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サッカーファンの皆様、ご機嫌いかがでしょうか。

4月29日(水)に行われた明治安田生命J1リーグ第8節。その中で個人的に一番注目していたのは等々力競技場で行われた川崎フロンターレ×柏レイソルの一戦。

この対戦は、3年前に風間八宏監督が就任してから選手達の足下の技術に徹底的に拘り、ボールを失わずに相手を叩きのめすスタイルの川崎と、今シーズン、柏の下部組織の監督やダイレクターを歴任した吉田達磨監督が就任して、下部組織で根付かせた「ボールとスペースを支配して相手を破壊する」スタイルをトップチームにボトムアップさせた柏の、「スタイルのミラーゲーム」として大きな期待を寄せていました。

しかし蓋を開ければ柏の徹底した「川崎対策」に川崎はハマってしまい、柏がボールを奪ってからのシンプルな攻撃で川崎を1-4で仕留めるという、「例年の川崎×柏」の展開でした。


◯憲剛&大島のダブルボランチを封じる所から意思を統一した柏

吉田達磨監督は試合後の公式会見で

我々が川崎フロンターレを何試合か分析していく中で、これはかなり強いぞと。一度ボールを持たせたら帰ってこない。ロングボールを蹴ってセカンドボールも、これまでの試合は全て彼らの手の中に収めてきている。ここをどう打開しようかと。我々も少なくともサッカーとしては、ボールは地面を走らせようというような中で多くの時間を過ごしていますから、違いはたくさんありますけども、大枠で分ければとても似たようなチームとして分類されると思います。このフロンターレを相手に何をしようかということを選手たちと話していく中で、相手のボランチのところに焦点を絞り、たくさんの練習期間がない中、ちょっとしたミーティングと、うちの選手達の意思の統一というところで、ボランチだけ抑えたわけではないですけど、そういうフロンターレの良さをどう消して我々がどうプレーしていくかということを、選手たちが90分間、とてもタフに、集中して、意欲的に戦ってくれた、その結果がこういった形になったと思います。」

そう仰いました。

吉田監督は川崎と対戦するにおいて、川崎の洗練された「矛」に対して自分達の「矛」をぶつけるのではなく、川崎の「矛」を如何に封じるか、という所から戦略を立て、意思統一を図りました。

そこでまず川崎のサッカーの中核であるダブルボランチ、中村憲剛と大島僚太を機能させない所からアプローチしました。
彼らの監視役に任命されたのは大谷秀和と小林祐介。
元々今シーズンは大谷と武富孝介のインサイドハーフで左サイドにクリスティアーノを置く形がベースでした。
しかしフロンターレ戦では大谷の横に小林を置きました。
小林を置いた理由としてはボールを持っていない時の相手に対するアプローチに長ける事、そして攻撃面で前への推進力がある武富をフリーマンにして後ろの負担を減らし、前で最大値を発揮させたかったのだと思われます。

大谷と小林は憲剛と大島に対して縦に決定的なパスやテンポアップのパスを出させないように縦を切って外や後ろに出させるような守り方をしてきました。
川崎がサイドからのエウシーニョやレナトの無理な突破がやたら多かったのは真ん中で憲剛と大島が縦にボールを走らせる事が出来なかったからです。


◯川崎の最終ラインには前3人が張り付く

次に川崎の最終ラインに対しては柏の前線3人、レアンドロ、工藤壮人、武富孝介を張り付かせ、常にストレスが掛かった状態で川崎は後ろでボールを持たされる形になりましたし、キーパーの西部洋平がボールを持った時は特にこの張り付きは効果的で、ボールを大きく蹴るのみの選択肢に限定させられてしまいました。


◯ボールを持たない状態で相手を「攻撃」

前述のような徹底した「川崎対策」で川崎に余裕を持ってサッカーをさせなかった柏はまさにボールを持たない状態で相手を「攻撃」する事に成功しました。
「攻撃」というのはボールを持ったチームが前に進む事が一般的な意味合いだと思いますが、相手にボールを持たれていても、ボールを持っていない側のアプローチの仕方でボールを持っている側に対してストレスを与えているのであれば、ボールを持っていない側が相手を「攻撃」している事になります。
ボールを持たない状態で相手を「攻撃」しているチームの代表格を挙げるとするならばアトレティコ・マドリーやドルトムント、チェルシーといったあたりを思い起こしてみるとイメージしやすい筈です。


◯レアンドロのボールを後ろから奪う上手さ

柏で一番印象的だったのはCFレアンドロの後ろからボールを奪う上手さです。

確かに川崎のダブルボランチと最終ラインの前に蓋をしていた事でボールを奪いやすい状況ではありましたが、それにしてもレアンドロの、相手の背中に気配を感じさせないように近付いてボールをノーファールで掻っさらう上手さには憲剛や大島、谷口彰悟もかなり手を焼いていました。


