第7回(2014年7月21日)淵上意見書(修正) | 経産省前テントひろば応援団のブログ

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これまでの裁判資料 訴状 証拠説明書などは コチラ からご覧いただけます。

「脱原発といのちを守る裁判」HP より)




平成25年(ワ)第8000号 土地明渡請求事件

原告 国

被告 正清太一 淵上太郎


意 見 書


2014年7月16


東京地方裁判所民事第37部合議C係 御中


                             被告 淵 上 太 郎


1 去る5月21日、福井地方裁判所は大飯原発34号機運転差止請求事件に対して、「被告は、別紙原告目録1記載の各原告に対する関係で、福井県大飯郡おおい町大島1字吉見1-1において、大飯発電所3号機及び4号機の原子炉を運転しではならない」という判決を行った。

  この判決は、我が国憲法第13条の人格権を積極的に認め、「人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。」とし、「生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは、その侵害の理由、根拠、侵害者の過失の有無や差止めによって受ける不利益の大きさを問うことなく、人格権そのものに基づいて侵害行為の差止めを請求できる」とした。

2 このような判決に対して、

  一方の当事者(被告、判決当日には欠席)としての関西電力は「これまでの主張が裁判所に理解してもらえなかったことについて、誠に遺憾だと考えている。判決文の詳細を確認したうえで、速やかに控訴の手続きを行い、控訴審において、引き続き、安全性を主張していきたい」というコメントを出した。

  菅官房長官は「国は当事者ではなく、コメントすることは控えたい」と述べ、記者団が「原子力規制委員会で安全が確認されれば、原発を運転再開する方針に変わりはないのか」と質問したのに対し、「そこはまったく変わらない」と述べ、原子力規制委員会で安全が確認された原発は運転再開を決定する政府の方針に変わりはないという考えを示した。

  原子力規制委員会田中委員長は「司法の判断について、私の方から申し上げることはない。だから、大飯については、従来どおり、我々は我々の考え方での適合性審査をしていくということになろう」、さらに「我が国では裁判は裁判なので、我々は、前から申し上げていますけれども、科学技術的な知見に基づいて、現在の基準に適合しているかどうかという判断をすると。その結果を踏まえてどうするかというのは私たちの判断ではないと」としている。

  更に、「昨年、新基準ができた際に、大飯34号機を停止せずに、そのまま現状確認という手法を用いて、結果的に原子炉を止めなかった判断をしたが、(中略)現状確認という手法を用いたことの是非について、今、どう考えているか」という記者の質問に対して、「裁判の判決の中身も、どういう根拠になっているのかも分かりませんので、何も申し上げることはない。一応、新しい基準に基づいて現状確認をしたということについて、間違ったことをしたという思いは全くない」と答えている。

  日本原子力学会は判決に関し、「本会は、判決に対し直接コメントする立場にはない」としつつも、「福島第一原子力発電所事故後に初めて出された原子力発電所の運転に関する判決であり、国民の皆様に原子力発電所の新しい安全対策に重大な誤解を生じさせる懸念があると考え、原子力技術の専門家の立場から」、わざわざ学会としての見解を発表した(5月27日、参考資料1)。

  関西電力大飯原発の地元である福井県の西川一誠知事は「行政の立場で言うことはない。一審の判断なので、上級審で考え方などが吟味されるだろう」と述べている。

3 以上の見解は、当面する我が原子力行政が、依然として全くの無責任体制に在ることを示す代表的なものである。また、現在の安倍内閣が依然として関西電力など電力会社の後ろ盾として、国策としての原発を強力に推進しようという姿勢を示すと共に、「原子力村」の健在ぶりをも図らずも示したものである。

  7月4日には、マスコミ各社は、「新しい規制基準に基づく安全審査が進む九州電力川内原発12号機(鹿児島県)について、原子力規制委員会が安全対策を妥当とする『審査書案』を7月9日にも示す」と報じた。

  原子力規制委員会は、「安全かどうかということを言うつもりはない、ということをいつも国会でも申し上げている。私たちの行った適合性審査を踏まえて、稼働するか、しないかということについては、これは規制委員会、規制庁が関与することではない」(原子力規制委員会田中委員長の記者会見、平成26416日)、としている。要するに、自らが作った「新規制基準」に適合しているかどうかを審査するだけである。国は「その審査結果を尊重して、再稼働を進める」と言う。

