秋風 | 妄想を文字に変えて〜嵐 大宮小説〜

妄想を文字に変えて〜嵐 大宮小説〜

嵐のニノちゃん、大野さんをイケナイ目で愛でる妄想小説ブログです。

残念ながら、ちょっと腐な感じです。

あくまでも妄想なので、生温かく見守ってくださいませ。










Side N










一番好きな季節は、季節が変わる時季、と言った人がいた。

詩的な表現だな、と思う。俺は、どの季節も、どの季節と季節の間も、特別に何かを感じたりしない。だけど今、少しだけ開けた窓の隙間から吹いてくる秋風に、どきりとするのはなんでだろう。


俺は、飲み残したアルコールの瓶をリビングからキッチンまで、裸足の足でぺたぺた音を立てて運びながら、一瞬思った。一瞬なのは、考えた瞬間に答えが出ていたから。その答えに、自分でも呆れて脱力する。



———もうすぐ、誕生日だから、か。あなたの。



ああ、いやだ、こんなの。俺はため息をついた。重い。自分がすごく重い気がして嫌になって、俺は乱暴に瓶を冷蔵庫にしまった。あの人なんかに、こんな風に思うなんて。パタン、と冷蔵庫の扉が軽やかにしまる。



ホントに、あの人にこんな風に、思うなんて…



「あの人」はさっき、「ねみぃ」と呟いて、早々に寝室に行ってしまった。今ごろ、すやすや眠っていることだろう。あの人の寝顔はいつも平和で、それを想像すると、それまでの気持ちに反して俺の口元は緩んだ。こっそり、ちゅうでもしてやりますかね。俺は存外、あの人の寝顔が好きなのだ。


それにしても、今年の誕生日は何をしたらいいんだろう。俺は歯ブラシに歯磨き粉をつけながら考えた。もう考えうるすべての欲しそうなものは贈った。そもそも、金で解決出来ることは、お互い、もう十分に享受している。



その上で、あえて欲しいもの…



釣り…とか、釣りする時間、とか?



うーん、と頭のなかでうめいて、口の中の泡を吐き出す。俺じゃどうしようもできないな…一緒に行けないし、時間はあげられない。



あげられるもんなら、あげたいな…



ゲームばかりして、空白の時間を埋めるのにも飽きてきた。この一見勤勉だけど怠惰とも言えるプレイ時間で、あなたが笑顔になるなら、どんなに素敵なんだろう。


歯磨きを終えた俺は、そっと寝室のドアを開けた。意外にも大野さんはまだ起きているようだった。ベッドにうつ伏せで寝転がり、スマホを眺めている。


「起きてたの」


「一瞬寝たんだけど…なんか目さめちゃって」


「…年ですか?」


俺が聞くと、大野さんはスマホの画面を見たまま、「ふふ」と短く、小さな声で笑った。


「もうじいちゃんかもね…朝もなんか起きちゃう日あるし」


俺もベッドに入って、大野さんのとなりに寝転がった。秋の室内のひんやりした温度の中で、薄い掛け布団を羽織った大野さんの体はちょうどいい温かさだ。ぴたっとくっついて、鼻先をパジャマを着た大野さんの腕に押し付けると、大野さんはまた「ふ」と笑った。可愛いな、と思った。
 


この人と、ずっと一緒にいたいな…



そんなこと口にしたら、笑われそうだ。俺はその代わりに尋ねた。


「今年の誕生日、何か欲しいものある?」


「んー、あ、そっか…」


大野さんは、少し考え込むようにゆっくり呟いた後、スマホを脇に置いた。


「別になんもいらねぇよ」


「んー、でもなんかあるんじゃない? めんどくさくて買ってないものとか」


大野さんは、枕に頭を置いて、こっちを見て口を尖らせたまま「うーん」と考えているようだった。


「物じゃなくてもいいの?」


「…いいよ」


一瞬、さっき考えていたことを見透かされていたのかとどきりとした。


「んーとさ…お前もさ、もしかしたら欲しいもん」


いきなり、もじもじし始める大野さんに、頭の中がはてなマークで満たされる。


「俺も、欲しいもの?」


「あーっっ…あぁ…やっぱ無し、ごめん」


大野さんは慌てて、手を振って掛け布団を鼻まで引き上げた。


「なんだよ、言いなさいよ」


ふざけて笑いながら、両手で肩を掴んで揉むと、大野さんはくすぐったそうに肩をすくめる。


「わかった、やめて…やめてって」


俺が手を引っ込めると、大野さんはこちらを向いた。にこ、と笑った顔にドキドキする。



ああ…重いぞ、俺…



大野さんは照れたように笑って、素早く呟いた。


「朝から晩まで…お前といてぇ」


「え⁈ 」


心臓が止まりそうになった。ドキドキ言ってた胸の音が、ドキン、ドキン、に変わる。


「へ、何?どういうこと…」


「…まんま、だけど…」


大野さんは口を尖らせたまま、呟いた。



まんま…って…



大野さんの言葉を、頭の中で反芻する。瞬く間に、顔が熱くなって、俺は下唇を軽く噛んだ。


「お前も欲しいかは…わかんねぇや…ごめん!」


大野さんは、顔を真っ赤にしてそう言うと、くるりと寝返りを打ってあちらを向いた。


俺は慌ててその背中に額をくっつけた。



…欲しいよ…俺も、欲しいもん、だよ、すごく…



俺は大野さんの体に、腕を巻きつけた。



…なんだ、この人も相当重いな。
 


俺は安堵して面白くなって、笑いそうになるのを堪えた。


「…当たってるよ…欲しい、よ…」


「…ん」


巻きつけた俺の腕を大野さんが触る。そっと握られて、手の甲を撫でるようにされると、きゅん、と胸の奥が鳴る。



…だめだ、好き……だ。



額をまた背中にくっつけると、大野さんの照れたような「ふふ」と笑う小さな声が聞こえてきた。