皆様、ご機嫌いかがでしょうか。
7月19日(日)に行われた明治安田生命J1リーグ2ndステージ第3節、最大のトピックはサンフレッチェ広島がアウェー埼玉スタジアムで浦和レッズに2-1で逆転勝ちし、浦和の1stステージ開幕からのリーグ戦無敗記録が「19」でストップした事。
個人的には2ndステージ開幕2試合の広島の得点力を含めた勢いを考えれば「やはり」と思いましたし、これまで広島から浦和に移籍する選手が多かった、浦和のミハイロ・ペトロヴィッチ監督も広島から浦和に2012年に移った…という経緯も考えれば広島の選手監督以上にサポーターの皆さんがしてやったりの思いだったのではないでしょうか。
止めるべきチームが浦和を止めたのだと思います。

さて、3節の中から取り扱うのは、日立柏サッカー場、通称「日立台」で行われた柏レイソル×川崎フロンターレの一戦。
共に「ボールを持って相手を叩きのめす」スタイルの両チームという事で好ゲームが期待された中、試合は前半、守備から中盤を「制圧」した柏が自慢のパスワークを発揮し、茨田陽生→クリスティアーノ→小林祐介と繋いで最後はエースの工藤壮人が仕留め先制。
後半は後ろを3枚にして距離感を整理、かつ前に「参加」できる人数を増やした川崎Fがボールを持ち続けチャンスを増やすも柏のGK桐畑和繁の好守に阻まれ1-0で柏が勝利。柏は前節の横浜F・マリノス、そして川崎Fと立て続けに神奈川勢にウノゼロ(1-0)勝ちし2ndステージの順位も3位まで浮上。一方川崎Fはまたしても日立台で柏に敗れる形となりました。

◯「柏の9番」を超えた「柏の9番」

まず柏×川崎F戦最大のトピックは柏のCF工藤壮人が自身のJ1通算53ゴールを挙げ、現在J2ロアッソ熊本コーチの北嶋秀朗さんが保持していた柏のJ1通算最高得点である52得点という記録を塗り替えました。

工藤の持ち味はやはり以前も書きましたが「相手の最終ラインを攻撃出来る事」だと思います。
ペナルティエリア内で相手の最終ラインと駆け引きして、相手のマークを外すタイミングを見計らいながら、味方がパスを出すアクションを見逃さずに、その瞬間にフリーになって抜け出しフィニッシュまで持っていく。このフィニッシュに持っていくまでの一連の流れに長けた選手ですので、相手の最終ラインは彼の駆け引きに振り回されて陣形を壊されてしまいます。ですから「相手の最終ラインを攻撃出来る」なのです。

かつて「柏の9番」として一番前に君臨していた北嶋さんも最終ラインを攻撃するのが上手い選手でしたし、絶好のタイミングで味方にパスやクロスを出させるのが本当に上手い選手でした。
工藤も北嶋さんとはチームメイトだった時期がありましたし、2トップも組んだ事がありましたから、偉大なる大先輩が背負う背番号「9」を見ながらゴール前での嗅覚と駆け引きを磨き続けて来たのだろうなと思います。

ゴールの形も綺麗でした。
茨田の縦パスが「GOサイン」となり、相手が食いついてきたのを見逃さなかったクリスティアーノがダイレクトで小林に渡し、小林は前でフリーになった工藤を見逃さずにパス。相手が真ん中に寄っていたのを見逃さずに「消えて」フリーになった工藤は小林のパスを受けてそのままフィニッシュ。
真ん中の狭い場所で多くの選手が「参加」して崩してのゴールはまさに吉田達磨監督が下部組織を率いた時から植え付けようとしている「ボールとスペースを支配する」スタイルの真骨頂だと思いますし、北嶋さんが背負っていた背番号「9」を背負い、U-18時代に慣れ親しんだ「恩師」吉田監督のサッカーのスタイルを存分に打ち出した中で叩き出した新記録ですから工藤本人、吉田監督、そしてサポーターの思いもひとしおだと思います。
記録を塗り替えられた北嶋さんもTwitterで自分が積み上げてきた色々な思いが詰まった52ゴールを「抜かれるべき人間に抜かれた」嬉しさをツイートし、工藤を祝福していました。

