5月29日にサウジアラビア東部州州都ダンマン(Dammam)で発生したテロについての事実関係と評価を簡単に整理しておきたい。

1.事実関係

発生日時は5月29日正午頃であり、金曜礼拝の時間帯を狙ったものである。この日のダンマンのお昼の礼拝は11時38分からであり、事件はこの時間帯に起きたと予想される。発生場所は東部州ダンマン市内にあるシーア派系のAl-Anoud Mosqueである。アバヤで身を隠した男性犯(過激派組織「イスラム国」に所属する Abu Jandal al-Jizrawi )が警備員の静止を振り切って自爆した。被害状況は犯人を含む4名の死亡と数台の車の炎上が確認されている。現在までのところ「イスラム国」が本件に関する犯行声明を出している。

参考:Reuters 'Islamic State suicide bomber in women's garb kills three in Saudi Arabia'

2.評価

今回の自爆テロは先週発生した東部州カティフ市内のシーア派系モスクへの自爆テロの第二攻撃である。サウジ国内では今後もシーア派の住む東部州を中心にシーア派を標的としたテロが相次ぐものと予想される。特に最も人が集まる金曜日お昼の礼拝を狙ったテロとなることが予想される。

これまで内務省はアルカイダ系組織や「イスラム国」、シーア派のテロをことごとく事前に察知し検挙してきた。しかしながら、2週連続でテロを許していることから、内務省は東部州内での「イスラム国」の動向を完全には把握していないことが考えられる。もっともサウジ国内でシーア派が異端視されていることを考えると、内務省側が不作為を働いている可能性も否定できない。

なお、今回テロのあったダンマンには国際空港があり、ダンマンを含めた近隣のアル・コバールやダーラン(サウジアラムコ社の本社所在地)には石油関連の外国企業も多いことから外国人も多い。ダンマン市内でテロが起きたということは、外国企業や石油関連施設にもテロが及ぶのではないかという懸念が高まる。

中東調査会のイスラム過激派モニター班は5月22日にカティフで発生した自爆テロに関する分析(中東かわら版 No. 26)において、「イスラム国」のサウジ国大での攻撃はシーア派に限定されるとの主旨の分析を行っている。たしかにサウジ国内で異端視されるシーア派を攻撃することで、サウジ国内において「イスラム国」の支持を得るというのは理にかなったものであると考えられる。

しかしながら、既に3月にアメリカ大使館・総領事館、アメリカ系企業・施設を対象としたテロ予告がなされ、アメリカ大使館・総領事館は一部業務の停止を余儀なくされた事実を考えると、外国企業や石油関連施設をも標的としていることは明白である。今のところ外国企業や石油関連施設を標的としたテロが発生していないのは内務省および軍の力によるところが大きいと考えられる。むしろ今回あえてダンマンで自爆テロを行ったことは、「イスラム国」側が国際空港や政府機関、外国公館、外国企業をいつでも攻撃できるという意思を表明したものとも考えられる。