kyupinの日記 気が向けば更新 -5ページ目

勤めている病院で薬を貰うこと

医師に限らず、病院に勤める人のメリットの1つは、院内薬局の薬を処方してもらえることである。例えば降圧剤だけ服薬し安定している人は、他病院に通院する時間が省ける。

 

近年、精神科入院中の患者さんが高齢化しているが、職員の高齢化も半端ない。うちの病院では、ここ10年ほどで師長で退職した人は全員、呼び戻されて働いている。ただし、師長で退職した人も師長の役職ではなく、平社員になっている。その方が運営的には良いのであろう。したがって師長当時よりはるかに影が薄い。

 

職員が高齢化すれば持病を持っている人も多く、かなりの人たちが処方を受けている。人気のある薬は、ロキソプロフェン、ロキソニン、ロキソプロフェンテープ、カロナール、風邪薬(PA、PL顆粒、ツムラ葛根湯)などであるが、鼻アレルギー薬(フェキソフェナジンなど)やプレガバリンも処方が多い薬である。年齢を重ねると、痛いところが増えるのがよくわかる。

 

 

なぜ院内薬局にロキソプロフェンとロキソニンという同じ薬があるかというと、この2つは効き方が異なり、一部の職員がロキソニンを強く希望するためである。おそらくたいした差がないと思うが、複数人同じことを言う人がいるので、二人組精神病的な好みの重複のようなものかもしれない。

 

ちなみに、うちの嫁さんはロキソニンよりロキソプロフェンの方が効くと逆のことを言っている。僕はこの2剤の差がわからない。基本、ロキソニンは飲まない方針というのもある。頭が割れるほど痛いときは仕方なく飲むが、どちらでも同じくらい有効である。

 

当院では向精神薬を貰う人はかなり少なく、ゾルピデムなどの眠剤を希望する人が数名いるだけである。昔、バブル当時、ハルシオンが大人気だったが、今はあまり希望する人がいない。既に知らない人も多いのではないかと思う。ハルシオンは眠剤として色々と洗練されていないからである。

 

今回の記事は、このような院内処方で薬を貰った時の支払いの話である。

 

ずいぶん昔、民間の単科精神科病院では、院内薬局で貰う薬はタダの病院が稀ならずあった。僕の若い頃は、院内薬局で薬(例えば風邪薬)を処方されても、支払いは必要ないことが多かった。

 

つまり、病院的には健康保険で7割は収入があるので、3割分は福利厚生的に無料にしていたのであろう。

 

しかしこの方法は良くないのである。この方法だと、毎月多くの薬を貰っている人ほど、その分報酬が増える計算になる。これは長期的には影響が大きく、たくさん薬を貰っている人ほど、将来年金額に反映し多く貰えるようになる。

 

例えば遠距離通勤で毎月2万円の通勤手当を貰っている人がいたとしよう。この人は年額で24万円分の報酬が高いとみなされ、そのために将来の年金額が増加するのである。どのような形でも、会社から貰えば貰うほど良いといった感じである。

 

しかし、このようなルールは公平なので今は是正されているかもしれない。

 

もしかしたら、当時は3割分の病院手出しは報酬とはされず、別の会計処理をしていたかもだが、税務署の監査で「これは報酬になります」と指摘を受け、以降報酬とした結果、社会保険料などにも影響し、会社の負担が増えるようになる。こうなると、3割分は徴収した方が良い。

 

僕は1990年代までは勤め先の病院で医療費を支払ったことがなかったが、今は普通に支払っている。

あれば良いと思う製剤

精神科薬で、もしあったら良いと思うものがある。

 

以前(2010年頃)は、プロピタンの筋注製剤があれば、治療をするにも随分助かると思っていた。これは今でさえ思うが、できればプロピタンの持続性抗精神病薬があればなお良い。持続性抗精神病薬があれば、プロピタンの筋注製剤はそこまで必要ない。

 

プロピタンは今でも内服薬があり不足しているという話は聴かない。なお、このブログにはプロピタンのテーマもある。以下はリンクを抜粋。

 

 

