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4月24日(日)に等々力競技場で行われた、明治安田生命J1リーグ1stステージ第8節、リーグ戦無敗の首位川崎フロンターレと勝点差1で追う3位浦和レッズは、後半9分、武藤雄樹のゴールで先制した浦和が、川崎Fに決定機を殆ど与えず0-1で川崎Fを下しました。

同時刻にカシマスタジアムで行われた、同じく川崎Fを勝点差1で追っている2位鹿島アントラーズと柏レイソルのゲームで鹿島が柏に0-2で敗れた為、浦和が首位浮上。川崎Fはリーグ戦初黒星を喫し、浦和と勝点差2の2位となり、首位陥落となりました。

○「誤魔化し」で勝てる程浦和は甘くない

前述の通り、浦和戦の前まで、川崎Fはリーグ戦無敗の首位に立っていました。
総得点も18とリーグトップ。まさに川崎Fらしい首位の立ち方でした。

但し総得点が多くても川崎Fの攻撃のクオリティが高かったのかと振り返るとそうではありません。
殆どの得点が大久保嘉人、小林悠、中村憲剛といったチームの中心選手達が「力づく」で相手のゴールをこじ開けたり、相手チームの試合運びの不味さを突いて得点を積み重ねてきた部分が多く、ボールを動かしながら相手を崩して得点まで持って行ったシーンは殆どありません。

大きな理由としては2点あって、まず1点目はボールが縦に進まず、横に流れる事です。
前線への縦パスが少ないからボールが縦に進まない。横パスで「逃げて」しまい相手のディフェンスがセットする時間を許し、崩すのが難しい状況を自分達で作っているシーンが今シーズンは散見されます。
また、大久保や小林が相手を外しているタイミングでボールが入らず、天を仰ぐシーンが今シーズンよく見られるのも上記が要因です。

あともう1点は中盤での組み立ての位置が低く、大久保、小林の2トップと中盤の間の距離が開き過ぎている事です。

今シーズンもう一つ散見されるのはダブルボランチが組み立てる位置が低いという事です。
これは奈良竜樹とエドゥアルドの両センターバックがビルドアップに課題を抱えている事が大きく関わってきているのかなと思います。

川崎Fはボールを持ったらまず「一番遠くを見る」所から始まって、受け手が数cmでも相手の逆を突けばその選手は「フリー」になります。
奈良とエドゥアルドはまだ持ったら近くを探しているので遠くで味方が敵を外しているのが見えておらず、他チームとは違う「フリー」の概念にもまだ慣れていません。
なのでサポートの為にボランチが下がってボールを受けに来なければならず、結果的に前との距離が遠くなってしまいます。

そうなると今度は前線の選手が下がらなければならず、どんどんボールを持つ位置が低くなって相手ゴールまで遠くなってしまうという悪循環が起こります。

この2点の現象が、大久保がサッカーダイジェストのインタビューで言っていたように、今シーズン守備の意識を高めたが故に起こってしまっているのかどうかは分かりません(奈良とエドゥアルドに関しては「慣れ」の問題もありますが)。
ただ、今シーズンの川崎Fはこの問題が解決出来ないながらも前述の通り個人の「力技」でこじ開けてきた事、あと守護神チョン・ソンリョンと奈良、エドゥアルドの両センターバックで奮闘した事でここまで無敗で突き進めました。
正直、試合ぶりとしては「いつ負けてもおかしくない」試合ぶりだったので、この大一番で恐れていた事が起きたなという印象でした。

更に浦和戦での川崎Fはとにかくボールが止まっていなかったというマイナス要素も重なりました。
ボールを思い通りの場所に置けず、浦和が陣形を整える時間を作ってしまい、前への速さを生み出せませんでしたし、数少ないチャンスも逸しました。

確かにこれまで力技と守備の奮闘で勝点を積み上げてきたのは高く評価すべき点ではありますが、川崎Fの持ち味は全員が正確にボールを出して動くを繰り返して相手を崩す事なのにそれが出来なくなっている状態で百戦錬磨の猛者達が集う浦和を崩す事など出来ません。

「誤魔化し」で勝てる程浦和は甘くはないという事です。

○最後まで受け手を「潰した」浦和

フロンターレ側の攻撃の問題が今回も出ていたにせよ、浦和も上手く試合を進めていたなと思います。

立ち上がりから高い位置で相手にプレッシャーを掛けて相手陣地でサッカーをする時間を多くする。真ん中では柏木を起点に興梠、李、武藤の「KLM」が上手く絡み細かくボールを動かして相手を動かしながら両サイドの関根、宇賀神を使って幅を広げるいつも通りの試合運びで序盤からペースを握りました。