昨シーズン、そして今シーズン1stステージまではレアンドロがいた為、どうしてもサイドでの起用が多かったのですが、彼のゴール前の嗅覚と最終ラインの駆け引きの上手さは真ん中で生きると個人的には思っていますので、継続してCFとして起用して欲しいなと思います。

◯武富孝介という「才能」

次に柏について語る上ではどうしても武富孝介について触れなければいけないでしょう。

湘南時代に培って来た豊富な運動量で前線を活性化させるのは勿論評価されて然るべきですが、僕が武富に惚れ込んだのは彼の「技術の高さ」と「発想力」です。

前節の横浜FM戦でもエドゥアルドのクリアボールをワントラップしながらターンするという彼の「技術の高さ」と「発想力」が伺えるプレーが見られましたが、今回の川崎F戦でも「おおっ!!」と唸るプレーがありました。

武富が左サイドからゴールに向かって斜めに走った所に味方から低くて長い斜めのボールが来ると、武富は谷口彰悟が自分の背中側から自分について来ているのを見逃さず、身体をまずゴールに背を向けた状態にしながら右足ワンタッチ目で、自分について来ている谷口の背中方向へ流し気味にトラップし抜け出そうとプレーが見ていて思わず唸ったプレーです。

トラップ自体は大きく流れミスになったのですが、武富のワントラップでターンする瞬間の無理の無い身体の使い方と追ってくる谷口の背中にトラップするという「発想力」。谷口が作っている「矢印」を見てその逆を取れる「目の良さ」には脱帽しました。なぜ彼が日本代表候補に選ばれないのかが本当に不思議でしょうがないのです。

◯「堅実」な桐畑和繁

後半は後ろを3人にした川崎Fが攻勢を強めましたがゴールを割る事が出来ませんでした。
川崎Fの「ゴール前での落ち着き」が足りなかったのもありますが、柏が無失点で試合を終えられたのはGK桐畑和繁の存在無くして語れないでしょう。

前節の横浜FM戦、負傷欠場の菅野孝憲に代わりスタメン出場し無失点に抑えて柏の勝利に貢献した桐畑は、今回も川崎Fの猛攻を凌いで無失点勝利に貢献しました。

彼は菅野のような派手さ(見た目も含め…)はありませんが、正しいポジショニングでボールホルダーに正対し、シュートコースを完全に消してシュートを防ぎます。また、むやみに自分から動かず、ギリギリまで我慢する事が出来ますので「ボールを持っている側を先に動かす」事が出来ます。
キーパーが先に止めようと動くと逆にボールを持っている側にかわされ易くなりますから(PKも原理は同じ)、ギリギリまで我慢して相手を見られるのは良いキーパーの証拠です。

今回の川崎F戦でも、大久保嘉人がワントラップでエドゥアルドを振り切った瞬間に前にポジションを取り、我慢しながら大久保のシュートコースを消して大久保のシュートを防いだり、相手の背中を突いて抜け出した途中出場の船山貴之(実は桐畑と船山は柏U-18の同期)に正対してギリギリまで我慢した事で船山のチップキックミスを誘うなど、相手に正対してシュートコースを消す早さとギリギリまで相手のプレーを見極める我慢強さを十分に発揮し、J屈指の攻撃力を誇る川崎Fにゴールを割らせませんでした。

横浜FM戦、そして川崎F戦の流れを見ると次節以降も柏のゴールマウスを守ることになりそうな気がします。

ちなみに桐畑は2007年カナダで行われたU-20ワールドカップの日本代表メンバーで、林彰洋(サガン鳥栖)の控えキーパーでした。


◯「頭のミス」が連続した大島僚太

続いては川崎Fについて。
川崎Fは前半は、FC東京戦、サガン鳥栖戦までの4-2-3-1ではなく、4-1-2-3で試合に臨みました。

序盤は川崎Fが4-2-3-1で来るだろうと想定していた柏が想定外の事態に対処しきれていない為、ある程度川崎Fはボールを持てる展開になりましたが、川崎Fの最終ラインがアンカーの大島僚太にボールを出させるように、柏の前線が仕向けて大島が受けた瞬間に狙いを絞ってプレッシャーを掛ける事で対処しました。

それによって川崎Fの最終ライン、特にCBの一角である車屋紳太郎が相手のプレッシャーに怖がり大島しか見えなくなっていた。受けた大島も相手のプレッシャーを怖がって近くの味方を探しながらサッカーをしていた為、チーム全体として「恐々とパスを回している」印象になってしまいました。

