苦手な方はご注意くださいませ
Side N
マルとじゃれあってるの、
大野さんに見られたくなくて…
焦って、つい強めにマルを払いのけてしまった。
「マル、大丈夫⁈」
ぐったりしているマルに、念のため声をかける。
「大丈夫大丈夫。メンタル面の落ち込みやから」
「ははっ…落ち込まないでよ」
「でも、そういえばさ、ニノとリーダー、チュウしてなかった?春の番組で」
ヨコが余計なことを思い出したようだ。
「あー、俺も見た。番宣めっちゃやってたもん」
すばるくんまで追随する。
「あれ結局やったん?自分ら」
ヨコの笑った目が追及するように俺と大野さんを交互に見た。
「してねぇ」
大野さんが素早く呟いた。
「マジで⁈ バラエティ的にはしやなあかんとこちゃうの⁈ 」
まあ、ヒナ的にはそうだろうな…
俺も、そう思ったしね。
「や、あり得ねーだろ。ニノと…ってか男同士でキスとか」
え…
俺はちらりと大野さんを見たけど、大野さんは目を合わせてくれなかった。
「そうなんですか?俺オンエア見たんですけど、なんかガチっぽく見えて…焦りました」
隣に座った知念が言うと、大野さんは「いや、ねぇからそんなん」と手をひらひらさせて言った。
どうしよう。
胸が…痛い。
そのあと、別の話に興じていく大野さんを見ながら、酔いが一気に覚めていくのを感じた。
大野さん的には
昨日交わしたキスは
なかったことに
なったってことなのかな…
「ニノ、次何飲む?」
復活したらしいマルが、俺の空になったグラスに目を留めた。
「マルと同じの作って」
マルは紹興酒をロックで飲んでいた。
「結構強いで?大丈夫?」
俺は頷いた。
だってなんか…
酔い覚めちゃったし…
もう、酔っ払って全部忘れたいような気持ちだった。
マルが作ってくれたお酒をぐびっと飲む。
マルやヒナと話しながら、隣の大野さんと知念の話に耳をそばだてる。ふたりは笑いあっていた。釣りの話をしているようだ。
「今度一度連れてってください」
「いいけど…お前船乗れんの?結構揺れるけど」
「僕を誰だと思ってるんですか〜体操選手の息子なんですから」
「そうだったな…じゃ、今度タイミングあったら行くか」
「はい!」
嬉しそうな知念の声に、気持ちはどんどん沈んでいく。
…どうせ、俺は船とか…乗れませんからね。
こんないじけた気持ちになるのは久しぶりだった。
大野さんのせいだからね…
大野さんが不用意に俺にあんなキスするから…
ちょっとは、俺のこと
特別に、想ってくれてんのかなって
思っちゃったんだよ…
気づけば、グラスは空になっていた。
「わ、ニノ、全部飲んでるやん!大丈夫か?顔真っ赤」
マルが俺のグラスと顔を見て声をあげた。
「あ…酔い覚ましに…タバコ買ってくる」
楽しそうに笑いあうふたりをこれ以上見たくなかった。
思ったより酔っ払っていたみたいで、立ち上がるとフラフラする。
「ニノあぶなない?俺も行くわ」
店を出た俺を、マルが追いかけてきた。