少しずつ失っていると思う。思い出そうとしても、12年前にあったものはことごとくなくなっていっているから、関連付けて記憶を取り戻すことが難しくなっている。「十年ひと昔」というのは本当にその通りなのだと思う。ただ、告白をした時のドトールとふられた時の頭上にあったアコムの看板だけはまだ残っている。もちろん内装や塗装は直されているだろうけど。

12年前のあの時、自分が言った言葉もまだ覚えている。

「こんなこと(失恋したこと)何度だってあった。これからもきっと何度もある。多分その一つだと思えば乗り越えられる」

実際、その後も何度も何度も失恋した。立ち直るまで少し長く時間をかけることもあったけど、何度も何度も立ち直ることができたと思う。あの時から自分は何度も何度も自分に問い続けているし、何度も何度も挑戦を続けていると思う。答えという答えや、結果という結果というものは出ていないかもしれないけど。

もしあの時うまくいてっていたら、きっと今自分はサウジアラビアに赴任するということなんてなかったのだと思う。逆に言うと、サウジアラビアに赴任するという宿命から考えると、あの時うまくいかなかったことはきっと良いことだったのだと思う。あの時の失恋があったからこそ、今の自分がある。

サウジに赴任する前から何と無く考えていて、サウジに赴任してからほぼ確信したことだけど、自分は普通の人が経験できる結婚や出産といった「幸せ」を経験することはないと思う。恋愛とか結婚を諦めるつもりはないのだけど、きっと自分にとっての挑戦の大部分はサウジでの仕事ということになると思う。

12年前に想いを寄せていた子に10年ぶりに会ったのは2年前の夏だった。結婚して子どもも生まれて本当に幸せそうだった。その時、自分の中にあったのは嫉妬の感情ではなくて、ただただ彼女とその家族が幸せであってほしいという思いだけだった。自分には縁遠いであろう幸せを実現してほしい、今でもそう思っている。心から。