今日は第4章の「感覚と知覚」を読みます。最重要章です。


この章では、フリーマン達が行なった兎の嗅覚の実験に付いて語られています。

嗅覚はほとんどの動物にとって最も重要な感覚であり、脊椎動物では全ての感覚についての知覚の原型と見なし得ることから、以下、嗅覚の知覚についてより深く調べていくこととします。」と。嗅覚システムを実験対象に採用した理由です。


そこで、著者は兎の嗅球に微小プローブを立て嗅球の活動をモニター・調べました。

ここで嗅球と言うのを説明しておかないといけません。嗅球は臭いの受容器と大脳皮質の間にある、信号の中継器のようなものです。


嗅覚受容器からの信号がそのまま並列・平行して嗅球に入り、そこで全ての嗅球神経を興奮させます。その後大脳皮質と信号のやり取りをします。


それでは、著者フリーマンの説明を、

同一の匂い物質による刺激が繰り返された場合に、それが同じ匂いとして知覚されるためには、脳活動のどこかで一定の空間的パターンが生じていなければならないと考えられます。

同じ匂い信号は、同じ神経信号パターンを作るはずだと言う事です。


それで、

この問題の研究に着手したばかりの頃、私は嗅球ニューロンのミクロスコピックなパルスのパターンは受容細胞におけるそれと同じくらい変化に富んでいると予測していました。なぜならば、受容体の軸策と嗅球の投射ニューロンの間には、僅か一つのシナプスしか存在しないからです。従って、事実その通りであることが確認されても驚きませんでした。」と。


つまり、嗅覚の細胞と嗅球との接続が直接的であるために、嗅覚の細胞活動と嗅球の細胞活動が細胞レベルのミクロスコピックなレベルではよく似ていると言っています。ノイズ的ふるまいをしていると。


違う言い方をすれば、同じ匂いを繰り返し嗅がせることによってもたらされた刺激のクラスに対して、嗅球ニューロンはミクロスコピックには何ら一般化を行なっていません。

と言う事です。ミクロスコピックなレベルではノイズなのです。


しかし

同じ匂いを多数回嗅がせた場合に、嗅球活動の空間的パターンがほとんど変化しないという発見は、私を驚かせました。このパターンとは、メゾスコピックなレバルにおいて嗅球EEG(脳波)が示すパターンです。


このEEGパターンがカオス的であるのです。このパターンの特徴は

樹状突起電位の振動が嗅球全体にわたって同じ波形を有していること

非周期的な従って予測不可能な波形を有する持続的な活動

吸気の時にニューロンの一斉発射(バースト)が生じ、それは呼気の時停止します

この共有された波は、嗅球の異なる部位で異なる振幅を有する


つまり、

ミクロスコピックな活動は実際ノイズに他なりませんが、メゾスコピックな活動はカオスですと言われます。

だから、以前のブログで述べた

個々のニューロンの働きを知る必要がない」所以です。脳波でいいのです。

つまり、

このメゾスコピックなパターンの内に、脳機能を理解する鍵が潜んでいるのです

から。



そして、ノイズとカオスの違いとして

ノイズは簡単にその出現を制御出来ませんが、カオスは決定論的なノイズとして現われるので、電燈のスイッチのように入れたり切ったり出来るという点にあります。

のです。

この入れたり切ったり出来るといっていますが、具体的な説明はなにもありません。筋肉活動と絡めた説明が求められるところです。カオス状態と筋肉行動の関係です。

この説明ができて初めて

このメゾスコピックなパターンの内に、脳機能を理解する鍵が潜んでいるのです

と大見得をきれるのでしょうが。


でも、これらの結果に対し門外漢の私は口を有していませんので、伊藤敬祐先生のコメントを用意しました。

生物の脳は、カオスを情報処理に使っているらしい状況証拠が出てきた。最初は、神経生理学者の発見だった。フリーマンという人がウサギに匂いを学習させながら、神経の興奮の度合いを示す電位を測定した。いったん匂いを覚えると、応答は弱いカオスを含む周期振動になった。この実験は、動物が学習にカオスを使っていることを示唆している。こういってしまうと簡単だが、それまでにフリーマンたちは20年近く試行錯誤の実験を続けてきた。すごい執念だ。彼らが模索していた間に、カオスの理論が作られ、脳の科学ではコネクショニズムと言って神経素子一つが作り出す信号よりも神経素子が結合したネットワークとしての挙動を重視する理論が生まれた。この二つの流れがなかったら、フリーマンたちの実験は複雑なデータの山として埋もれたにちがいない。」とあります。

「カオスって何だろう」伊藤敬祐   ダイヤモンド社  1993年より。



さらに、このカオスをフリーマンたちは

光・音・触覚刺激に反応するように訓練したウサギ新皮質一次感覚野の脳波測定から、われわれはこれらの新皮質のニューロン集団は、嗅覚システムと同じカオス的ダイナミクスを有することを見出しました。」のです。

つまり、脳内のいたるところでカオス状態であると。



私の書評としては、

私の能力不足・知識不足でしょうが、すごく理解しにくい本であると感じました。


まず、私は電気工学者ですから、工学的技術用語には慣れているのですが、この本では私の用語理解と、本の使用法に齟齬があり、少し戸惑いました。特に「ゲインと振動」について。「ゲインと振動」は、どうしても制御工学の知識と絡めなければいけないと思っています。振動がどうして発生するのかの数学的説明が欲しいところです。


また、カオスであるという理屈に不足を感じました。つまり、この現象がどうしてカオスであるといえるのか。書中に、著者の言うカオスの定義がありません。

また、カオス的状態と意識の関係、そして筋肉活動との関係などの説明が欲しいところです。これが一番のポイントなのですから。


でも、ひょっとするとこれらは、以降の章でみつけられるかもしれません。



ここで、遅ればせながらカオスとは

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%AA%E3%82%B9%E7%90%86%E8%AB%96

を参考にしてください。


また、「脳はいかにして心を創るのか」の書評があります、参考までに。

http://www.jstage.jst.go.jp/article/jnns/18/4/227/_pdf