リーダーが体調を崩して、東京に戻らずもう一泊すると聞いたのは、同じ県で行われていたロケが終わって、さあ帰ろうというときだった。俺は送迎車の後ろの席で、ぼんやりと窓の外を見ていた。
「そんな具合悪いの?」
「いや、大事をとって…ってことらしいです。風邪気味だったところに、胃が痛み出したと」
送迎車の運転席のマネージャーはスマホ画面を見ながら答えた。
「リーダー、ここから30分くらいのところだったっけ、ロケ」
「そう…ですね、車だとそれくらいかもしれませんね」
お前、何考えてんの?と、俺は自分に言い聞かせるように問いかけた。
お前が行ったところで、リーダーの体調が戻んの?
いくら相手が弱ったところを狩猟(ハント)したいとか言っても、それとこれとは話が別…
「なあ…ちょっと、寄ってくんない?」
するりと言葉が出た。マネージャーは多少びっくりしたようだったが、すぐに頷いて、エンジンをかける。
車は静かに走り始めた。
リーダーが休んでいるホテルに着いて、リーダーのマネージャーに部屋を教えてもらう。マネージャーは、リーダーが、自分に看病させてくれないと嘆いていた。俺は、いろんな看病グッズと非常時用にマネージャーがリーダーから借りたキーを持たされて、部屋のドアを開けた。
「リーダー、俺だけど…入っていい?」
部屋の中は薄暗かった。「いいよ」って力のない声が聞こえてくる。
「大丈夫?」
「ニノ…」
リーダーは俺の顔を見て、驚いて起き上がろうとした。
「…寝てていいよ」
「な…何しにきたの?」
何しに来たんだろ、俺…
俺が聞きたいよ…
「か…んびょう?かな?」
「いいのに。仕事あんだろ?」
「さっき終わったよ」
俺はツインベッドの、リーダーが寝ていない方に腰掛けた。
「マネージャーが、看病させてくれないって嘆いてたよ」
「…だって、あんま触られたくないんだもん…」
「あなた、昔からそうだね」
「あ、もしかして、だからニノが来たの?」
…それは裏返すと、俺は触っても平気ってことだけど…
この前は、「くっつくの、やめて」って言ったくせに…
他意のなさそうな顔に、複雑な気持ちになった。
今日は、触ってもいいんだ…
「…まさか。来たのは俺の意思だよ。来たらいろいろ持たされたけど」
俺は安心させるように微笑んで、手に持った、看病のために持たされた薬やらタオルやらドリンクなんかをベッドサイドのテーブルに置いた。