4 このような構造は、今日、福井裁判が再稼働を認められないとしたまさにその大飯原発3、4号機が、かつて2012年7月に再稼働されるその過程において、すでにわれわれは経験済みのことである。

  当時の原子力安全・保安院が原発は「ストレステスト」を行っていたが、その一次評価を妥当とする報告を2012年2月13日原子力安全委員会に行った。しかし、このストレステストの結果は、本当に想定を上回る地震や津波に耐えられるのかどうかはまったくアテにならないものであった。

  報告を受けた安全委員会はいわゆるダブルチェックとして機能するはずであったが、一次評価だけで再稼働には十分であるとする保安院の見解に屈して、二次評価を行うなどを通じてダブルチェックの機能を発揮して改善を求める考えがないことを表明した。原子力安全委員会は3月23日に最終的な見解を纏めたが、斑目委員長は「(保安院の評価が)妥当とは言っていない。あくまでも一次評価と二次評価をあわせてやるべきものである」「(再稼働について)政治判断としてなされることについて、安全委員会として何か申し上げることなない」等々と会見で述べただけである。

  安全委員会の評価に対し、関西電力八木社長は、「一定の評価を頂いたと認識している」と胸を張り、4月3日から大飯原発の再稼働の是非を判断する4大臣会合が始まった。4月13日の4大臣会合は「大飯原発の安全性を確認できた」とし、6月8日ついに、当時の野田総理は記者会見で「大飯原発3、4号機を再起動すべきというのが私の判断」だと発表したのである。

  こうして、再稼働の問題は原発が立地する福井県とおおい町の同意を得るだけとなり、関西電力大飯原発3、4号機は2012年7月から2013年9月まで運転された。同意は首長と議会のみによっており、委任の住民の意見も聞いてはない。大飯原発3、4号機は昨年9月来、定期検査で停止しているが、今回の福井地裁の判決は、事実上この再稼働が許されないことを判決したのである。

  2012年2月、原子力安全・保安院は大飯原発3、4号機のストレステストの一次評価が妥当であることを原子力安全委員会に報告しただけ、報告を受けた原子力安全委員会はその安全性について責任を持たないということと、今日原子力規制委員会が川内原発の安全性について責任を負わないこと、とは全く同一の水準である。

  国や政府そのものはどうか。大飯原発の場合は、かろうじて「4大臣会合」が安全性を確認したが、川内原発の場合はどうであろうか。現政権の幹部からは、新規制基準への適合性審査に適合するとされた場合は、政権として改めて判断をするのではなく、即、再稼働という噂もあるが、今のところ公式には、「その審査結果を尊重して、再稼働を進める」(新エネルギー政策の閣議決定)というだけである。

  原発の輸出についても、「規制庁として輸出される原発の安全性の確認については何か請け負っているものはあるのか」という記者の質問に、規制庁の森本次長は、「原子力規制委員会がそういったものについて確認するという制度的な建て付けにはなっていない」から、そういうものはないとされる。つまり、原発の輸出について原子力規制庁は関知しない、ということである。

5 福井地裁の判決は、こうした原発推進を巡る無責任体制のなかで、いつの間にか吹き飛んでしまう原発の安全性の論議について、人格権という最も基礎的な国民の権利を尊重する立場から、電力事業者としての関西電力の対応をことごとく打ち破って、大飯原発の運転の差し止めを判決したのである。

6 福井地裁の判決は、歴史的な判決である。国や被告側(電力事業者)はこの判決に反対し、この影響を最小限に抑えるために、一刻も早く控訴し、上級審において、福井地裁の判決を翻したいと希望しているようである。今日までの原発関連裁判では、ことごとく住民側・国民側の敗訴となったか、あるいは上級審で敗訴となっている。

  だが今回の判決は、我が国政治においてその立憲主義が犯され、司法が一方的に行政権力に押しまくられている情況のなかで、「法は生きていた」と言わしめるほど重要な判決となった。

 関係者は、まずはこの判決を真摯に受け止めるべきである。

7 土地明渡訴訟としての本訴訟は、強大な国家権力が、問題の本質を隠蔽し、弱者としての被告を訴えるといういわゆるスラップ訴訟である。その同じ国は、依然として東電福島事故に責任をとらないばかりか、電力事業者の東電を初め電力事業者を擁護・支援している。

  原告こそ、福井地裁判決を真摯に受け止め、スラップ訴訟まがいの本訴訟を直ちに取り下げるべきである。

                                      以上