さて今日は

「ようこそ量子」根本香絵+池谷瑠絵 丸善ライブラリー2006年

を紹介します。


量子の世界には意識創生のメカニズムが隠れているのではないかとの思いがあり、

数式を追いかけない簡単な入門書にも何かヒントがあるのではないかとの期待があるのです。


根本先生は国立情報研究所の助教授で、多分先生の話を聞いた池谷ライターが書き上げた本であろうと推測されます。


平易な言葉で書かれてあるので、仕事のあいま数日で読めましたが、

この本は一言で言うと、在原業平を形容した

在原業平はその心余りて言葉たらず しぼめる花の色なくてにほひ残れるがごとし”

の言葉どおりだと思いました。


言おうとしている所は壮大であるのだが、余りにも素人向けの言葉で、結局本質をつかむ事ができていない説明になってしまっている、と。

ちょっと言い過ぎましたでしょうか?


例えば量子の重ね合わせ状態を、“騙し絵”でイメージするように書かれていますが、“騙し絵”では本質をつかみきれないのではないでしょうし、

又、本書のエンタングルメント(絡み合い)の説明も、「二つで一つ」では初めての人にはわからないのではないかと危惧します。


また、説明にも不適切な表現があり

では一体ハードウェアのどの部分が、コンピュータの処理速度の限界を決めているのか

という所に対し

つきつめればこの電子信号の行き来に要する時間こそが、コンピュータの処理速度を決定付けていると言う事になります

とあるのです。

コンピュータの処理速度が電子信号の移動にかかる時間(配線長)のように書かれています。

そうでなく、私にはそれよりも、トランジスター内の電子移動度(スイッチング時間)が問題になっていると思います。


また「最大にエンタングルした状態にある2量子ビットについて、

情報が光速を超えて移動することはなく、相対論に抵触しない

と書かれています。

この問題はアインシュタインが疑問に思った点なのですが、上の結論(?)があるだけで本質的な説明はまったくありません。

ひょっとして説明を逃げているのではないかとも思いました。

私の勉強不足か、ちなみにこの「相対論に抵触しない」ということの納得のいく説明にめぐり合った事がありません。



でもまあ、この本は一般向けと言う事でいいのですから、わかりやすくが一番かも知れませんが、

私が一番知りたかった「キューバス量子コンピューティング」についてもわかりやすく書かれていません。ただわかりにくく、短く書かれています。

この本を手に取った最大の目的だったのに。


根本先生はこの考え、「光量子情報処理理論にブレークスルーをもたらす新しい方法を発表。このアイデアを発展させ、一段と高い拡張性を備えた「Qubus量子コンピュータ」を提唱」されたと言うのですから、まともに書いておられると期待したのですが・・・・。


その具体的内容については、貧弱で何が同なのかよくつかめません、多分私の理解力がないのもあるからでしょうが、

単一光子の情報処理で決定的な問題となっていた2量子ビット演算の論理素子をレーザー光を介して処理するという新しい方法を提案しました」と言うだけです。

いかに先生が理論物理家でも、もう少し具体的な説明が欲しかったです。


そこで私のこの文章の理解としては、“異なる場所での量子情報処理をレーザー光を使い共同作業をさせるのではないか”と想像しました。つまり「1量子ビット操作から2量子ビット操作へ」というものです。あっているでしょうか?



結局、量子の話としては、昔読んだ岩波新書の「量子力学入門」並木先生著には遠く及ばないと思います。

これらの感想は私の個人的な感想ですから、著者の思いは私の思いとはちがった所にあるのでしょう。

私の感想が本当かどうか、興味ある人は確認のため、実本を手にとって下さい。