本日1月23日午前1時(サウジアラビア時間)に二聖モスクの守護者アブドゥラ・ビン・アブドゥルアズィズ・アル・サウード国王が90歳で崩御した。1995年に先代のファハド国王が脳卒中で倒れて以後は事実上の摂政として実権を握り、2005年に同国王が崩御するとサウジアラビア王国の第6代国王に即位した。今回はアブドゥラ国王死去後に予測されるサウジアラビア国内の動きについて、王位継承問題、新閣僚人事、弔問外交の3つの観点から簡単にまとめてみた。

1.王位継承問題

アブドゥラ国王の健康不安説は近年繰り返し言及されてきたことであり、酸素チューブをつけたまま公の場に出てくることもあり、公然の事実であったことは間違いない。それゆえ、アブドゥラ国王は自らの死後にできるだけ混乱を起こさない形で王位継承を図ることを考えていた。とりわけ、2011年10月にスルタン皇太子(当時)が、翌2012年6月にはナーイフ皇太子(当時)が立て続けに薨去したこともあり、王位継承者の高齢化を強く意識していたことは間違いないだろう。2014年3月にはムクリン王子を副皇太子に指名し、自らの「次の次」まで考えていた。

しかしながら、新たに即位したサルマン新国王は1935年12月31日生まれの79歳、ムクリン皇太子は1945年9月15日生まれの69歳といずれも高齢である。サウジアラビアの王位継承が親子間相続ではなく兄弟間相続であり、これまで年長順に継承されてきたことを考えると、他の君主国家と比較すると高齢者が王位を継承し、短期間で王位継承が行われるという構造を抱えていることになる。現在の王位継承制度を踏襲するのであれば、故アブドゥラ国王のように王位継承順位の明確化を行い、それに応じた責任配分を行う必要が生じる。

頻繁な王位継承を回避することを考えるのであれば、これまでの兄弟間での王位継承を改めるべきであろう。ただし、初代国王の息子、つまり第二世代だけで36人の王位継承権を持つ男子がいたとされ(ちなみに王位継承権を持たない、あるいは放棄した息子が他に16人いるとされる)、兄弟間での王位継承を改めるとなると大きな混乱も予想される。日本の皇室のように男子に恵まれないことで皇位継承に支障をきたしているのとは正反対に、一夫多妻制のサウジアラビア王室は男子に恵まれすぎて支障をきたすおそれがある。以上のようにサウジアラビアにおける王位継承問題は、中長期的に考えると大きなリスクをはらんでいることになる。

2.新閣僚人事

アブドゥラ国王が崩御したことは、サウジアラビアの首相が欠けたことを意味する。サウジアラビアでは国王が首相を兼務し、皇太子は第一副首相と国防相を兼務するのが慣例となっている。サルマン新国王(現在は皇太子兼第一副首相兼国防相)が首相となり、ムクリン新皇太子(現在は第二副首相)が第一副首相兼国防相となるであろう。

サルマン新国王が故アブドゥラ国王の路線を継承するか否かはその他の閣僚人事がどうなされるかによって読み取ることができるだろう。とりわけ、外相のファイサル王子と石油鉱物相のヌアイミ氏(非王族テクノクラート出身)が留任するか否かは、今後のサウジアラビアの外交・安全保障政策と石油政策を占う上では重要である。両名の留任が確定すれば、サルマン新国王が故アブドゥラ国王の路線を継承することはほぼ確実と考えてよいだろう。

3.弔問外交

アブドゥラ国王が崩御したことで特に注目したいのは弔問外交である。上述の新閣僚人事とも関連するが、サウジアラビアが現在抱えている大きな問題はシリアおよびイラクのイスラム国(Islamic State, IS)問題とOPEC減産見送りにともなう原油価格下落の問題である。これ以外にもパレスチナ問題やイランの核開発問題なども抱えている。アブドゥラ国王の葬儀に際して、各国がどのレベルの要人を送り込み、どのような外交が繰り広げられるかを注視する必要がありそうである。

日本は早々に福田康夫元首相を特使として送り込むことを決めたようである。首相経験者、それもかつて石油業界に身をおいた人物(福田氏は丸善石油出身)を送り込むことで外交儀礼上は十分であると思うが、サウジアラビアが輸入相手国として首位の座にあることを考えると、またイスラム国問題や原油価格問題において重要な局面にあることを考えると、現職の外務大臣あるいは経済産業大臣が赴いてもよいように思う。

なお、各国要人からの弔意メッセージを紹介する現地英字紙Arab Newsの記事では、エジプト、パキスタン、アフガニスタン首脳級からのメッセージの他、イスラエルのリブリン大統領まで紹介されている。アメリカはオバマ大統領、ケリー国務長官、ヘーゲル国防長官、ブッシュ前大統領が紹介されており、サウジがアメリカを強く意識していることを窺わせる。中国は外務省報道官のメッセージにとどまっており、サウジとの関係がまだまだ深くはないことを窺わせる。一方、日本は安倍総理、菅官房長官がそれぞれ弔意メッセージを出しているものの、現地紙では全く報じられていない。