■86の嘘 | こまきのブログ

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トヨタ86(はちろく)という新しいスポーツカーの発売で、ネットでも雑誌でも話題になっている。トヨタはまるで世界最高のスポーツカーかのような自信満々のアピールをしているし、ジャーナリストは絶賛記事を書いている。

しかし、トヨタの広告は嘘を巧みに織り交ぜた物。そしてそれを非難できないメディアやジャーナリスト。堂々と巨大メーカーに指摘できるジャーナリストは本当に少ない。

86の宣伝内容で最も目立っている大嘘の筆頭と言えば前後重量配分だろう。トヨタは前後重量配分が53:47 だと言っている。そしてそれが技術と努力の結晶だとか、スバルとトヨタが力を合わせて難題をクリアしたとか、感動の開発ストーリーまで語られる始末。

この数値を最初に知ったときは特に疑う事もなかったし、普通に 『今時の新型で
53:47 では全然ダメ』 的なブログを書いたのだが、実際には全然ダメなこの数値すら嘘だった。GグレードのMTで、車検証の軸重は680kg:530kg、つまり前後重量配分は56:44 となる(ATではもっと悪く、57:43)。

「53:47 というのは2名乗車時のものだ」 と指摘を受けそうだが、それがこの嘘の巧みな部分。
2名乗車で53:47 というのが、そもそも嘘なのだ。

ここでマツダのロードスター(NC型)を見てみよう。ロードスターは旧モデルから 『2名乗車で50:50』 を実現してきたことで有名な車だが、車検証の軸重は580kg:後520kg となっている。つまり

マツダ・ロードスター: 空車時53:47 ⇒ 2名乗車時50:50

という変化。この理由は、カタログの写真でも見ればすぐに判る。

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2シーター(定員2名)のFR モデルであるロードスターは座席が後輪(後軸)付近にあるため、乗車時に増える荷重の多くは後輪にかかる。フロントに対し60kg 少なかったリアの軸重が、後部寄りの2名乗車でフロントと並ぶわけだ。

では86 はどうか。
本当に、ロードスター同様の

トヨタ・86: 空車時56:44 ⇒ 2名乗車時53:47

このような変化をするだろうか。バランスが後ろ寄りに変化するためには、乗車位置が後輪付近でなくてはならないが・・

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見ての通り、4シーターの86 は乗車位置が前後車軸のほぼ中央。車業界では人の体重を55kg で計算する事になっているが、何kg であれ、この乗車位置では前後重量配分の変化はほとんど期待できないはずだ。


ネット上でもコーナーウェイト実測データ が見つかるが、これを見ても、ドライバー乗車時(ここでは67kg の人だったらしい)で55.8:44.2 となっており、通常表記で56:44 だ。完全に予想通りの 「変化なし」 という結果。67kg を55kg×2名乗車に換算しても同様、53:47 には到底とどかない。フロントに対し150kg も少ないリアの軸重が、この乗車位置で大きく変化するはずもない。最初から判りきっている。
 
よって、正しくは以下の通り。
トヨタ・86: 空車時56:44 ⇒ 2名乗車時53:47
トヨタ・86: 空車時56:44 ⇒ 2名乗車時56:44
ちなみに、実測値ではなくデータのみで割り出しても、やはり結果は似たような計算になる。

 

(ドライバーが前後輪の中央あたりに位置する事について 「ドライバーを中心に置く設計」 などと意味ありげに語る解説も存在するようだが、これは普通のファミリーセダンやタクシーでも全く同じで、4シーターの平凡な姿。もともと意味などない。逆に、スポーツカーでドライバーが後輪に近いメリットは、ある程度の経験者なら解るだろう)

元々86 は、写真一枚見れば  『この車が53:47 なんてあり得ない』 と気づくプロポーションをしている。前後のオーバーハングが、前後重量バランスの良いFR車の比率ではないのですぐに判る。FFベースのAWDでおなじみの、いかにもスバルの設計らしい姿

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トヨタの広報資料には 『社内測定値』 と書いてあるが、その数値はどうやったら得られるのか。まっとうな方法では無理だろう。


さて、ロードスターのように変化の大きい車とは違い、ほぼ変化しない86 が2名乗車時の前後重量配分を語る必要など全くない。素直に車検証のデータそのまま前後重量配分56:44 と発表すればいい。そうすれば嘘を盛り込む余地も無くなる。
これからは、86 の前後重量配分は車検証通り56:44 だと覚えておこう。

