Side O
ピエールが俺たちのヴィラの隣の水上ヴィラに泊まっていることを知ったのは、シュノーケルをした島からホテルのある島へボートで帰ってきたときだった。
島ではエイにエサをやった後、ホテルのスタッフ達がビーチでバーベキューを用意してくれ、たらふく食べた。そのあと小一時間ほどまたシュノーケルを楽しんで、おそらく15時くらいにホテルへ帰ってきた。
ボートを降りると翔くん達3人はビーチ沿いの部屋へと帰って行き、船着場には俺と、船酔いでぐったりしたニノと、ピエールが残された。
「ニノ、もう部屋行ける?少し休む?」
俺にぴたりと寄り添って、青い顔をしているニノに声をかける。
「部屋帰る…暑い…」
たしかに、もうすぐ夕方だったけれど、照りつける日差しはまだ昼間の力を宿している。俺もニノも額に汗を浮かせていた。
「ヘヤドコデスカ?」
ピエールも心配そうにニノを覗き込んで、肩にそっと手を当てた。その手を思わず払いのけたくなる自分に、俺は驚いた。
なんか今、すげぇ…
嫌な感情が…
「ヴィラだよ」
ニノは船着場からビーチを伝って数メートル先にあるヴィラへと続いていく桟橋の方を目で指した。その瞬間、ピエールの顔がほころんだ。
「ワタシモネ!イッショニイキマショウ」
「へぇ、そうなの?」
一行はニノを気遣いながらゆっくりと歩き出した。桟橋の入り口からヴィラへ歩いていく。
「ピエールは、ひとりで来たの?ここ」
ニノが聞くと、ピエールは苦笑を浮かべた。
「ヒトリネ。ワタシシツレンシタ。コイビトワスレタイ。バカンスネ」
「ぁ、そうなんだ」
ニノが目を見開く。
「デモ、ヨクニテル」
ピエールはニノを見て笑った。
「へ?俺が?誰に?」
「コイビト」
ピエールは金色の眉を少ししかめて、そう言うと少し笑った。
「へぇぇ…そうなんだ」
3人にしばし沈黙が落ちた。海からの風が頬にあたって気持ち良い。
…ピエールのコイビトが、ニノに似てた?
「なんか、ひっかかんな」と思った瞬間、ピエールは前方のヴィラを指差した。
「ワタシノヴィラネ」
「13番…」
俺が呟くと、ニノが隣の水上ヴィラを確認した。
「あ、俺たち隣だよ、ピエール」
「ホント?」
「うん、ほらほら」
ニノは14と書かれたキーをポケットから出して無邪気にピエールに振って見せた。
「トナリ、ウレシイ!アソビニキテ!」
ピエールは、ニノの肩をぽんぽんと叩くと、バチンと濃ゆいウィンクをして、13番のヴィラの中へ入っていった。そこから、俺たちのヴィラは10メートルも離れていない。
はぁ…マジか…
絶対いかねぇだろ…
「こんな偶然あるんだねぇ」
ニノはのんびりした口調でそう言って14番のヴィラの扉を開けた。