なんで、あんなこと言っちまったんだろ…
皆で朝食をとりながら、俺は隣に座るニノの白い肘を見ながら思った。
夢うつつで声をかけられて、なんだか気持ちよくて、声をかけてくれたニノを思わずからかってしまった。そうやって抱き寄せたら温かくて、抱き心地がよかったもんだから、また眠りに引き戻されそうになった。そのとき、パタン、とヴィラの木造りの扉が閉まる音がした。
それで、はっと起き上がって、最低限の支度だけして、ヴィラを飛び出したんだ。
ヴィラの外に広がる海は真っ青でキレイで、やっぱりすぐ起きてニノと一緒に見ればよかったとすぐ後悔する。追いつこう、と小走りになったら、桟橋を降りた浜辺にふたつの人影が見えた。
ニノ…と、誰だ、あいつ。
ニノが背の高いおそらく外国のホテルゲストと思しき男に肩を抱かれて前を歩いていた。
…なんだろ、この気持ち。
早く何とかしなきゃ、という焦燥感に駆られて俺は小走りのままふたりに近づいた。
ニノは、そしてみんなも、不機嫌な顔してるだろう俺に「どうしたの?」って聞いてくるけどさ。
…だって、イヤだったんだもん。
俺は、朝食のブッフェ台から取ってきた、甘いフルーツの挟まれたパンをちぎって口に運んだ。
…そっか、
俺、なんか、イヤだったんだ。
2人をあのままにしておくのは…
変な奴に絡まれてんじゃねぇよ、と思いながらジロリ、とニノを見ると、ニノは心配そうにこちらを見てくる。
「もしかして、先に来たの怒ってる?」
「や…」
ガキじゃねぇんだし、さすがにそこは平気だけど…
否定しようかと思ったけれど、俺は思い直して、
「明日は待ってて」
と言った。ニノはふふっ、と面白そうに笑う。
「すぐ起きないからだよ。大野さんも、外国に来てさびしいんですね」
「ちげぇよ」
…お前1人でふらふらしてたら、変な奴寄ってくっからだよ。
…とは言えず、黙々と朝食を食べすすめていると、チーフマネージャーがテーブルに近づいて来た。
「おはようございます。今日の午後から撮影開始の予定だったんですが、困ったことになりました」
幾人かのスタッフが同じテーブルについて、みなそちらに注目した。
「どしたの?何かあった?」
松潤が心配そうに聞くと、チーフは口を開いた。
「シャルルがここに来る途中で足止めを食らってます。詳しいことは不明なんですが、中東の某国で出国できず、今まだその国で足止めされているようです」
「マジか」
「何したんだよ」
シャルルは俺達を撮影してくれる予定の世界的に有名なカメラマンの名だ。翔くんがツッコミを入れると、チーフは苦笑いを浮かべた。
「なので、とりあえず、シャルルが到着するまでフリータイムです…最速でも明後日の朝ですね」
「マジか」
「へぇぇ…フリータイム…」
皆、突然与えられたフリータイムに、戸惑っているようだった。
「で、まあ、急にフリーになっても困るだろうと思いまして…もしよろしければ今日ホテルで、昼前から隣の島にシュノーケルツアーが組まれてるんで行きますか?島の海辺に生簀が作ってあってサメと一緒に泳げるらしいです」
「あ、行きたい」
「あ、俺も」
「俺も行く」
翔くんと、松潤と相葉ちゃんがすぐに参加を表明した後、松潤は俺とニノの方を見た。
「ふたりは?」
「行く」
俺は短く答えると、ニノを見た。案の定、微妙な顔をしていた。
ニノ、すぐ船酔いしちまうもんな…
「船、何分くらい?」
俺が聞くと、チーフはニノを見て気づいたのか手元の資料に目を落とした。
「結構大きめのボートを出してくれるみたいです。5分くらいですよ」
「行こ、ニノ…ここにいててもあれだろ」
「そうね…じゃ行こうかな」
しぶしぶといった感じだけど、ニノがそう言って、俺は単純だけどすごく嬉しくなった。
「わあ、ニノも行くなんてなんかすごいねえ」
「すごいって何よ」
相葉ちゃんの明るい声がテーブルに響くと、ニノは照れくさそうに小さな声で呟いた。