「表象」と「意識の創生」とは次元が異なるくらい、その概念が離れています。

表象のパターンは静的であり、それ自体は無目的ですが、

意識の創生となると、動的であり、パターン自体に意味が有り、能動的に意味を創り上げています。

「表象」の主体は第3者、「意識の創生」の主体は当人。



さて、そう言う事で、意識の創生のメカニズムを調べておりまして、本などを漁っているのですが、なかなか正鵠に中るものがありません。


今回の本の内容も、的が外れましたが、少し興味がある表題ですので、紹介します。

「情報と自己組織化」“複雑系への巨視的アプローチ”

ハーマン・ハーケン著  シュプリング・フェアラーク東京 2002年

の中から。

本書はシナジェティックスの提唱で著名なハーマン・ハーケン教授の数多くの著書のうちの1冊である。ハーケン教授は20世紀最大の発明の一つであるレーザーの量子統計力学的な理論を世界に先駆けて建設した理論物理学者」だそうです。

この言葉は本書の訳者である、奈良先生の言葉です。


シナジェティックスという聞きなれない言葉ですが、シナジーなどの言葉から、協調というイメージのある論説だと分かります。

つまり、

複雑系において自己組織化が起こる、

始めはばらばらであった状態が情報の圧縮が起こる、相転移がおこる、

マクロな状態での現象を取り扱います。


本書の一節に「意味の自己創生」という節があり、私が求めている、意識の創生によく似ているので、興味を引かれたという次第です。複雑系に意味が創生されるイメージですよね。


シナジェティックスは巨視的なレベルでの新しい発現を取り扱う理論で」「シナジェティックスの結果を適当に解釈する事により意味の発現をある系に生ずる新しい特性の発現として、あるいは言葉を変えて言うと意味の自己創生としてとらえることが出来る。」と言うのから始まります。


シナジェティックスの結果巨視的な(マクロに見ての)レベルで意味が出来上がると言っていますが、本当でしょうか?どんな意味なのでしょう?


ハーケン教授はレーザーの権威ですから、このシナジェティックス論をレーザーの現象から導き出されたと言うのは納得できますし、

シナジェティックスの説明もレーザー発振を用いています。


レーザーは「多くの活性原子が例えばルビーのような結晶中に埋め込まれて」おり、外部からエネルギーを注入(ポンピング・励起)されると、これらの活性原子は個々に光を放出し始める。「即ち光の場によって運ばれる情報を作り出した事になる」のです。

しかしこの光は、初めは不規則なパターンが得られるが、「信号が十分におおきな振幅になった時全く新しい過程がはじまる。原子団はコーヒーレントに振動を始め光の場そのものもコーヒーレントになる。」と。

ルビーレーザーの例ですが、特別な構造をしたルビーにエネルギーを注入すると、始めはばらばらで発行していた光が、注入エネルギー量をあげていくと、光がそろってコーヒーレント状態になり発振するというのです。

これは「コーヒーレントな波の構造が外部からの干渉なしに出現する自己組織系の典型的な例であり秩序が出来上がる事を意味する。」と。


言葉を変えますと、複雑系において、始めはばらばらな状態が、ある状況変化により、突然自己組織化がおこる例がこのレーザーの例だというのです。

さらに、少し詳細を言いますと「系には新しい状態に移行する際の前駆現象としての不安定性がはっせいする。」とも書いてあります。

これがシナジェティックスなのです。



このシナジェティックスのレーザー以外の例として、

変形粘菌の例つまり食物が欠乏してくると一つにあつまる、自己集合の機構などをあげられています。

また、生命体の細胞の局所発生についても同じであると言われます。それは「組織中の個々の細胞は化学物質の生成と拡散によって形成された化学的な場から情報を受け取ると仮定する。」生命体の中では化学物質が偏って存在する為「活性化分子の濃度が高い所では細胞の分化を生じさせるような特定の遺伝子の働きにスイッチが入ると仮定する。このようにして化学的な場は情報の伝達者としての役割をはた」し、「最初の段階で存在していた乱れた、あるいは相関のない状態とは定性的に異なった新しい集団的状態が達成される。」のです。臓器の局部発生の説明ともなります。


これらはレーザーの例とどこが同じかよくわかりませんが、多分自己組織化という点が共通なのでしょう。


そこで、つぎに重要な点、“意味が現われる”というのですがその説明は

この新しい集団的レベルは外部世界において観測可能となり、外界の関係ないしは状況設定を確定する事により新しい意味論的なレベルが獲得される。」のです。

この文を先ほどのレーザーの例に置き換えますと、集団的レベルとはルビー内の活性原子の集団でしょうし、観測可能とはコーヒーレント光の観測になります。


“観測可能となり、かつ外界との関係を確定すれば意味が獲得される”というのですが、あまりにも、意味の意味を考えていない、不十分な説明で、

私にとっては、なんだか、肩透かしを食らった感じです。


でも、ハーマン教授の意味とはここでは、光の発振という物理量その物で、生物学的意味での情報は「それが周囲の環境に照らしあわされて初めて意味を獲得するのであり、それは全体系が生き残るために役立つという観点から測った価値についてのみ意味を獲得するといってもよいだろう。」と。

この文は明らかに進化論的な意味を語っています。

意味のある形態とは種の継続が可能な形態というのでしょう。


結局、自己組織化が起これば、そこに新しい組織があらわれ、形態・情報としての意味が現れてくると言う事です。


ということで、あきらかに、意識の創生とはかけ離れた論になっており、お門違いの論でもあります。

意識の創生の概念とは全く異なることを述べられている事がわかりましたが、

この本の内容の理解困難さは、現在の私の能力をはるかに超えたものですから、以上のほかに、本質的な記述がどこかにあるのかもしれません。