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3月18日(日)に行われた明治安田生命J1リーグ第4節、現在風間八宏監督が指揮をとる名古屋グランパスと、2012年から2016年まで風間監督の指導の元、サッカーの礎を築いた川崎フロンターレの所謂「風間流」同士の対戦は、65分に途中出場した大久保嘉人が投入直後に中村憲剛のフリーキックをヘディングで決めたゴールが決勝点となり、川崎Fが0-1で勝利を挙げました。

○前半の名古屋のサッカーに見たかつての川崎Fのサッカー

同じ「風間流」とは言え、両者のサッカーは微妙に異なります。ボールを持ったらパスとドリブルを交えながらゴールへ一直線に進んで真ん中を崩しに行く、縦に速い名古屋に対し、川崎Fはボールを動かして相手を揺さぶりながら、相手に隙が出来た瞬間にテンポアップして仕留めに行くサッカーをしています。

名古屋のサッカーを見て思ったのは、風間監督が就任した2012年〜2013年あたりの川崎Fのサッカーに近いなと感じました。
沢山ボールを繋ぎつつ、レナトのドリブルも交えながら縦に一気に突き進み、速いテンポで真ん中を崩して行くスタイルには見ていて物凄くワクワクしたものです。

川崎Fが縦に速いサッカーから遅攻で揺さぶるサッカーに変わって行ったのは、2015年の夏にレナトが中国の広州富力に移籍した事も絡んでいると思います。ドリブルで一気に運べるレナトがいなくなった事で縦に速く攻め込む為の「武器」が無くなり、パスワークで揺さぶりながら崩すサッカーに徐々にシフトしていきました。

今、名古屋にはガブリエル・シャビエル、青木亮太の両ワイドトップ、インサイドハーフの和泉竜司、左サイドバックの秋山陽介と、ドリブルで突っかけられる選手が多くいて、さらに最前線にはジョーというボールの「収め所」が君臨している為、縦に速くボールを動かし、迷いなく真ん中を崩しに行くサッカーを志向する事ができます。

名古屋のサッカーを見ながら、かつての川崎Fのサッカーに対して感じたワクワク感をまた感じる事が出来たのは物凄く嬉しかったです。

○得点以上に貢献度が高かった大久保嘉人の「時計を動かす」プレー

後半に入り、60分以降名古屋が徐々に前に行けなくなると、川崎Fが攻守でゲームのイニシアチブを取り始めます。
そして、65分、家長昭博に代わって投入されたばかりの大久保嘉人が、中村憲剛のフリーキックを頭で合わせて今シーズンのリーグ戦初ゴールを挙げました。

1点を取って以降、川崎Fはボールを持ちながら無理をせず、守る時は守って、最後まで試合をコントロールしてゲームを終わらせました(名古屋の交代策がハマらなかった事にも助けられたと思います)。
1点を取って以降の川崎Fはまさに「王者の風格」を漂わせるゲームコントロールだったと思います。

その中でも特筆したいのが大久保のプレーぶりです。

自ら得点を奪った後、大久保は最前線にポジションを取りながら、下がって相手の間に位置取ってボールを受け、味方にはたいて前に走る動きを繰り返します。
大久保は自分が後ろに下がる事で相手がどこまで付いて来るかというのを平気で試合中に試せる選手です。
案の定名古屋のセンターバック2人、櫛引一紀と菅原由勢、さらにはアンカーの小林裕紀もどこまで大久保に付けば良いか分からず、名古屋の真ん中の守備に混乱が生じました。

更に時間が進んで行くと、大久保の「時計を進める」プレーの巧さが際立ってきます。

相手からボールを奪って、本来であればカウンターのチャンスである場面で、ボールを受けた大久保は一気に前に行かず、敢えて溜めを作るプレーや(味方の上がりを待つ効果もありました)、相手が自らに対して厳しく寄せに来るだろうタイミングでドリブルを仕掛けてファールを誘うプレーで効果的に時計の針を進め、チーム全体のプレーやメンタルに余裕を与えました。

