昨年5月に「宗教ビザ・商用ビザ編」「就労ビザ編」について執筆していたのだが、「家族帯同ビザ編」を書いていなかったので書いておきたい。なお、以下に書く情報は2015年12月現在のものであり、予告なく申請方法が変更されることがあるという点をご留意いただきたい。最新の情報については駐日サウジアラビア王国大使館にお問い合わせいただきたい。

サウジアラビアに家族が帯同するためには、配偶者が就労ビザを取得し、居住許可証(旧称イカマ、2015年10月に「ムキーム」に改称された)を取得していなければならない。赴任者の場合、スポンサーは現地企業ということになるが、帯同者の場合は赴任者(世帯主と言い換えてもよい)がスポンサーとなる。まずは赴任者本人が居住許可証をとる必要があるため、赴任者本人と同じタイミングでサウジに入国できるわけではない。赴任者本人の居住許可証の取得には早くても入国から2週間、通常は入国から1ヶ月程度を要する。赴任者本人の居住許可証の発行がなされた後、家族帯同ビザの取得には日本側の手続とサウジ側の手続を合わせて通常3~4ヶ月を要する。

赴任者が居住許可証を取得後、帯同者は戸籍抄本(日本以外の国の場合は婚姻証明書)、健康診断書、犯罪経歴証明書(無犯罪証明書)、スポンサーとなる赴任者の最終学歴の卒業証明書を準備する。戸籍抄本については英文で発行されていないため、英文翻訳を取得した後、公証役場において公証人の認証を行う。その後、取得済み書類を日本の外務省領事局に提出して認証を得る。日本側の手続を終えるまでに概ね1~1.5ヶ月程度を要する。

以上の書類のうち、戸籍抄本と卒業証明書をサウジの現地担当者に送付し、日本大使館・総領事館に提出し、アラビア語翻訳を入手する。その間に赴任者はサウジ内務省のオンラインシステムの初期登録を行い、その後内務省のオフィスなどに設置されている指紋認証システムに指紋を登録、手数料の2,000SAR(約64,000円)を現地所属企業を通じて支払う。

アラビア語翻訳を入手後、エンジニアは内務省のオンラインシステムにて申請書を入手し必要項目を記載し、商工会議所の公印を得た後、内務省に申請を行う。概ね2~3日で内務省の認証が完了し、その後2~3日で外務省の認証が完了する。

非エンジニアの場合は、オンラインシステムでの申請ができないため、大都市の内務省オフィスに持ち込み、直接内務省の担当者に認証を行ってもらわなければならない。通常はオンラインシステムでアポイントメントを取らなけばならないのだが、このアポイントメントを取るのが非常に難しい。私はこれまでに数名の非エンジニアの帯同ビザ取得に携わったが、いずれもオンラインシステムでのアポイントメントを取ることができなかったため、内務省担当者とコネクションのあるサウジ人従業員の協力を得て内務省認証を得たが、結局認証を得るために1ヶ月程度を要した。サウジでの手続が全て終わるまでに1~1.5ヶ月程度を要する。

サウジ側の内務省と外務省の認証を得た後、認証完了済みの書類と戸籍抄本、健康診断書、卒業証明書、所属企業からのサポートレターを添えて駐日サウジアラビア王国大使館の認証を得る必要がある。サウジ大使館の認証が完了後、ビザセンターに申請を行うことができる。特に問題がなければ、申請から概ね1週間程度で家族帯同ビザが発給される。再度日本で行う手続には概ね1ヶ月程度を要する。

さて、めでたく(?)家族帯同ビザが発行され、サウジアラビアに入国できたとしても、就労ビザ同様家族帯同ビザの有効期限は90日以内であるため、居住許可証を取るための手続きに入る。サウジに到着し、まずは空港で指紋登録と入国管理番号の取得を行う。よくあるトラブルとしては、入国時に入国管理官が入国管理番号を記載するのを忘れたり、書き間違いをしたりするものである。入国管理番号がなかったり、間違っていたりするとその後の全ての手続を行えなくなる。

空港を出た後は、病院にて血液検査とレントゲン検査、検便・検尿の提出を行い、医師の問診を受ける。この検査で特に異常が見られない場合は、その後の手続を行うことができる。この検査で異常が見つかった場合(主に感染症など)、居住許可証申請の手続を行うことはできず、出国のためのビザを取得して、家族帯同ビザビザ期限内にサウジ国外に退去しなくてはならない。

居住許可証取得のための健康診断を無事終えると、社会保険と医療保険の手続を行う。居住許可証を取得する場合は必ずスポンサーが社会保険と医療保険を提供することが原則となっている。ちなみに医療保険に登録された場合、医療費の実費負担は無料である。以上の手続を終えて初めて居住許可証の申請を行うことができる。サウジ入国から居住許可証申請までに要する期間は早ければ入国から1~2週間、通常は1ヶ月程度である。

なお、「就労ビザ編」でもふれた通り、居住許可証を取得している人間は別途取得するExit Re-entry Visaというビザがなければ、たとえ居住許可証を持っていても自由に出入国をすることができない。Exit Re-entry Visaは1回使いきりのSingleタイプと、複数回出入国ができるMultipleタイプの2種類がある。Singleタイプは取得から3か月以内に行使をしなければならない。行使しない場合はキャンセル手続を取らねばならず、キャンセルを行わなかった場合は罰金が発生する。Multipleタイプは3か月以内に初回出国を行い、初回出国日から180日間有効となる。こちらも取得から3か月以内に出国を行わなければ、キャンセル手続を行わなければならない。

居住許可証で最終出国を行う場合は、Final Exit Visaと呼ばれるビザが必要となる。サウジアラビア国内で犯罪履歴があったり、交通違反の罰金を支払っていなかったりという場合はFinal Exit Visaが発行されることはない。

以上、3回にわたってサウジアラビアの各種ビザを見てきたが、いずれのビザを取得するにしても様々な手続が必要であり、時間もコストもかかる。一言で言ってしまうと「非常に面倒くさい国」なのである。ただ、この面倒臭さが様々なドラマを生むというのもまた事実である。