先日News Picksの「駐在員妻は見た」のサウジアラビア編でサウジの複雑なビザ事情が紹介されていた。私のサウジアラビアでの業務の中には就労ビザと家族帯同ビザの取得が含まれているので、今回はサウジアラビアの複雑なビザ事情について数回にわたって書いておきたい。

なお、今回書くサウジアラビア・ビザはいずれも日本人が駐日サウジアラビア大使館にて取得するものであり、日本以外の国で取得する場合とは異なるという点に注意されたい。(私の経験では、英国と中国で取得したケースがあるが日本での手続とは異なる)。また、それぞれのビザの情報については私の業務経験から得られたものであり、最新のビザに関する情報については駐日サウジアラビア大使館ならびに所管のビザセンターにお問い合わせいただきたい。

まず、サウジアラビアのビザには次の種類が存在する。なお、観光ビザについては2012年以降発給が停止されている。

(1)宗教ビザ(Umrah Visa, Haji Visa)
(2)商用ビザ(Businessman Visa, Commercial Visit Visa, Working Visit Visa)
(3)就労ビザ(Work Visa)
(4)家族帯同ビザ(Family Visa)
(5)家族訪問ビザ(Family Visit Visa)


■宗教ビザ
宗教ビザとはサウジアラビア国内に存在するメッカとメディナという二つのイスラム教の聖地を巡礼するためのビザである。巡礼の種類によって使用するビザが異なり、Umrah VisaとHaji Visaが存在する。

Umrahとは「小巡礼」とも訳され、一般的にはヒジュラ暦の12月(Dhu-Al-Hijah、巡礼月)以外の月に行う巡礼を指す。このUmrahを行うために必要なのがUmrah Visaである。中東のハブ空港であるドバイやドーハの空港を利用した人であれば、各地から集まるUmrah客を見たことがある人も多いはずである。

一方、Hajiとは「大巡礼」とも訳され、一般的にはヒジュラ暦の12月の定められた日に定められた手順で行う巡礼を指す。このHajiを行うために必要なのがHaji Visaである。昨年の外国人のハッジ参加者は約140万人(サウジ国内の巡礼者は約60万人とされる)とのことであるから、年間140万人のHaji Visaが発行されていることになり、巡礼月の約1週間でこの140万人が同じ行動を行うことになる。

Umrah VisaもHaji Visaも取得できるのは当然イスラム教徒のみであり、イスラム諸国を中心に割り当て数が決められているとのことである。UmrahもHajiも基本的には各地域のモスクが主催することが多いとのことであるため、双方のビザの取得方法については残念ながら私はわからない。

■商用ビザ
商用ビザにはBusinessman Visa、Commercial Visit Visa、Working Visit Visaの三種類が存在する。

Businessman Visaは主に企業の役員クラスが利用するビザである。通常は有効期限が1年間、出入国の回数制限はない。Commercial Visit Visaは出張用途に最も利用されるビザであり、通常は有効期限が半年間、出入国の回数制限のあるMultipleタイプと使い切りのSingleタイプが存在する。Work Visit Visaは有効期限が90日間、出入国の回数制限のあるMultipleタイプと使い切りのSingleタイプが存在する。

いずれのビザも連続して1か月以上(ヒジュラ暦上の1か月であるため、29日ないし30日間)の滞在は認められない。(ただし、Visa Extensionという特殊な手続を行った場合は連続滞在の延長が認められることもある)。Business VisaとCommercial Visaには通常、”Not permitted to work”の記載がされており、長期間このビザで就労することは認められていない。また、いずれのビザも就労ビザとは異なるため、サウジアラビア国内での医療保険と社会保険には加入できず、運転免許も取得することができない。

商用ビザの取得にあたっては、スポンサーとなるサウジアラビア国内の企業や政府、団体からの招聘状が必要となる。サウジ国内に強力なコネクション(企業の場合であればグループ企業やパートナー企業)を持ってさえいればこの招聘状を取得することはさほど難しくはない。スポンサーからの招聘状を入手し、在京のビザセンターに提出すれば商用ビザの取得は可能である。

長くなってしまうので、今日はここまで。次回はサウジアラビアにおいて最も取得が難しい就労ビザについて書きたい。