「せめて入塾テストとか受けさせても」
「一樹に恥を掻かせたくないんですよ。それに、これ以上ショックを与えたくありません」
 言葉がなかった。
 ショックという言葉がぴったりだった。彼はやっぱり「見捨てられた」と思っているのか。
 いや、そんなことはない。そうしてはいけないのだ。
「あの、一つ提案があるのですが」
「提案、ですか?」
「僕を、家庭教師、一樹君の家庭教師にしてくれませんか」
「家庭教師、ですか」
「はい、ぜひ」
「はあ、でも……」
「お願いします。力になれるはずです」
「では、せっかくですから——」
「よろしくお願いします」
 明後日の五時に行く約束をして電話を切った。
 勢いで言ってしまった。もちろん家庭教師なんてしたことがない。どうやっていいか分からない。でも、やるしかない。彼の為に。ちょっとだけ、自分のために。

 昨日、高校受験すべての日程が終了した。二月の二十五日だ。結局僕は一樹君の他、秀吉クラスの八人にも声をかけた。既に他の塾に入り込めた子や、家庭教師を雇った生徒もいた。中には僕や塾の事を罵倒した母親もいたが。最終的に一樹君を含め、四人の家庭教師を担当した。そのうち二人は元茶髪の女の子達で、一緒に見て欲しいとのことで、どちらかの家に集まり、面倒を見た。
 自分のテストもあった。今回も徹夜して勉強した甲斐があり、再試はなかった。
 携帯が鳴った。永井君からだ。