◯相手の最終ラインを「攻撃」し続けた工藤

柏がボールを持った時、川崎の最終ラインにとって一番脅威だったのは工藤の存在でしょう。

工藤は常に、位置関係的にマッチアップする機会が多かった谷口の背中を狙い続けました。

武富の同点弾は武富が憲剛を振り切って中央でドリブルしてフィニッシュというシーンでした。
このシーンに関しては川崎のディフェンスがズルズル下がって武富にアタック出来なかった事で生まれたゴールなのですが、川崎のディフェンスが武富にアタック出来なかったのは工藤が谷口の背中を狙っている事で谷口が自分の背中を気にしなければならなかった為、折角武岡優斗が武富の縦を切っていても谷口が工藤を気にした事で対応が中途半端になってしまったのが武富の侵入を許した要因でした。
もし谷口が前に突っ込んでいたら武富はフリーになった工藤に出していたと思います。
言ってしまえば憲剛が武富に振り切られた時点で勝負ありだったのですが、工藤が最終ラインを「攻撃」した事で武富の選択肢を増やしてあげる効果を生み出しました。

柏の2点目のシーンも、レアンドロのクロスを工藤が頭で合わせたシーンでしたが、工藤は谷口の背中から離れるように動いてフリーでヘディングする事が出来ました。

相手の背中を狙って「攻撃」する工藤の存在は川崎にとっては(特に谷口にとっては)本当に嫌だったと思います。


◯やはり影響してしまった「森谷賢太郎の不在」

川崎としては柏の徹底した「川崎対策」で憲剛&大島のダブルボランチが攻撃され、サイドでのエウシーニョとレナトのドリブル頼みしか無くなってしまいました。
いつもであれば森谷賢太郎が前線と中盤の間で受けてくれて常にて正しい場所で受けてテンポを作ってくれるのですが、今回は前節の甲府戦で負傷交代した影響で欠場したため、前線と中盤の間をリンクしてくれる選手がいませんでした。
またしても森谷不在の影響がボールを持った時に出てしまったのです。

森谷賢太郎という選手はサッカーのスタイルによって存在価値が変わります。
以前所属していた横浜F・マリノスのような「負けなければそれで良い」スタイルであれば森谷は絶対不可欠な存在ではなくなります。
ただ、今の川崎のスタイルにおいて、森谷賢太郎という選手は絶対不可欠な存在です。
ハッキリ言って中村憲剛以上に不可欠な選手なのです。

但し、いつまでも「賢太郎がいないのが大きい」なんて言ってる場合じゃないと思います。
森谷がいなければ誰が代わりに森谷の役割を果たすか、それを選手自身が判断してやらなければいけません。

もし船山貴之を頭から使っていればもしかしたら森谷のように間でボールを受ける役割を担ってくれたかもしれませんが…。


◯止める技術の乱れ

あと川崎で気になったのは「ボールが止まっていなかった」事です。

コンディションの影響もあったかもしれませんし、柏のハイプレスに驚いた部分もあったかもしれません。
とにかくボールを正確に止める事が出来ず相手に飛び込ませる隙を与えてしまいました。

ボールを正確に止められない場合は一度相手に渡して奪い返す。もしくは近くの選手に一度ダイレクトではたいて動き直すといった工夫が必要になってきます。

前述した森谷不在と止める技術に乱れが、もしかすると風間監督が公式会見で仰っていた「自分たちでボールを動かして相手を動かすことが出来なかった。これだけボールを欲しがらない試合はあまり見たことがない」という言葉に繋がったのかもしれません。


以上です。

個人的には「スタイルのミラーゲーム」と期待していただけに、そういった展開にならなかったのは残念でしたが、柏の勝負に対する強かさは、やはり監督が変わってもネルシーニョ時代に築き上げてきたものがしっかり残ってるなという感じがしましたし、それにプラスしてボールを持った時の質が高まれば柏はネルシーニョ時代以上に勝てる且つ観客を沸かせるチームになる事は間違いないでしょう。

川崎は4失点しましたが、中2日でFC東京との多摩川クラシコが控えています。
調整する時間など無いのでとにかく頭の中を切り替えて次の大一番に臨むしかありません。
多摩川クラシコではFC東京の強固な壁を、ボールをテンポ良く動かして崩していきたいです。
その為にも何度も書きますが「誰が前と中盤の間で受けてボールを受けるか」が物凄く大事になってきます。
森谷がいれば森谷がやってくれますが、森谷がいない時に誰がやるか。
個人的には船山を大久保嘉人の下に置いて、その役割を果たしてもらいたいと思っているのですが如何でしょうか。

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