セッター中心に『MB1』を検証 | バレー・テニス中心のスポーツブログ

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前回は『MB1』のキープレーヤーMBS(MB枠に入るサイドアタッカー)を中心に記載しました。今回は、攻撃面そしてディフェンス面からセッター中心に見てみたいと思います。

もう一度『MB1』について整理してみましょう。

左記図のようにMB枠のところに、長岡・迫田のようなサイドアタッカーが入るシステムです。この際にコート内にいるMBの選手は実質1人となります。後衛になればリベロ交替でゼロに。

(MB1の利点)
・得点力アップが期待できる
・B、Cパスからでもサイド攻撃が常に2枚以上ある
・サイドアタッカー以上に相手ブロッカーを引き付けやすい
・前衛でのつなぎやディグ力アップ

(MB1の弱点)
・ブロック力の低下
・フロアディフェンスへの負担

利点と弱点を述べると上記のような感じではないでしょうか。なぜそれでもMB1を実行するのか?となると、ディフェンス力低下よりも攻撃力上昇の期待が大きいから。得点でいえば、レセプションアタックの向上により連続失点の低下でゲームを作りやすくなることが大きい。

逆に言うと、ディフェンス力低下でトランジションが機能しにくく、連続得点が見込まれにくいという考えがありましたが、グラチャンの結果・数字を見ると、さほど影響がないと実証されたようです。

※グラチャン前の真鍋監督コメント---新戦術MB1は?---
真鍋「シンプルに相手から点数を取るという考え。いろんな可能性が出てきて、連続失点でローテーションが回らない時に、すぐに形を変えられる。」

よって世界強豪5ヵ国に対しある程度の結果を収めたMB1は実現すべき戦術と判断され、わずか1か月で仕上げた未完成の状態から更に詳細な部分まで切り込み、今年の世界バレーで総仕上げに入るスケジュールとなってます。

その第1段階が6月の1か月間に及ぶ国内合宿。まさに今その初段階。現時点でやるべきことは、1人1人がMB1という戦術をしっかりと理解すること。このローテでは誰がどこまで助走を取るのか?MBSが前衛の時のフロアディフェンスはどういう体系になるのか?そのブロックとディグの関係性やトランジションの攻撃特性を完全に理解しないと、グラチャンのようにリベロとアタッカーが交錯し、失点→自滅になってしまう。

この基礎的なルールを14名全員で把握し、実現する必要があると考えます。本当に1点1点神経を使う大変な作業だと痛感します。それほど岡山のトリッキーさと高校バレーの独自性を合わせたような戦術。

わかりやすい課題としては、迫田選手の新技「スコーピオン」。これは大きな課題の攻撃だと感じてます。迫田のスコーピオンとは、前衛にいるにも関わらず、BSのような助走からほぼBSと同じ位置から打つ攻撃のこと。

課題というのは、迫田選手の助走の範囲がとんでもなく長いので、その付近(図の黄色〇枠)にきた1stタッチのボールをどこに返球し、1stタッチした選手が前後左右のどこにそれるのかによって、迫田のスコーピオンの攻撃レーンが決まってきます。

図の黄色〇枠にサーブやチャンスボールの返球をされると、迫田の助走ができなかったり、1stタッチの選手と交錯したりしてしまい、攻撃すらできない状態にさせられてしまう。


2013グラチャンの日本×ロシア戦ですが、迫田選手のスコーピオンの自滅の1点をみていきたいと思います。

●動画開始10:20~第1セット5-3の場面
(画像1)
ここはロシアサーブで新鍋がレセプション。前衛ではないですが迫田がスコーピオンと同じくBSの助走に向かう

(画像2)
迫田はミドルBSを打つため、レフト側からミドルに移動

(画像3)
助走を開始しようとした途端、ボーっと新戦術を忘れていたリベロの佐藤ァと交錯。これは明らかに佐藤ァが迫田のミドルBSがあることを完全に忘れてしまっているために起こったことで、余計な動きでした。

(画像4)
交錯し転んでしまいましたが、何とか返球。という感じですが、MB1の戦術はコートの中にいる選手全員が守備位置や助走位置など、セッターがアタッカーを見るような目線で、見ている意識が必要だということです。

少しでも意識のずれがあると、衝突が頻繁にあり、怪我の原因にもなる。非常に複雑な攻撃戦術。フロアディフェンスなども考慮すると更に複雑になります。すなわち1stタッチ(レセプション、チャンスボール、ディグ)を返球する選手は、1stタッチ後に他選手の邪魔にならない動きを確実にしなければならなく、常に自コート6人の動きを把握する必要があるということです。

ということで、この6月の1か月間はまずMB1という戦術に全員が動きから意識から、約束事から慣れていくことだと思います。ここまで緻密で細かい動きまで制限されると、海外の選手には難しい戦術ではないかと感じてしまいます。