(* ̄ω ̄*)/ 『広告の嘘は解った。
んじゃそれで話を進めるとして、前後重量配分56:44 というのは悪い数値なのか?』 

答:悪い


90年代トヨタFRスポーツカーの代表だった80スープラでも、前後重量配分は53:47 だった。それが、誇らしげに前後重量配分をアピールする新型スポーツカーの86 が56:44 とはどういう事だ。昔より悪くなっているじゃないか。あるいはまた、この86 という名前の元になっているAE86   (えーいーはちろく) と比べてみてもいい。漫画の影響で誤解もあるようだが、元々AE86 は安いカローラの2ドアタイプというだけであり、中身は単に 『昭和のカローラ』 だ。もちろん前後重量配分なんて考えちゃいないし、当然エンジンもありきたりの配置。昭和60年式のレビン2ドアの車検証データを見ると、軸重は520kg:420kg、つまり55:45 の前後重量配分だ。まあ、こんなものだろう。しかし、この無対策のAE86 にも劣る新型86 の56:44 という数値。技術の結晶とは笑わせる。いや、スポーツカーどころか、10年前のおっさんセダンですら55:45 程度のバランスは普通に実現している。事実、アリストアルテッツァ55:45 だった。


53:47 ⇒ 80スープラ
55:45 ⇒ AE86、アルテッツァ、アリスト
56:44 ⇒ 新型86

( ̄▽ ̄;

 

さすがにそのままでは発表できない数値・・・嘘をつくしかない。

(もっとも、その嘘ですらスープラから進化していないわけだが)


86 の開発関係者は 『開発段階で重量配分はいろいろ試したが、あえて50:50 にしなかった』 などと言い、これこそが理想的な前後重量配分であると主張する。技術と努力の結晶の2012年モデルが昭和のAE86 より悪いとは摩訶不思議。それでも百歩譲って、本当に良い重量配分を選んだ(50:50 でも何にでもしようと思えば出来たが、しなかった)という主張を信じたとしても、じゃあなぜ 堂々とその数値56:44 を発表しないのかという新たな疑問が出てくる。なぜサバ読みまくりの 『社内測定値』 なのか。積極的に選んだ理想の数値であれば、少しでも50:50 に近いと見せる嘘は必要ないはずだ。

こういうところがトヨタらしい。嘘を重ねて、結局つじつまが合わなくなっている。『理想の重量配分どころか、大昔のAE86 や10年前の4ドアセダンにも劣る』 とずばり指摘しているジャーナリストは日本にどのくらいいるだろうか。真実は、「スバルの設計がいつものようにフロントヘヴィーだったため、平凡なセダンレベルの前後重量配分にするのも四苦八苦 といったところだろう。この意味では 『技術と努力の結晶』 と言えなくもない。


トヨタの広告で “もう一つの自慢” である460mm の重心高。世界のスーパースポーツに匹敵などと物凄い事のように宣伝しまくっているが、実はこれもNCロードスター(重心高445mm)に負けている水平対向エンジンである86 も、オープンカーであるロードスターも、どちらも低重心になる要素を持っているスポーツカーなので、そこを売りにするのは当然だ。が、結果として86 は、7年前の車に対して後出しで負けている。

ロードスターを知っている人にとって、86 の2大アピールポイントは 『今さら何だ。しかも両方とも負けてるじゃないか』 なのだ。この事実が、膨大なヨイショ記事、コマーシャルの洗脳効果で消えてしまうのだから怖い怖い。他の車をよく知らない少年たちは騙されるだろう。
 

ま、それでも、乗ってみたら良い車だという可能性も無いわけではない。それならそれでいい。

実は86(またはBRZ、以下略)、ロードスター、RX-8、スイフトスポーツなど・・・今売られてるスポーツ系の車に、約1ヵ月間くらい、機会を見つけてはいろいろ乗ってみた。
単純加速、100km/h からのフルブレーキ、ハイスピードのスラローム、旋回中のアクセルオンオフ、ゼロ発進でのホイルスピン、思いつくものは一通り試したつもりだ。その為に場所も選んだ。