ここ5年くらい、もしあったら便利だろうと思う精神科薬は、ジプレキサの持続性抗精神病薬である。ジプレキサの持続性抗精神病薬は海外にはあるかもしれないが、日本では短期型の筋注製剤しか発売されていない。

 

メジャーな非定型抗精神病薬3剤、リスパダール(インヴェガ)、エビリファイ、ジプレキサのうち、持続性抗精神病薬がないのはジプレキサだけである。

 

これはイーライリリーがやる気を喪失してるのではないかと。おそらく推測だが、アメリカで副作用(処方後に発生した糖尿病など)で夥しい件数の訴訟を抱えてしまったことと関係がありそうである。イーライリリーは、訴訟のため12億ドルを支払ったとされている。

 

副作用を考慮すると、持続性抗精神病薬はすぐには中断できないため、この製剤の発売に消極的になるのは理解できる。

 

しかし、ジプレキサはかけがえのない(似ている抗精神病薬などないという意味で)非定型抗精神病薬なので、持続性抗精神病薬はあった方が良い。

 

トータルではジプレキサの持続性抗精神病薬とプロピタンの(注射剤及び持続性抗精神病薬)の2つのうち、僕があった方が良いと思った件数を考えると、プロピタンの方が上回る。これはあくまで個人的な考えである。

 

そもそも、今はプロピタンとかトロペロンは院内の在庫どころか、院外薬局にさえない病院もそこそこあると思う。

 

院内や外来患者に使われない薬は薬局に置かないからである。

 

参考

 

レボトミンとサイバー攻撃

最近、急激にレボトミンが不足しており、当院の院内薬局には50㎎錠が20錠しかない。25㎎錠は200錠以上あるが、やがて枯渇するのは時間の問題である。

 

レボトミンは古くから発売されているフェノチアジン系の定型抗精神病薬で、ヒルナミンという商品名でも併売されている。いずれも先発品。このような古い抗精神病薬は、薬価も安すぎるためかジェネリックもない。

 

製薬会社も利益がどうとかではなく社会的責任で販売しているのである。

 

ところが、レボトミンが品薄になっている原因は、サイバー攻撃だったらしいのである。サイバー攻撃を受けたのは田辺三菱製薬株式会社だと思うが、そのために出荷量が制限されている。ヒルナミンも規制されており、急にヒルナミンを購入することもできない。

 

レボトミンのような古い定型抗精神病薬はなくなったとしても、そんなに影響ないだろうと思うかもしれないが、そうでもないらしい。僕は実はあまり影響ないのでは?と思った本人である。

 

今、僕の受け持ち入院患者さんのレボトミン処方状況を調べると、25㎎錠を処方している人が1名、50㎎錠を処方している人が1名と2名だけだった。この2名は当院に転院前から既に処方されており、継続処方である。いずれも眠剤の補助として処方しており、ないならないでも極端には困らない。

 

レボトミンは抗精神病薬なので、入院患者さんはともかく、外来患者さんでは2剤制限が影響してかなり処方しにくい抗精神病薬になってしまった。外来はほとんどいないか、いても1~2名だと思う。

 

製薬会社へのサイバー攻撃と言えば、2017年のMSDがある。

 

 

精神科ではMSDという製薬会社は聴きなれないと思うが、ベルソムラを販売する製薬会社である。このサイバー攻撃の当時、パソコンが使えないので困ると言った話をMRさんから聴いた。

 

サイバー攻撃は一般の病院でも起こっており、突然、電子カルテが使えなくなるので、病歴やカルテ内容、処方状況などが閲覧できず被害を受けた病院は外来を閉鎖かそれに近い状態に至り、大変な被害になることが多い。また個人情報が流出することもありうる。

 

 

病院以外の一般企業は、これらの加害者(いわゆるハッカー)に身代金を支払ってしまうことも多いらしい。その方がかえって被害が小さくなることも多いからである。しかし完全に復旧する保証はない。

 

今回のレボトミンの不足の原因がハッカー攻撃だったことは驚きだが、現在50%ほどは生産できていると言う話である。それでも、かなり購入が制限されるのは間違いない。

 