では前置きが長くなりましたが、セッター目線でMB1を見ていきましょう。

●中道を主セッターとした場合
おそらくMB1という複雑な戦術を機能させるためには、中道レベルの頭の切れたセッターが必要だと感じます。グラチャンでの中道の存在感は、他のセッターとは全く違いました。確かにアメリカ戦、ブラジル戦での迫田の使い方などには消極性を感じ、疑問を残しましたが、トスの安定感や特に石井優の覚醒などは中道のトスだったからこそだと思います。

中道を正セッターで使う場合は、新戦術でなくても大きな課題であるブロックの大穴問題。中道前衛の際の後衛のディグの充実性。それを考えると、中道が前衛の際にはある程度最高のディグ陣が後衛にいる必要があるかなと感じます。

※2013グラチャン・タイ戦後のコメント
中道「新戦術をしながら今大会を戦う中で、まだまだ簡単なミスがたくさんある。試合を戦いながら修正しなければならないと感じた。残り2戦も、全員バレーでしっかり頑張りたい。」

中道「1人1人が新戦術を理解しないと、大変なことになる。」

おそらくMB1について危機感とその実現のむずかしさを実感している選手は中道ではないかと思います。それほど今までの動きがガラッと変わってしまうほどのコート内の動き。

グラチャンで残念だったのは中道のトス配分。特に迫田。アメリカ戦では第1セットの段階でスコーピオンやミドルBSをブロック、リバウンドされたことで、完全に使えなくなり、ライトBS1本になってしまったこと。

しかしそれでもアメリカのサイドアタッカーのブロックはしっかりしているので、迫田のスパイクを被ブロック。ますます迫田を使えない状態にアメリカが中道を追い込みました。この辺りが竹下の控えとして3年間学んだものの、実戦経験不足が否めない中道だなと感じました。

ブラジル戦では更にチャレンジ精神がなく、迫田を有効活用できるトスワークではなかったこと。ほとんどミドルからの攻撃が少なかった全日本。中道の安定感は確認できましたが、藤田のような積極性が少ない中道。

この新戦術は生かす殺すもディフェンスやテンポの速さを失くしてでも、得点能力を高めるための戦術。要は、セッター次第でゼロになるか100%になるかも変わってきてしまう。

中道の利点は、ボール下への入り込みが早いので、B・Cパスになった際のランニングセットのトスにブレが少ないこと。これが非常に大きい。宮下や藤田はAパスでの使い方は素晴らしいんですが、ランニングセットになると中道と明らかに差が出てきます。

これが竹下と比較してもさほど変わらない処理の仕方ができる中道の存在は非常に大きい。中道選手はこの戦術を本音ではどう感じてるんでしょうか!?試合によっては、
中道「ここで速攻が使えたら?と思う場面が何度もあった。」
と発言することもあっただけに、少しゲームメイクに戸惑いを感じているのかもしれないなと感じました。それがアメリカ戦、ブラジル戦。迫田をミドルからほとんど使えなかった。チャレンジできなかった。それほどアメリカのリードブロックの対応が早く、更にブラジルは長い手での読みがしつこい。

中道を正セッターにした場合は、先ほどにも書いたようにブロックの大穴問題を何とかしないと、最近の海外チームは徹底的にセッターの上から打ってくる傾向が強いので、中道の前衛3ローテでは連続得点が全く期待できない状況となってしまったり、サーブでCパスで崩しても意味のないものになってしまうことが懸念されます。

2013グラチャンでの主力アタッカーのスパイク打数配分を検証すると、

3-1(ロシア戦のスパイク配分) ※黒太字がスパイク打数
・石井 40.00%(20/50,失4)
・木村 26.09%(12/46,失4)
・新鍋 31.58%(12/38,失6)
・迫田 45.16%(13/31,失6)

3-0(タイ戦のスパイク配分)
・木村 51.61%(16/31,失3)
・新鍋 42.31%(11/26,失2)
・石井 34.62%(9/26,失2)
・迫田 52.00%(13/25,失1)

3-0(ドミニカ戦のスパイク配分)
・木村 31.25%(10/32,失5)
・迫田 46.67%(14/30,失2)
・石井 41.67%(10/24,失3)
・新鍋 36.84%(7/19,失3)

●1-3(アメリカ戦のスパイク配分)
・木村 27.91%(12/43,失5)
・石井 46.15%(18/39,失4)
・近江 31.57%(6/19,失1)
・長岡 47.05%(8/17,失3)
・迫田 27.27%(3/11,失1)

●0-3(ブラジル戦のスパイク配分)
・石井 35.71%(10/28,失3)
・木村 23.08%(6/26,失6)
・迫田 30.00%(6/20,失5)
・江畑 35.29%(6/17,失4)
・新鍋 30.76%(4/13,失6)
・近江 9.09%(1/11,失1)

