意識のハードプロブレム。この言葉はかの有名な意識哲学者ディビット・チャーマーズが言い始めた言葉で意識の困難な問題と、やさしい問題の困難な問題に相当します。


 「意識する心」 ディビット・チャーマーズ 白揚社


易しい問題とは「これらの問題の解答とはこんなもんだろう、という感じをわれわれはつかんでいる。要するに、細部をさらに詰めればいいのだ。」というもので。

困難な問題とは「行動の生起に主観的な内面生活が伴うという」問題だそうです。


易しい問題とは上述から考えるに、お金を使い、時間を使い、労力を使えばそのうち必ず達成される問題と考えられます。

しかし困難な問題は、覚醒がどうして物質である脳の活動から起こってくるのかという問題です。この問題は先回紹介した茂木先生の言葉で言うと「意識の第一原理」というものです。


そこで、前回まで何度も繰り返した私の主張・仮設(覚醒に関する仮説)は困難な問題に対する解答と考えていいのでしょうか。

つまり「脳の神経細胞群の活動により、脳内に情報世界が創生され、その情報世界にのみ通用できる意味がその世界にあらわれ、その意味が自己回帰(意味自身が独立する)することにより覚醒(意識)が現われてくる」という仮説は「意識の第一原理」に相当するかどうかと言う事です。


当然私はこの考え方が正解であるとかんがえています。なぜならこの考え方を受け入れることにより、覚醒・クオリアに関する問題は全て解決されます。そして、これ以外に納得のいく回答・仮説が今までなかったのです。


多くの意識科学者の言葉を拾えば明らかです。意識にたいして誰も満足のいく回答を用意できていないという物です。巷間に存在する書籍を紐解いて下さい。


しかし私の考え方は、満足がいくかいかないかは主観だから別にしても、「意識は・・・・である。」と断定できるのです。

困難な問題・ハードプロブレムは解決されたのです。


そこで問題は次のステップに移りす。「意識は情報の意味の自己回帰したそのもの」とし「ああ、私の意識は私の脳活動が生み出した情報の意味そのものが感じているのだ」とすれば、


     「ほんとに脳内情報世界に意味があらわれてくるの?」

     「あらわれるとすれば、どのようにあらわれるのか?」

     「その意味は”赤い”・”痛い”とかの感覚に相当しているの?」


と疑問がわいてきますよね。神経細胞の発火活動が意味をどのように生むのだろうか?


この場合の情報の意味は”赤い”とか”痛い”とかが現象として生まれるのではなく、ただ情報世界での納得が少なくとも必要となります。情報として赤い”・”痛い”の意味でいいのです。そしてこの情報は、情報世界内だけに通じる意味になります。


われわれ人間レベルからこの脳内情報世界を見ても”赤い”・”痛い”は見つからないのは当たり前ですよね。この”赤い”・”痛い”は人間レベルからの観察では、神経活動パターンが一人相撲をやっているのをみているようなものです。発火パターンだけが見つかります。


そこで、そのパターンに隠れた奥をのぞく必要があるのです。神経細胞の発火パターンがある特別なルールで活動をしていると考えます。当然DNAで決められた構成の上にですが。


次の問題というのは言葉を変えると、脳内の神経細胞活動・発火パターンの連鎖の隠れた情報の意味(傍からみて全く意味の無い事であるが、その情報世界に入れば意味が現われてくる)を見つける事になります。


そのためには、個別神経細胞の接続・組合せ・活動パターンの時間的解析を全人体的な範囲で行い、結果を得る必要があります。一言で言えば全神経活動パターンの個別レベルでの解析となります。この解析は気の遠くなるほど大変な、かつ困難を伴う作業になります。でも出来ない事はありません。

先ほどの”やさしい問題”の範囲に入る問題です。


この様に考えると、次の問題は「論理システムにおける、そこに隠れたシステム内の意味創生問題」に変わってきます。今までのシステム論においては、全て人類・人間の理解を前提にシステムを組み上げてきました。あらかじめ全体を見渡して情報を定義してきたのです。


意識を追求するためには、従来のシステム論を破棄しなければなりません。システム動作の中にシステムの意味を生み出せる、システム論が求められます。全く新しいシステム論になります。しかし具体例が・実例を我々は入手できるのです。脳を含めた人体システムです。我々はあまりにも人体・生命体のシステムの理解が足りません。もっと徹底的なシステム解析が求められます。


システムに対し新たな問題提起となります。完全に異なる切り口からのシステム論の構築が求められる所以です。


また、今現在のコンピュータとは全く異なります。だから今のコンピュータの延長線上でのロボットに意識を持たせるのは不可能と考えられます。