クーリエ・ジャポンは大好きな雑誌のひとつで、サウジアラビア赴任中もわざわざ日本から取り寄せて読んでいる雑誌のひとつである。大好きな雑誌であるから、最も厳しい読者の一人でありたい。だからあえて厳しいコメントもしっかりと残しておきたいと思う。以前も「クーリエ・ジャポンは死につつある」という記事で書いた通り、最近のクーリエ・ジャポンはどんどんつまらなくなっているというのが本音である。

COURRiER Japon (クーリエ ジャポン)2015年 07 月号/著者不明

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6月号は最近にしては面白かったので7月号はかなり楽しみしていたのだが、残念ながら7月号はあまり面白くなかった。それどころかこの号の「人を動かし、世界を変える言葉の力」という特集を読んでいて、「何だか以前に読んだことがあるな」という既視感にとらわれた。ちょうど一時帰国中ということもあり、実家の部屋で過去のクーリエをあさってみたらこんなのが出てきた…。

COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2014年 03月号 [雑誌]/著者不明

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2014年3月号で「言葉こそがあなたの武器である」という特集を組んでおり、この時の構成と今回の構成がかなり似通っているのである。同じような特集であっても、新しい方の記事が面白ければ特別気にならないと思うのだけど、2015年7月号と2014年3月号を比較しながら読んでみると、圧倒的に2014年3月号の方が面白かった。

たとえば2015年7月号の佐々木繁範氏の「あの言葉はなぜ人の心を打ったのか 世界の歴史を変えた11のスピーチ」という記事は、2014年3月号の五野井郁夫氏の「強い信念を持ったリーダーたちはこんな言葉で世界を動かしてきた」という記事の二番煎じであるし、その内容も五野井氏がそれぞれのスピーチについて短いながらも的確に解説を加えたのに対して、佐々木氏の記事は解説自体がそもそもほとんどなされておらず、名言集の引用レベルに留まってしまっている。

その他の特集関連記事を比較しても、2014年3月号と2015年7月号では後者の方がイラストや写真が増え、大きいフォントを多用しているという印象を受ける。つまり読者の読解力ではなく、視覚に訴えるという手法を用いているということである。

7月号をめぐって私にとって最も衝撃的であったのは、先日参加したクーリエ読書会において、ほとんどの人が2014年3月号において全く同じ特集が組まれていたことに気づいていなかったことであった。1年4か月ほど前という比較的最近の特集であるのにもかかわらず、多くの人の記憶に残っていないということである。要するに、クーリエ・ジャポンという雑誌とその読者が情報の大量生産と大量消費を行うようになってしまったということである。今回の特集のキーワードである「言葉の力」というものに絡めると、クーリエ・ジャポンはかつてよりも「言葉の力」を失いつつあるという皮肉な状況を迎えている。

もちろん私のような意見を持つ人は少数派なのかもしれない。「最近のクーリエ・ジャポンはつまらなくなっている」と思っている人もいる一方で、クーリエ・ジャポンは出版部数を着実に伸ばしているとも言われる。大手出版社の出版事業のひとつである以上、「売れる」ということは最も重要なことである。ただ、現在のクーリエ・ジャポンは、少なくとも私にとっての「良質な雑誌」ではなくなっているというのが率直な感想である。