大久保は本能で闘志を剥き出しにする野生的な雰囲気を漂わせながらも、サッカーをよく知っている「頭脳明晰」な選手です。
相手を見ながら「いつ」「どこで」「何を」「どうするのか」を瞬時に判断し、最適なプレーを選択する事ができます。更に簡単に奪われないボールスキルの高さもあり、対峙する選手にとって、大久保という選手程嫌らしい選手はいません。

昨シーズン、川崎Fが優勝した際、川崎Fに所属していなかった大久保が「王者の振る舞い」を分かっているのも、大久保の「頭の良さ」を考えれば当然の事なのかもしれません。

○登里享平が前半に1度見せた「アラバロール」

川崎Fで「頭が良い選手」と言えば、リーグ戦では前節のガンバ大阪戦に続いて、左サイドバックでスタメン出場した登里享平もそうです。

チームのムードメーカーとしてのイメージが強い登里ですが(中村憲剛のゴールパフォーマンスを毎年授けているのが登里です)、彼も「いつ」「どこで」「何を」「どうするか」を、相手を見ながら判断し、最適なプレーを選択出来る、まさに頭脳明晰な選手です。

そんな登里が前半に1度だけ見せたあるポジショニングに思わず「おっ!」と驚きを隠せませんでした。
そのポジショニングとは、ボールを持っている味方の縦方向にパスコースを作る為に、サイドバックの位置から、ボランチと一般的に言われている中盤真ん中に位置取ったポジショニングです。

ボール保持時にサイドバックがボランチの位置にポジショニングして攻撃の組み立てに参加するサイドバックを「偽サイドバック」と最近では呼ばれています。
現在、イングランドのマンチェスター・シティを指揮している、現役時代はスペイン代表、そしてスペインのバルセロナの中盤に司令塔として君臨したジョセップ・グアルディオラ監督が、ドイツのバイエルン・ミュンヘンを指揮していた時、左サイドバックのダビド・アラバ(オーストリア代表)に中盤真ん中に位置取る、当時のサイドバックの常識を変える役割を与えた事で「アラバロール」という呼び方をする人もいますが。

ちなみにグアルディオラ監督は現在指揮しているマンチェスター・シティでも、元々中盤の選手であるファビアン・デルフ(イングランド代表)やオレクサンドル・ジンチェンコ(ウクライナ代表)をサイドバックにコンバートさせ、「偽サイドバック」としての役割を担わせていますし、Jリーグでも、横浜F・マリノスで左サイドバックを務める山中亮輔が、今シーズンからマリノスを指揮する元オーストラリア代表監督のアンジェ・ポステコグルー監督に「偽サイドバック」としての役割が与えられています。

ただ、川崎Fではサイドバックの選手に偽サイドバックとしてのタスクを与えていません(エウシーニョが常識外の上がり方をしますが…)。
登里は自然に状況を見ながら、味方のパスコースを作る為に偽サイドバックとしての振る舞いを見せたのです。
誰にも仕込まれず、自然に偽サイドバックの役割をこなせる選手など日本人の中ではあまり…というかいないのですが、それを自然にやってしまう登里の頭の良さには恐れ入りました。
個人的には登里にはボランチで起用してみて欲しいのですが…。
どうですかねえ鬼木さん…(笑)。


名古屋と川崎F、同じ「風間流」同士の試合は理屈抜きで90分間観ていて楽しかったです。
プレーが殆ど途切れなかったですし、ボールスキルが高い。あと、風間監督の言葉を借りれば、両チームが「主語」になろうとしていて、相手から逃げなかったのが爽快でした。

次に両チームが対戦するのは9月末の等々力競技場です。
風間監督が川崎Fを指揮していた時代に熱狂を起こし続けてきた等々力のベンチに、名古屋の指揮官として帰ってくる風間監督に対してどんな感情を抱くのか、そして等々力のピッチはボールがよく走るので、今回よりも更に面白い「主語のぶつかり合い」が観られそうで今から楽しみです。

9月末の川崎F×名古屋は、是非等々力のスタンドから観戦したいと思っています。