「塾の話、していい?」
「もちろん」
 そう、忘れる事などなかった。
「僕の所にも、正確に言うと僕の母親に連絡が入った。一樹君のお母さんからね。行進ゼミナールは諦めて、他の塾に移りましょうとのことだった。そこで転塾希望者は十日までに各学校の担当者、家の中学だと一樹君のお母さんまで連絡を入れると、まとめて手配してくれるんだってさ」
「そこまで、やってくれるんだ」
「そういうのが好きな人は、どこにでもいるみたいだね」
「永井君は、どうするの」
「僕はお断りしたよ。学校と自習でまかなうことにした」
「そういう、対応策、だね」
「そういうこと」
 彼は「また、連絡するよ」といって切った。
 僕は、変な話、彼の「また」と言う言葉に強く引っかかった。繋がりを強く感じたからだ。
「繋がり、か」
 やはり、気になるのだ、秀吉クラスの連中が。彼らは無事に転塾出来るのだろうか。十月から十一月にかけての生徒激減期の時でも、秀吉クラスは残った。一樹君も残っていた。親はきっと転塾させたい気持ちはあったはずだ。しかし、彼はずっといたのだ。僕の教える、秀吉クラスに。
「どうしているのか」
 今の僕みたいに、自分の部屋でぼーっとしているのだろうか。ちゃんと机に向かって勉強しているのだろうか。それとも、遊びに……。それは、ないだろう。彼自身高校に行きたがっていた。それに、自分の学力がぎりぎりということも知っていた。だから、試験に向けて頑張ろうって言ったっけ。
「やっぱり、ほっとけない、か」