本という物は、タイトルが大事です。読んでもらって、なんぼのものですから。

僕は、定期的に図書館に行き、本を借りてます。そこでの本の選択は、タイトルと前書きと目次を見て決めます。

やはり、一番はタイトルですね。


ということで、今回借りた本は

「量子が変える情報の宇宙」 ハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー著 日経BP社 2006年

で、著者のハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー博士は大学の物理教授でありサイエンス・ライターでもあります。


この本は、いわゆる啓蒙書的な本ですから、あたらしい考え方とか、新解釈はほとんどありません。従って、ふんふん、あっそうなんだ的な感想が中心で、私がちゃちゃを入れる隙間はありません。ただ、ヨーロッパ的な雰囲気を漂わせている本です。


そんな中、特に面白かったのは、還元主義者と創発主義者の争いです。

還元主義者(ここでは、ワインバーグ)と創発主義者(ここではマイヤーとアンダーソン)の論争、この話は私は全く知りませんでした。


先ず、還元主義者(ワインバーグ)の主張、

人類にとって永遠の願いの一つは、一見複雑で多様性に富む自然界がこのような姿になったいるわけを説明してくれる、少数の単純な一般的法則を見つけることである。現段階で自然の統一的描像に最も近いのは、素粒子とその相互作用に基づく解釈である。

それに対し、マイヤーは

物理学者の性根を物語る、身の毛もよだつ一例である。」と評した。

なんだか、けんかを吹っかけたようですね。


これに対し、「筆が立つと同時に強情でもある、ワインバーグは腹を立て、論争を吹っかけた」みたいです。


この論争の中で、ワインバーグが貢献したのは

「軽微な還元主義」と「重大な還元主義」と還元主義を分け、

前者を「物はその構成要素の性質にのっとった形で振るまう

後者は「自然界全体は、単純な普遍的法則、および初期条件と歴史的偶然に関する制限にのっとった形で振るまい、全ての科学法則は、なんらかの形でその普遍的法則に還元できる

前者と後者の違いは、“構成要素の性質”で還元されるのと、“普遍的法則”で還元されるの違いです。

この違いを明確に分けたという貢献を、著者は賞賛しています。



一方、創発主義者のアンダーソンはマイヤーの跡を引き継ぎ

複雑系においては全く予想もしなかった新たな法則が生まれるかも知れない

例えば、1枚のコインを考えよう。1回トスした時に、それが表を向くか裏を向くかは、全く何とも言いようがない。その結果予測不可能である事を理解する。それだけだ。

しかし、100回トスを行なえば、驚くべき新たな法則が姿を現し始める。2回に1回は表を向き、その精度はトスの回数とともに上がっていくのだ。新たな「大数の法則」が出現した。まさに多は異なりである。

と言っています。最近流行の創発です。


このように、楽しい論争がまだまだ続いているようです。



私は、意識の謎を追究している関係上特に創発に感心を持っていますので、興味を引きました。というのは、意識を含めた生命体が、創発現象であるとよくいわれていますよね。生命が非生命物体と次元が異なると。


そこで、以下は私の考えです。

私はどうしても創発が正しい認識であるとは納得出来ないのです。

上の例で「大数の法則」がありますが、これとて新たな法則が現れてきたと思えません。コインは50%の確率で表、裏が決まっているのです。確率が最初からわかっているのですから、数学の法則として予測された当然の結果・“現われ”と考えるべきです。結果は初めからわかっており、なにもことさら創発とか言う概念は必要ないのです。多は異でなく、多は多の組み合わせで、組み合わせは還元できるのです。


生命もそうです、

生命体とは、分子の組み合わせが周期的に環境の中で動いているだけで、自然現象として、そこに断絶(創発)はないと思われます。

風に、くるくる廻る風車と同じ扱いでいいのです。環境のエネルギーを取り込む、連続的、周期的活動現象。いわゆる、発振現象です。

この連続現象は、周期的であり世代を変え子孫につなげられる中で変化を受け、連続的・周期的現象がより強固な現象に変化するとき、進化とよばれます。


いずれにせよ、複雑で階層的ではあるが、全ては物理現象に還元できます。階層が変わった(例えばたんぱく質から細胞に)のを創発と言うのでしたら是としますが、これとて還元的であり、連続しています。



しかし私が思うにただ一つだけ例外があります、それはその連続的・周期的活動現象の中において、活動自体を維持させようとする力がその活動中に存在できた時です。つまり活動の中にその活動を維持させるような機構が存在できた場合です。たとえば、生き延びようとする機構が生命体に組み込まれたときです。


そこに、意識が生まれて来ます。これは機構から派生的に出てきた情報で、次元が異なります。

そして創発ではありません、創生です。全く、そこに新しく生まれてきたのですから。

多くが集まったから出来上がったものではなく、その機構に明らかな傾向があらわれ、その傾向が意味・意識に変わっていったのですから。

これが、唯一の例外、それともビッグバンを含めれば2つの例外、と考えます。


この創生のメカニズムが解けたときに始めて、意識が解明されたと言っていいと思います。


ということで、私は創発にくみしません。

還元主義者、創生主義者がんばれ。