アジアチャンピオンズリーグのシドニーFC戦をアウェーで戦った影響もあったか、ペースが落ちた前半の終盤、川崎Fがシステムを変更した後半の立ち上がりこそ川崎Fにペースを握られましたが、森脇の縦パス→李のダイレクトでのヒールパス→武藤の低い弾道で且つカーブをかけたシュートをゴールに突き刺して先制(ボールウォッチャーになって武藤をフリーにした大島と武藤のシュートを見切るのが早過ぎて腕を伸ばすのを怠ったソンリョンは猛省もののミス)。

先制して以降は自陣に重心を掛けながらもボールの受け手に対して複数人でプレッシャーを掛けてボールを奪い、少ない人数でカウンターを仕掛けるというリードしているチームの「定石通り」の戦い方で川崎Fに殆どペースを握らせずの文字通り「完勝」でした。

この試合の浦和を見て驚いたのは、受け手に対しての複数人での潰しが想像以上に速かった事です。そしてそれが最後まで続いた事で川崎Fの攻撃の「可能性」をゼロにしました。

また中村や大島がボールを持った時にはスイッチを入れるパスを出させないような立ち位置に立ち、上手く中盤と前線を分断させました。

特別な川崎F対策を敷いた訳ではないと思いますし、特別凄い守備をしている訳ではないと思います。

いつも通り「全局面で相手を圧倒」しようとして、それがしっかり出来たというそれだけの事です。

ただ川崎F相手に普段通りの戦いを遂行するのはなかなか簡単な事ではありません。
それだけに今回の浦和の勝ちっぷりには拍手を送りたいと思います。
ナイス且つパーフェクトなゲームでした。

○試合は好ゲーム。ただ残念だったのは…

ゲーム自体は共に「殺傷能力」が高いチームであるが故、ほんの僅かなミスが決定機に繋がる緊張感のある好ゲームだったと思います。

但し残念だったのは川崎Fが浦和に「冷や汗すらかかせられなかった」事です。

ボールを持って相手を圧倒するスタイルが持ち味である筈の川崎Fが相手に冷や汗すらかかせる事が出来ず、逆に全局面で圧倒されて敗れたというのは、敗戦という「結果」以上に残念でした(強いて冷や汗をかかせただろうシーンとして挙げるならば小林と田坂が決定機を外したシーンでしょうか。小林はシュートの前のトラップが流れ過ぎた時点でダメだと思いましたし、田坂に関しては西川にニアのコースを切られていたので、田坂の真正面から来たボールを左足でファーのコースに蹴らなければいけない難しいシチュエーションではありました)。

それも前述した通りの攻撃のクオリティの低さが基本的な要因で、見識のある方や大久保嘉人がシーズン始まってからずっと苦言を呈してきた事に、スタジアムで観て「仰っていた通り」とより納得してしまいました。

この問題はそう簡単に解決出来る事ではありません。全員のボールを扱う技術、目で見る技術、頭で考える技術、身体を扱う技術、全ての「技術」が揃わなければ解決しませんし、たった数週間で揃う程簡単ではありません。

次節の相手は一昨シーズンの三冠王者であり昨シーズンの天皇杯王者であるガンバ大阪と、G大阪のチーム状態は本調子ではありませんがやはり「誤魔化し」の効かない相手ではあります。
且つ川崎FはG大阪にアウェーで1回も勝った事がありません。
今シーズンからG大阪は、日本屈指の巨大なサッカー専用スタジアムである吹田スタジアムをホームスタジアムにしていますが、川崎Fは果たして鬼門を突破出来るのか。上位争いを続ける為には当然ながら連敗は許されません。

一方、首位に立った浦和は小倉隆史新監督率いる名古屋グランパスをホームスタジアムである埼玉スタジアム2○○2に迎えます。

名古屋は現状、長身のCFシモビッチの高さを活かすサッカーをベースに、徐々にボールを動かして5人目までが連動するスタイルを植え付けようと模索している最中にあります。

浦和としてはチームの完成度の違いをしっかりと見せ付けて勝点3を手にし、首位をキープしたい所です。