シャルルはすらりとした長身の男だった。フランス出身だがアジア人との混血で、髪の色は黒い。長い黒髪を後ろで結わえ、口には髭を蓄えている。一回り上くらいの年齢のはずだがかなり若く見える。
せっかくニノといちゃいちゃしていたのに、シャルルとの顔合わせに出席するよう告げる電話で遮られ、俺は少し不機嫌だった。だけど、陽気なシャルルの冗談とそれに笑う皆やニノを見ていたら、俺の機嫌はすぐに回復した。シャルルは、限られた時間の中で撮りたいカットの説明をし、俺たちのヘアメイクが済むと、すぐに撮影にとりかかった。
リゾートのフォトジェニックな場所で次々と撮影を行っていく。シャルルはこのホテルの常連らしく、ロケーションの選定は完璧に済んでいた。
「ではビーチに行きましょう」
通訳スタッフの言葉で、皆ビーチに移動した。ビーチで1人ずつ水着のカットを撮影していく。ニノが衣装のTシャツを脱ぐと、真白な体が太陽の下にさらされる。あの体を、俺が昨日抱いた…と思うと、俺たちの関係を誰も知らないはずなのにドキドキした。心なしかシャルルの目が釘付けになっている気がして落ち着かない。あの体は、おいらの…。今すぐニノの近くに行って服を着せたい気持ちになった。
キスマークでも、つけときゃよかったかな…
そんなことを考えて、我ながら子供みたいだ、と俺は自嘲気味に笑った。なんで、ニノのことだとこんな気持ちになるんだろう。ニノのポーズを修正するためにシャルルがニノに近づいた。笑みを浮かべて素直に頷いているニノとシャルルの下がった目尻を見て、俺はため息をついた。言葉が通じなくても、人たらし、なんだよな…あいつ。
「二宮さんと誰か、ツーショットで撮影したいそうです」
通訳スタッフがビーチで待っていた4人に声をかけた。「あ、じゃあ俺が」というと、他の3人が驚きの声を上げる。
「リーダーそういうのやるって言うの珍しいね」
「そう?」
ニノが他のメンバーと絡むのを見たくないな、と思っただけなんだけど…。しかし、こんな調子じゃ日本に帰ってから先が思いやられんな…メンバーにさえ、こんな気持ちになるなんて。
腰まで海に浸かる場所に立っているニノの近くに行く。
「珍しいですね、大野さんが来るの」
「ん…だってさ」
いつものニノの軽口だけど、照れくさそうに微笑むニノがかわいい。やっぱり俺が来てよかった。肩を組んだり、互いを指差したり、アイドルっぽいカットをいくつか撮った後、俺は指示されたわけではなかったが、ニノの後ろに回って背中から抱きしめた。
「お、大野さん…」
見る間に真っ赤に染まっていくニノの耳にもどかしい思いが募る。
「こういうの、すんなら俺がいいと思って…」
「ん…」
ニノは目を伏せて、体の前に回された俺の腕に手で触れた。
「な、照れんなよ…」
照れたら、余計かわいくなっちゃうじゃん…
「お、お願いだから、しゃべんないで…」
ニノが一瞬振り向いて素早く焦ったように言った。頰がピンクに染まっている。
「なんでだよ」
拗ねたように言うと、また振り向くニノの瞳は潤んでいて、俺の胸はドキンと跳ねた。
「耳…近いから、ドキドキする…でしょ」
それだけ言うと、ニノはカメラに向き直って、シャルルの「スマイル!」の声に合わせて笑顔を作り始めた。俺は笑顔を作りながらも、水の中の体をニノに寄せる。南国の日差しに温められた海の中だから、体温は高いままで、触れ合うと熱いとさえ感じる。腹を密着させると、ニノの体はぴくっと反応した。
「あっ…ダメだって…ドキドキすんだから」
「ごめん、なんか…体が勝手に…」
油断すると、ぎゅっと抱きしめてしまいそうで俺は少し体を離した。ニノは、顔をビーチに向けたまま、ほんのり頰を染めて、「そういうのは…あとで…しよ?」と素早く呟いた。じーんと来て思わずぎゅっとニノを抱きしめる。その時ニノが声を上げた。
「あ、ピエール」
見ると、ピエールがビーチでスタッフやメンバー達と話していた。時折俺たちを指差して、微笑む。
あいつ、変なこと話してねぇだろうな…
ツーショット撮影が終わってビーチに戻ると、ピエールは興奮した様子で俺たちに声を掛けた。
「スゴイカッコイイ…ステキデス」
ピエールのキラキラした瞳に、「やっぱイイ奴だな」と思い直す。ニノはドヤ顔で「ありがとう!」と言ってニヤリと笑った。