News Picksというニュースアプリの連載企画で「駐在員妻は見た!」というものがあり、週替わりでサウジアラビア編とインドネシア編が展開されている。タイトルの通り、駐在員の奥様方が日常生活について綴っているものでそれなりに反響を呼んでいる。

サウジアラビア編、インドネシア編ともに1回目が終了したところで、前者が肯定的な評価を多く得ているのに対して、後者は否定的な評価を多く得ている。サウジアラビア編が肯定的な評価を多く得ている背景には情報が少ない国に対する読者の好奇心を満たしているということにあるのだろう。一方でインドネシア編が否定的な評価を多く得ている背景には、駐在員妻の「マウンティング」のような記述が見られるためだろう。

私自身はサウジアラビア編に対しては「サウジに対するステレオタイプが拡散される」という否定的な感想を抱いている一方、インドネシア編に対してもホリエモンが「くだらねーなー。」とたった一言で断じたのとほぼ同じ否定的な感想を抱いている。双方とりあえず1回目が終了したところで、今後自分が2つのコラムを読むうえでおもしろいと思うかつまらないかと思うかの基準がひとつだけ明確にある。

それは、コラムの中に現地人の同僚や友人といった存在が複数出てくるかどうかである。サウジアラビア編では、サウジにAVを持ち込もうとして摘発された夫の同僚(日本人)の話が出てきた。一方、インドネシア編では他の駐在員妻(日本人)の話だけが出てきている。両方に共通するのは、それぞれサウジアラビアとインドネシアという異国の地でありながら現地人の話が全く出てこないことである。つまり異国の地にありながら、「日本人コミュニティ」についてしか書かれていないのである。たしかにタイトルにある通り「駐在員妻は見た!」ということになるのだろうけど、それは「日本人コミュニティ」を媒介としたり、「日本人コミュニティ」の中で見たことにしかならない。つまり、この連載では極めて限定的にしかサウジアラビアとかインドネシアを見ることができないように思う。そうであると、この連載は少し「物足りない」ものとなってしまう。

実際に海外赴任をしている身として常に感じるのは、多くの日本人にとって言葉の問題が自らを内向的にしてしまう。自分の身の回りに日本語を話せる人が多ければ、ほぼ必然的に非日本人のコミュニティよりも日本人のコミュニティを選択すると思う。(私自身もそうである)。言語のハンディキャップが大きい中で、積極的に現地人に話しかけてみるというのはなかなか難しい。そして現地人とのコミュニケーションを回避するということは、それだけでその国を知るという機会を大部分失ってしまうはずだ。

「日本人コミュニティ」に依拠した形で駐在員生活を過ごしてゆくと、おそらくは「日本人コミュニティ」を介した形でしかその国を理解することはできないと思う。そこで形成されたものはどこか「オリエンタリズム」的なものになってしまい、本来的な現地文化の理解にはつながらないだろう。

私自身はサウジアラビアに赴任して7ヶ月になるのだが、幸いなことに現地人や日本人以外の外国人とふれあう機会が少なくない。仕事上はサウジ人と接することがきわめて多いし、昼食は日本人、中国人、インド人のグループで取ることが多い。サウジ人と雑談を交わすことも多く、その際にはアラブの文化やイスラム教について色々と教えてもらうことができる。異文化を知る機会に比較的恵まれているとは思うが、不自由なく英語をしゃべれるわけではないし、アラビア語をしゃべることもできないため、機会損失はまだまだ大きく、現地文化を十分理解するまでには至っていないと思う。

今後、英語およびアラビア語の力を少しずつつけて行くことで機会損失を減らしてゆくことは可能であろうが、それでも現地文化を理解するための入口に立てるかどうかであろう。そう考えると「日本人コミュニティ」に依拠し続けてしまう、というか「日本人コミュニティ」を守り続ける「駐在員妻」たちの見たその国の見聞録は、少なくとも自分にとってはあまりプラスにはならないのかもしれない…。