これを見ると3勝したロシア・タイ・ドミニカの試合は、4人のアタッカーがほぼ均等に打数を打ちこなし、プラス決定力を誇ってますが、アメリカ戦は木村、石井優依存が高く、ミドル領域の攻撃が非常に少ない。アメリカのバンチリードブロックに試合前から負けていた印象でした。

更にブラジル戦になると、スパイク打数うんぬんよりもスパイク決定力さえ下降しているので、攻撃そのものがブラジルディフェンス陣には通用していないことがわかります。アメリカには中道の使い方次第で勝てる気配はあるものの、ブラジルにはグラチャン段階では無意味な戦術にも見えます。

ブラジルに勝つには、やはりMB1であってもテンポの速いミドル攻撃とサイドの攻撃テンポの差が必要。それを長岡、迫田らがどう器用に機能していくのか?それをどう中道が引き出すのか?が大事な部分になってくるのではないでしょうか。

ブラジルには攻撃パターンが少なすぎて、相手ブロッカーがシンプルに考えて対応してくるので、日本は攻撃パターンを倍以上に複雑にする必要があると感じます。

2010年のWGPや世界バレーでは山口をOPに入れることで攻撃のコンビ数が飛躍的にアップし、更に複雑な助走やフェイントを取り入れながら攻撃をする井上香織や大友のMB陣の活躍が非常に良く、おそらくブラジル相手にはこの年が最も攻撃が通用した年。

MB1を実践しながらも、誰がどこからどう攻撃してくるのかわからないような複雑な攻撃が必要だなとブラジル相手には感じます。単にまっすぐ助走しシンプルに打つのではなく、それぞれが違うテンポの攻撃で、縦・横・斜めに助走してくるような複雑なコンビが必須ではないでしょうか。

現在、その第1段階で色んな攻撃を選手一人一人がマスターしようとしている段階の合宿だと思います。それが1つに融合されるWGPファイナルの時期に本気で期待したいです。

※質問に合った紅白戦ではそんなに新戦術の凄さがわからない。という意見が非常に多かったですが、日本人同士ではなかなかわかりずらいと思います。海外の190cm以上のブロック相手に対し、どう機能するかでしょう。毎日練習してますから、やってくることはお互いにほぼ見えてます。対外相手にどう戦うか?が最も大事な部分です。

●宮下を主セッターとした場合
宮下に関しての大きな弱点は、"トスのぶれ"。これがあると強豪国のブロックをふれる複雑な攻撃ができたとしても、得点を獲れる攻撃ではなくなってしまう。明らかに筋トレ不足の宮下は体幹がまだ弱いので、体を大きく使わないとトスが上げれない現状。

しかし近年では稀にみるサーブ力、高さ、ブロック力をメインに攻撃的なセッターとしては日本の第一人者。中道とは正反対なだけに非常に期待されます。

藤田をセレクトしないで、宮下を招集した理由。一体なんだろう?と思った人もいるかもしれません。でも宮下のセッターの場合、藤田とは全く異なるセッター像を描いていると推測します。具体的に言えば、読者さんからの意見もありましたが、木村をOPに置いたときの宮下の前衛での攻撃参加。


チャンスボールだけの時でもいいんですが、宮下前衛2枚の時に、チャンスボールが来た時にとっさに宮下は攻撃のために助走開く。そして木村がセットアップ体勢に入り、前衛3枚の攻撃に入る。

この攻撃などは面白いと思います。ただ非力の宮下に世界に通用するスパイクが打てるかどうか?更に木村のBSよりもこの戦術が効果があるのかは不明ですが、奇襲戦法としてガラッとコート内イメージを変えるには最適かなと感じます。

そして宮下をMB1で使う理由のもう一つは「ブロック]
長岡、迫田などMBSが前衛の場合には、宮下はミドルブロッカーとして跳んだ方がより効率的。長岡、迫田はライトに開かせて常に前衛のレフト・ライトにエース2枚という状態を作り、トランジションからの連続得点を期待したいです。

宮下についてはまだMB1での使い方や試合を見たことがないので、何とも言えません。2013WGPと世バレ予選を見る限り、まだまだゲームメイクの段階ではないように思えますが、まだ19歳。ドーンと構えて、大きく育ってほしいと感じます。

中道とは正反対の攻撃的な宮下の存在は非常に大きく、宮下がコートinした時点で大きくバレーを変えることができる可能性を秘めた選手。もう一人の藤田との争いになるだろうリオ五輪のセッターの座。

藤田の成長が止まらないだけに、藤田のサーブ、ディグ力がもっと上がると熾烈な戦いになりそうです。藤田は中道を超えるくらいの存在感と信頼感を身につけなければならないですね。中道、宮下、藤田、そしてその他の有望なセッター争いは、実質ワールドカップ大会の8月末までのあと1年程度。

どの選手がセレクトされるか、今年のWGPや世界バレーで何か見えてくるかもしれません。楽しみです!

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