乗った中で、86 と同クラスのライバルと思われるのはロードスターだが、86 が走りの性能で勝っていると思う部分は見当たらなかった。フルブレーキで地面に張り付くように止まるロードスターは、いかにも4輪で制動している感じが伝 わってくる。リアの接地感、車体の動きでよく判る。対して86 はフロントタイヤだけで止まっている感ありありで、この辺りはFF のスイフトスポーツと比べても大差ない感触だった。スラロームでは頭の重さをまず感じ、一瞬遅れてオー バーステアへと変化。ロードスターの回頭性の良さとは比較にもならないし、リアが流れたらだらしなく流れっぱなし。発進加速でも、重量バランスの悪さから来るトラクション不足はひどく、ホイルスピンしながらでもググッと前に出るロードスターとは雲泥の差だった。

さらに予想外のことで気になったのは、フロントサスの動きの渋さ。わずかな段差で変な音までする。かすかな音とはいえ、普通はしない音。そして安い社外サスを 組んだ時のような(やや似た)感触。特にサスペンションの出来に期待していたわけではない(トヨタとスバルでは足回りに期待できるはずも無い)のだが、
予想外と言うのは新車で異音までした事に対してだ。しなやかなタイヤが純正装着されている(これで補うことができる)ため目立たないが、意図的に空気圧を上げてみるとサスの欠陥が良くわかるので試した。スポーツ系のタイヤだったらもっと目立つだろう。その後、気になって調べてみたら、86 のフロントサスはマクファーソンストラット式お約束の 「スプリングのオフセット配置」 をしていないじゃないか。なるほど、唐突な入力に対して素直にストローク出来ないのは当然の結果か。ただでさえフロントへヴィーなのに、サスペンションのストロークを妨げる設計。デザインの関係でスペースが取れなかったらしいが、何を優先しているのか・・・本当に馬鹿馬鹿しい。


ネット上でも批判の声はあるようだが、もちろん少数派。86 の出来に物申す記事があっても無知な子供(大人?)のデタラメな理屈が大半の様子。昨日たまたま目にしたブログも、『エコタイヤを履いているせいで雨で滑る、動きが悪い』 という
、頻繁に目にする類のものだった。まず、ここでエコタイヤと言っているのは純正装着のミシュランPrimacy HP のことだが、これ、そもそもエコタイヤじゃない。ミシュランの商品説明も以下の通り。

「PRIMACY HP」は、ウェット性能とドライハンドリング性能を高水準で両立し、ドライビングプレジャーを追求するプレミアム・ハイパフォーマンス・タイヤです。
http://www.michelin.co.jp/Home/News-Promotions/News/20081205

プリウスにも純正採用されていたという事でエコタイヤだと勘違いした無能ジャーナリストが記事に書いて広めてくれたとも聞くが・・・。
Primacy HP 程の有名タイヤも知らないジャーナリストという時点で終わっているが、Primacy HP はベンツSクラスなどの大型ハイパワー車にも純正採用され、200km/h 以上でアウトバーンを走るのに何の不安も無いタイヤ。もちろん雨天性能は折り紙つき。プリウスのようなハイブリッド車は、時に大きな車軸トルクを発生するため、それに耐えうるタイヤが選ばれたのかもしれない。

それを 『雨で滑った。エコタイヤのせいに違いない。だから86 は良くない』 というのだから的外れもいいとこ。それに、ハイグリップタイヤを履かせて滑らなかったら、そんな事で 『良い車』 と評価するつもりだろうか。

変に滑ったり、トラクションがかからなかったり、動きが悪いのは、要するに車の基礎の部分で出来が悪いだけ。バランスが悪いだけ。雨で路面が滑りやすかったから、素性の悪さが表に出たにすぎない。普段は何の問題も無いFR車が雪道でまともに走らないのも同じで、重量バランスがどれほど大事かと言う事を、
雪の上では誰もが思い知らされる。(こんな時トランクに砂袋などを積むとまともに走るようになるのはご存知の通り。BMW などが安定しているのも、50:50 の重量配分で作っているため)


最後に恐るべき宣伝動画を紹介。この動画、ほとんどの人がだまされると思う。なんといっても実走する映像だし、百聞は一見に如かずという具合で説得力を持ってしまう。しかしまた、これも広告記事同様、意図的 に都合よく創作されている。1回見ただけで八百長だと見抜く人は少ないと思うが、簡単に言うと、ライバル車は意図的に姿勢を乱すような走り方をしている。