特にアンカーとしてスタートした大島は近くの味方「しか」見えていない、且つ相手のプレッシャーを「見て」しまった事で安易な縦パスはカットされ、トラップも乱れたりと、アンカーとしては「失格」と言わざるを得ないプレー内容でした。アンカー以前にプロサッカー選手として「失格」の内容と言えるでしょう。

以前記事でも紹介しましたが、大島は「相手を見て」サッカーが出来る選手ですから相手を動かして矢印の逆を取って相手を外すのが上手いですし、味方も含めて全てが見える選手です。ですからいくら初めてのアンカーであろうが「根本的にやる事は変わらない」筈なのです。
当然柏戦に向けての練習でも大島のアンカーに手応えを感じたから、風間八宏監督は大島をアンカーに置いたはずです。風間監督は基本的に「練習の技術と試合の技術は一致する」と考えている方ですので、練習で機能した形で試合に臨みます。

それが蓋を開ければ大島は消極的なプレーに終始し、昨シーズン終盤に見せた「弱気の虫」が出てしまいました。アンカーとしては完全に「お話になりません」。
いくらプレッシャーがキツいと言っても「ドルトムント程ではない」訳ですし、大島の技術を以ってすれば簡単に外して前にボールを動かせるシーンは沢山作れる筈です。

風間監督は清水FCのスペトレで指導していた頃から、パスを出せるのに出さない、相手を外せるのに外さない、相手が「見える」筈なのに「見て」しまう、そういった消極的なプレーを「頭のミス」と表現しています。
まさに大島は中盤の底で「頭のミス」を連発していたのです。

風間監督も試合後の公式記者会見で
「二つ足りないところというか、残念なところ。一つはゴールを決めきれなかったこと。そしてもう一つは普段通りに、特に頭の考え方ですね、普段通りの思考でやれなかった選手が何人かいた。」
とコメントしました。
当然「普段通りの思考でやれなかった選手」の一人に大島は含まれていると思います。

著書「革命前夜」(風間八宏/木崎伸也著)にて、風間監督が筑波大学蹴球部を率いていた時に
「たとえ頭のミスを1度したとしても、それを受け入れちゃダメなんだ。失敗なんて恐れず、成功に合わせ続ける。そういう心のコントロールをできるようにならなければいけない」
と話していました。

川崎Fのサッカーは1人が頭のミスをし始めると攻撃がノッキングしてしまい、サッカーになりません。
前半、川崎Fが全くサッカーにならなかった、相手に中盤を「制圧」された最大要因でした。

大島の今後の課題は「頭のミスを続けない、受け入れない」事だと思います。むしろ「お前らが顔出さねえからパス出せねえし」と自分のミスを味方の所為にするくらいのメンタリティーが、極論大島には必要なのかもしれません。

試合後、中村が再三の決定機を外した中村が涙を流してピッチを去ったそうですが、個人的に一番涙を流すくらい悔しさを感じて欲しかったのは大島かなと思いました。

◯杉本健勇は何をしにピッチに立ったのか?

続いては今回3トップの左としてスタメン起用された杉本健勇について。

いきなりですが彼は日立台のピッチに「何をしに来た」のでしょうか?

確かに杉本はセレッソ時代を含めても左サイドの経験は殆どありません。
何故風間監督が彼を左で使ったのか、公式記者会見の場で誰も突っ込まなかったのでその起用の意図も闇の中です。
ただ、杉本が「何もしなさ過ぎる」のはどこで起用されようが大問題だと思います。

殆どやった事のないポジションで戸惑うのは大島同様気持ちは分かります。ただ杉本の左も練習では機能したから風間監督は左で起用したのだと思いますから、風間監督からすれば「やれて当然」と思っていた筈です。

ただ、蓋を開けてみればゴール前で絡んだのは中村のアーリークロスに頭で合わせに行った1本だけでした。
それだけ杉本から「受ける意思」が感じられなかったのは、誰が見ても分かったと思います。

左サイドでのプレーが窮屈なら何故、CFの大久保に試合中「俺が真ん中でボールを収めたり競ったりするからヨシトさんは左にいて」というアクションを起こさないのでしょう?
未だに「周りが活かしてくれる」というさながら指示待ち人間のメンタリティーでプレーしているのでしょうか?
だとしたら甘えも甚だしい。
そんな事だから宇佐美貴史、柴崎岳、武藤嘉紀といった同い年の選手達に圧倒的な差を付けられるのです。

