アブドゥラ前国王の崩御から一夜が明けた。前国王の葬儀は23日中に首都リヤド市内のイマーム・トルキー・ビン・アブドゥラ・モスクで執り行われ、同日中にアル・ウード共同墓地に埋葬された。サウジアラビアの厳格なイスラム教の教義によるのか、遺体は棺に入れられることはなく、布でくるまれ担架のようなもので運ばれた。前国王といえども、王墓ではなく共同墓地に埋葬され、墓標すら建てられないというのは非常に衝撃的であった。おそらく、偶像崇拝を禁止するイスラム教の教義に則ったものなのであろう。("King Abdullah laid to rest"参照)。

先日の「国王の逝く国で」の中でもふれた通り、世界最大の産油国の元首の死去ということで大規模な弔問外交が行われると思い込んでいた。しかしながら、実際には湾岸諸国や他のイスラム諸国の首脳クラスが集まった他は弔電や特使が派遣されるのみにとどまった。これは各国がサウジアラビアを重視していないということではなく、崩御当日に葬儀を執り行うという日程にともなうものであると認識している。

葬儀が素早いということも驚いたが、サルマン新国王の人事にも驚かされた。ムクリン副皇太子の皇太子昇格と第一副首相就任はほぼ予想通りであったが、皇太子・第一副首相就任と同時に兼務すると思われた国防相には就任しなかった。代わりに国防相に就任したのはムハンマド・ビン・サルマン王子である。名前から想像がつくかもしれないが、サルマン新国王の息子であり、弱冠35歳である。("The youngest Cabinet minister at 35"参照)

一方、サルマン新国王は王位継承第2位にあたる副皇太子としてムハンマド・ビン・ナーイフ王子(現内相)を指名した。ムハンマド・ビン・ナーイフ王子は2012年6月に薨去したナーイフ元皇太子の息子であり、1959年生まれの55歳である。今後は既に就任している内相と第二副首相を兼ねる形になるだろう。("Prince Mohammed’s appointment as deputy crown prince welcomed"参照)

ムハンマド・ビン・ナーイフ新副皇太子もムハンマド・ビン・サルマン新国防相も初代アブドゥルアズィズ国王の孫にあたり、いわゆる「第三世代」ということになる。ムクリン新皇太子はアブドゥルアズィズ国王の息子(末子とされる)にあたり、ムハンマド・ビン・ナーイフ新副皇太子の誕生により、「第三世代」への王位継承の道筋がついたことになる。サルマン新国王が現在79歳、ムクリン新皇太子が69歳といずれも高齢であることを考えると、そう遠くない将来ムハンマド・ビン・ナーイフ王子が国王になることが考えられる。

ムハンマド・ビン・サルマン王子は現段階では王位継承順位がついていない状態ではあるが、これまで皇太子が兼務するとされてきた国防相に就任し、さらに王宮府長官にも就任したことで、王族内で事実上第4位の序列にあると考えてよいだろう。現在35歳という年齢を考えれば、要職を経験させることで将来に備えると行った意味あいが強いだろう。

55歳の新副皇太子と35歳の新国防相の誕生は、サウジアラビア王室が一気に若返りを図ったと見ることができる。しかし、サウード家の系図をじっくりと見ながら考えると、「二人のムハンマド」がいずれも「スデイリー・セブン」の系譜に属することがわかる。

「スデイリー・セブン」とは初代アブドゥルアズィズ国王が最も寵愛したとされるスデイリー家出身の王妃ハッサの7人の息子たちを指し、第5代国王ファハドと今回即位した第7代国王サルマンを輩出した家系である。アブドゥラ前国王の下で皇太子に就任したスルタン王子、ナーイフ王子(ムハンマド・ビン・ナーイフの父)のいずれも「スデイリー・セブン」にあたり、7人の王子の内の4人が皇太子となり、さらにその内の2人が国王に即位しており権勢をふるっている。

今回、新副皇太子と新国防相がいずれも「スデイリー・セブン」の系譜であることを考えると、今後第三世代への王位継承においても「スデイリー・セブン」の系譜に属する王子たちが有力者になってゆくことが考えられる。今回軍歴の全くないムハンマド・ビン・サルマン王子が、軍歴の長いムクリン皇太子を差し置いて国防相に就任したことはとりわけ重要である。「二人のムハンマド」が軍事と治安関係のポストを担うことで、「スデイリー・セブン」の系譜を軽視することは難しくなる。

今回、サルマン新国王が副皇太子と国防相の人事を迅速に行なった背景には、今後のサウジアラビアは「スデイリー・セブン」の系譜を中心に政治を行うということを早期に国内外に示すことで、外交・安全保障上の隙を見せないという狙いがあったように思う。

現段階ではその他の閣僚人事は確認されていないため、新体制の全容はつかめていない。今後、注目すべき閣僚人事はファイサル王子の外相への留任、ヌアイミ氏の石油鉱物相への留任、そして「スデイリー・セブン」に連なる王族がどのポストに起用されるかである。