判り易い場面もあるので一つ示す。この部分ならマニアでなくとも理解できるだろう。


03 Double Lane Change
https://youtu.be/L8mF9vRsv7s?t=366

このテスト、86 は安定した姿勢で苦も無く走るが、ライバルたちはふらついている。では、まず最初、VWシロッコとの対決。よく見ると、スタートの位置がずいぶん違うことがわかる。

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86 のスタート位置はなぜか与えられたコースのかなり外側で、内側スペースが大きく開いている。シロッコはむしろ逆だ。そのまま動画を見ていくと、BMW120i の時もロードスターの時も同様に差がある。

車好きな人には説明不要だろうと思うが、普通の人向けに解説すると

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レースの世界では当たり前だが、どんなカーブでもなるべく外から斜めに入って緩やかなラインで走ろうとする。きつく折れたラインでは苦しくなるのは理解できると思う。昔から、進入は外から⇒内側を走りぬけて⇒最後は再び外へという 『アウト・イン・アウト』 の教えがある。

車の性能に差があるように見せているが、何のことはない、
同じ条件で走っていないのだ。スタート位置が違うせいで86 だけが上の図の青のラインのような進入をし、他の車はグレーのラインのような進入をしているこの最初のハンドル操作でわずかに姿勢を乱したライバルたちは、その時点ではまだ目立たないが、次に反対へハンドルを切った時、更に大きく姿勢を乱す。ラリーで言うフェイントモーションと同じ原理だ。最初から86 を勝たせるシナリオだということが良く解る。

ロードスターについてはゴールシーン↓でもスタートと同様の位置関係で

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終始きついラインを走らされている。
おまけにハンドル操作自体も明らかに急激で、86 より重心の低いロードスターの方がロールが激しいのも当然だろう。逆に言えば、ここまでしないと86 を勝たせることが出来ないという事だ。それでもロードスターは路面をとらえ続け、破綻する事なく走りきった。確実に86 より上だと証明されたようなもの。しかし動画に出てくるコメントは Roadster offers similar performance to the 86. と滅茶苦茶だw。

BMW120i は最後の出口でパイロンに接触するほど不安定な動きになっているが、これは明らかにハンドル操作がおかしい。どう見てもドライヴィングの問題で、しなくていい余計なハンドル操作をしている。

これは一例だが、この動画のかなりの部分で意図的な小細工が多数見つかる。ポルシェケイマンとの円旋回の比較はもう笑うしかない。嘘もここまで大きく出れば、かえって真実味が増すのだろうか。(言うまでもなく、実際の性能はケイマンの方が圧倒的に上。比較にもならない)


とまあ、あれもこれも、86 のコマーシャルに関してトヨタに死角は無いようだ。ロードスターより高い価格設定でも、洗脳すれば売れる。今の豊田社長が良い人そうなのでちょっとは期待していたのだが、会社の体質改善にはやはり時間がかかるだろう。奥田体制下で起用された幹部たちが入れ替わる必要もありそうだ。

あと、トヨタに一言。スポーツカーのカタログなら、せめてエンジン性能曲線くらい載せておけ。そしてアライメントデータを聞いても資料がないと言うディーラー。おいおい。久々の一大プロジェクトちゃうんかい! トヨタにスポーツカーは作れないと言う人もいるが、技術以前の問題だろう。(その後スバルディーラーに行ったら、見たい資料を全て見ることが出来た)

BRZ/86 を特に性能の悪い車だと言うつもりはない。今の技術で作ってあるのだから、それなりには出来ている。が、特別良くもない。レベル的には 「普通の車」 というのが事実だろう。
広告に騙されたり、誤解しないよう注意したい。最初から純粋に走りの性能を追求して設計されたスポーツカーではないので、見た目はカッコイイが、性能的に他より優れているわけではない。言ってみればシルビアNAモデルの現代版という感じ。

確かに水平対向の利点はあって、他の車に比べると重心の低さは街乗り程度でも感じられる。フロントエンジン車にしては気持ちの良い動きだ。また、スバル車らしく、運転しやすい座席や操作系だったのも良かった。スバルはいつも人間工学を良く研究していると思う。ただ、やはり どう見ても価格はボッタクリとしか思えない。それこそシルビアNAモデル同等の価格にすべきだろう。なので、買うなら出来が良く、しかも86より安いロードスターを選ぶだろう。サスペンション一つ見てもロードスターはクラスが違う贅沢な設計と完成度で、アライメントもフル調整可能。スポーツカーとしての基本が、設計段階から雲泥の差だ。


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