正直ピッチ上で「何もする気がない」のならユニフォームとスパイクを脱いで脛当てを外してピッチから去って電車で自宅に帰って欲しかったです。

かなりキツい表現にはなりましたが代表候補に選ばれているからこそ、彼の眠っている能力への期待値が高いからこそ要求は高くなるのです。
左だろうが真ん中だろうが右だろうがスタート位置など関係ありません。川崎Fはシステムでサッカーするチームじゃありませんから。
味方にパスやクロスを出させるようにアクションを連続して起こし続けて「よこせ!」という「意思」を自分から発揮する。それをやらない限りは「川崎F背番号9杉本健勇」は今シーズン限りとなるでしょう。
これからも誰に何と言われても彼には大きな期待を寄せたいと思います。

◯田坂祐介が「レナトロス」を解消させる?

「普段の頭」でゲームに入れなかった人間が何人かいた中で、可能性を感じさせるプレーヤーもいました。それが田坂祐介です。

前半は3トップの右、後半は3トップの左…というより森谷賢太郎との2シャドーの左といった方が良いでしょうか(この2シャドーがなかなか面白かった。彼らには浦和の武藤雄樹と梅崎司のような関係になって欲しいと思いました)、とにかく前半と後半でポジションが逆になりましたが、積極的に間でボールを受ける、パスを出した後に正しく動く、ドリブルで仕掛けるといったゴールに向かうプレーは川崎Fの前線を、特に後半は活性化させました。

一番可能性を感じたのは「ドリブル」です。
左サイドを自慢のドリブルで「制圧」していたレナトが前節の鳥栖戦の直前に中国スーパーリーグの広州富力へ移籍が決定し、「個」で局面打開できる選手がいなくなりました。
そんな中で後半、左サイドに配置された田坂はドリブルで積極的に仕掛け、決定機も演出しました。

そして何より田坂からは「俺がチームを勝たせるんだ!」という強烈な「意志」をプレーから感じました。
この辺はドイツ2部リーグ、ボーフムで3シーズンプレーし、「背番号10」を背負った「自信」から発せられているのかもしれません。

田坂の積極的な仕掛け、出した後の動き出し、そして勝利への強烈な「意志」を見て、ようやく左サイドの適任者が見つかり、「レナトロス」を解消させてくれるかもしれないと感じました。


以上です。

柏は次節アウェーのユアテックスタジアム仙台でベガルタ仙台とのゲームに臨みます。
ユアスタのピッチはお世辞にも「良い状態とはいえない」ので、ボールを動かす柏にとっては思い通りにボールを動かせない展開が続くとは思いますが、焦れずにボールを動かしてゴールに結び付けて欲しいと思います。
加入が決まったエデルソンの起用法も含めて注目したい所です。

一方敗れた川崎Fはホームの等々力競技場で年間順位では最下位に沈んでいる清水エスパルスを迎え撃ちます。
清水には1stステージ、清水のホームスタジアムであるIAIスタジアム日本平(通称「アイスタ」)で2-5と大敗しています。昨シーズン終盤も、等々力で清水相手に2-3の逆転負けを喫し、リーグ戦では清水には2連敗中です。

更に清水は韓国Kリーグの名門、水原三星ブルーウィングスから、かつて川崎Fの「背番号9」を背負い等々力を沸かせてきた元北朝鮮代表のチョン・テセがオレンジ色のユニフォームを着て、「背番号9」を背負い、等々力に帰ってきます。

大前元紀、ピーター・ウタカ、ミッチェル・デューク、石毛秀樹ら、一度乗せたら止まらない破壊力抜群の攻撃陣にテセが加わり、さらに強力な攻撃陣が形成される事は間違いありません。

ただし後ろに関しては、かつて大分トリニータを率いていた田坂和昭さんが再び清水のコーチに就任して整理しようとしている動きが見られますが、まだまだ整理出来ている印象はないので、ボールを自信を持って動かし続け、前に積極的に仕掛け続ければ、相手を崩せる可能性は高いと思います。

とにかく今回のように「頭のミス」を連続させないように、今度は次節まで中5日と準備期間はありますから、武岡優斗や小林悠の怪我の回復具合でまたメンバーの入れ替えもあるかもしれませんが、全員が自信を持って試合に「参加」して欲しいと思います。