幸せな時間はユナクさんからの電話で終わりを告げて
ふたりで戻った教授室で、ソンジェさんは私にそうしたようにユナクさんにも想いを話した。
やりたいことを見つけて自分の道を歩いて行きたいんじゃなくて、国を守る手助けがしたいということ…
ぎこちなかったふたりの間に
和やかな空気が生まれる。
…キミの後押しがあったからだとソンジェさんは何度も言った。
家まで送って行くってふたりで歩く。
いつもの道が街並みごとソンジェさんとの思い出として記憶に刻まれて行くような特別な感じに浸った。
それは私だけなのかな…
ソンジェさんも同じ気持ちなのかな…
手持ちぶたさの手をなんとなく見てるとそのタイミングでソンジェさんの手が触れた。
私は少し躊躇いながらも自分からそっと指先を絡める…
教授室で、ユナクさんとも自分自身とも向き合ったソンジェさんはずっと小さく震えていた。
でも伝え切れないって諦めるんじゃなくて想いをすべて吐き出してユナクさんにぶつけることはできていて…
例えば体のどこかに触れて
そんなソンジェさんに
頑張れって伝えたかったから…
だから…
ソンジェさんは少し驚いたように
でもうれしそうに
私の指先をぎゅっと握り返して、ちょっと離してすぐにまた手のひら全体を包み込んだ。
まだまだ今日は一緒にいたいと強く思った…
その私の願いは思わぬアクシデントで叶うことになった。
ソンジェさんの異変に気付いたのは私。
嫌がるソンジェさんの額に強引に触れるとかなりの熱だということがわかって、部屋に引っ張って連れて行って私のベッドにやっと寝かせた。
…
思えばあの時から熱っぽかった。
「キレイな貝殻見つけてキミにプレゼントするよ」
「そしたらそのネックレスみたいに大事にしてくれる?」
なんて。
まるで帰れない世界にいるような…
あの海でならそんな言葉もすらすら言えた。
思い出してはずかしくなったタイミングでポケットの貝殻も思い出してゴソゴソと探る。
見つけたふたつのきれいな貝殻…
どっちが似合うかななんて見比べながら
小さなベッドにゆったり体をしずめた。
体の具合とは逆に何とも言えない
落ち着いた気持ちに包まれてる…
包んでいるのはキミ。
キッチンに立つ後ろ姿をぼんやり見つめて…
髪に
背中に
おまじないのように視線を送る。
ちょうど振り向いたキミは
「すぐに冷たいタオル用意しますからね。目瞑って待っててください。」
って言った。
やっぱり伝わってるってそれだけでうれしくて…
言うことちゃんと聞いて目を閉じる。
心配そうな顔…
シュンとして…
こっちが心配になるよ。
カーデガンを自分に貸したから熱が出たんだと
それを嘆いて…あんなに慌ててる。
風邪引いたからって早く治さなきゃなんて、
そんな気持ちになったことなかったな。
…
一晩中、側にいて看病して
翌朝、ソンジェさんの熱は下がり迎えの車で帰って行った。
それから数日後、大事を取って大学を休んでいたソンジェさんから全快のメールが届く。
明日から講義に出る…
それがすごくうれしくて
その日はバイトも頑張れた。
…テーブルを片付けてキュっキュときれいに拭きあげる。
カランカランと扉の開く音…
「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいました~」
振り向くとそこには
ソンジェさんがいた。
⑥に続く