Side N
…信じらんないっ…
もう、絶対入るスペースなんてないのに、後ろから横から、すごい力で電車の奥へ押し込まれる。
そのとき、ぐいっと手を引かれて、奥のドアの少しだけ空いたスペースに収められた。
耳の脇でどん!と音がする。
翔ちゃんはカバンを肩にかけて、俺を他の乗客から守るように、両腕を伸ばして、握った拳を俺の頭の上の方で窓についていた。
「ニノ…大丈夫?」
「大丈夫…すごいね…いつも…こんな?」
「そう、すごいだろ?だから一限目からある前の日はなるべく実家じゃなく、あっち泊まる…ぅわっ…」
ドアが閉まって、またありえないような強い力で窓に押しつけられる。電車はゆっくりと動き出し、すぐに速度を上げた。
俺にかかる分を受け止めてくれているのか、翔ちゃんが身じろぎすると、俺の体にのしかかる圧力がふっと軽くなった。
「翔ちゃん、俺、平気だから…手外していいよ?」
目の前に、翔ちゃんの喉仏が見えた。
「バカ、受験生が何かあったらどうすんだ」
っていうか…
体はくっついてるわ、顔は近いわで…
俺の気持ちが平気じゃないんだけど…
「暑い?ニノ、顔赤い…」
耳元で、小さいけれど優しく、低い声で囁かれて、ますます顔が熱くなった。
「あついけど、大丈夫…」
「蒸すもんね…電車ん中」
翔ちゃんは、周りを見ながら、着ているシャツの首回りを開けたいのか、少し首を振った。
襟を開けてあげたくて、腕を動かそうとしたけど、横にも後ろにも四方八方、他の乗客に囲まれていて、指くらいしか動かせない。
「いいよ、ニノ…大人しくしてな」
翔ちゃんは俺の動きに気づいたのか、俺を見てふっと目を細めた。
「いいよ、ニノ…大人しくしてな」
翔ちゃんは俺の動きに気づいたのか、俺を見てふっと目を細めた。
電車の振動に紛れて、翔ちゃんの付けている香水と、翔ちゃんの匂いがかすかにふわっと香る。
…どうしよ…
これで小一時間…たえられるのかな…
…どうしよ…
これで小一時間…たえられるのかな…
いろんな意味で…
電車は、次の停車駅に着くところだった。
電車は、次の停車駅に着くところだった。