このようなサイバー攻撃の際、レボトミンは復旧すれば、むしろ製薬会社が赤字になる極めて安価な向精神薬であることは重要だと思う。レボトミン錠はおそらく復旧の優先順位が低いであろうから。

 

ジェネリックの不正事件以降、中国での原薬の工場の事故、新型コロナパンデミックなど、薬の供給が制限される事例が増えている。

双極Ⅱ型の軽躁状態と普通に調子が良い時の相違について

双極性Ⅱ型では、主に「双極性うつ」が問題になることが多い。双極性Ⅱ型の人たちの困難さは、ほとんどの人が躁状態ではなく「うつ状態」に起因する。また、軽躁状態が収束するに従いうつ状態が生じることも多く、軽躁状態の程度(ボリューム)や持続期間も無関係ではないと言える。

 

今回は双極性Ⅱ型の軽躁状態のボリュームについての話である。これらはもしかしたらスペクトラム的なもので、さほど臨床的意義がないのかもしれない。

 

ある日、「最近調子が良いんですよ」と双極性障害の患者さんが言った。その患者さんは発病以来20年以上経っており、短い軽躁状態と、数か月続くうつ状態を繰りかえす臨床パターンであった。

 

その患者さんに、「それは軽躁状態ではないですか?」と聴いたところ、「いや違います」と言うため、「軽躁状態」と「普通に調子が良い」の差を聴いた。

 

その患者さんによると、明確に軽躁状態の時は、

 

〇会社まで10㎞以上あるが、毎日、スポーツタイプの自転車を使って通勤する。雨の日もカッパを着て運転するが苦にならない。

〇スケジュールをいっぱいに詰め込む。

〇今まで溜まっていた収集品をきちんと整理する。しかもエクセルで管理する。

〇映画を観始める。興味のある映画。DVDを借りてくる。あるいはアマゾンプライムやネットフリックスで観る。

〇外出が多い。人と会うことも多い。(特に友人)

〇仕事は精力的にできる。

 

このようなハイペースで生活しているうちに、ある時、変曲点を迎え、突然ほとんどのことができなくなる。そして次第にうつ状態になり、しばらくは外来治療を行うが、結局、入院になる。この経過にならないことの方が稀である。

 

普通に調子が良い時。

〇スケジュールをつけることはするが、詰め込まない。スケジュールは仕事上必要なのでつける習慣がある。

〇外出は増えない。調子が良いことを実感しているが、家にいることが多い。

〇大掃除や整理整頓まではしない。

〇会社には普通に車で行く。自転車で行くと、会社に着いた時点でもう疲れているので。

〇雑誌、新聞、興味のある本が普通に読める。

 

「普通に調子が良い」時は、内容を観ると普通の生活状況に見える。双極性うつ状態で、入院していない時は、午前中に動いたら午後は横になっている状況なので、それに比べると、ずっと好コンディションに見える。

 

質的には最初に挙げた「軽躁状態」の状況があるので、スペクトラムに見えないこともないが、本人が否定しているので、そういう感覚はないのだろうと思う。

 

この人は「軽躁状態」と「普通に調子が良い」では、他人に迷惑をかけることがない。そのレベルの躁状態に達しないからである。しかし、うつ状態は入院まであるので、少なくとも苦悩は結構ある。軽躁状態~うつ状態は一連のものなので、軽躁状態で元気が良くても決して喜べない。本人もそのあたりのことは理解できている。

 

双極Ⅱ型なる病態は、躁状態のボリューム(つまり重篤さ)が双極Ⅰ型ほどではない疾患である。つまり双極Ⅱ型は、躁状態の重さによって決まる部分が大きい。

 

本人の視点で双極Ⅱ型の軽躁状態の洞察(この場合、重さの吟味)ができることこそ、躁状態が重くはないことを証明している。

 

双極Ⅱ型は実は躁状態とうつ状態の2局面だけあるのではなく、軽症状態だけでも程度の異なる2段階ないし数段階のレベルが存在していることが推定できる。

 

また、うつ状態でも家でほとんど動けないが、入院までは至らないレベルと、どうしても入院しないといけない数段階のレベルが存在しているように見える。うつ状態では人にもよるが、いつもイライラして家族と口喧嘩が多くなる人もいる。うつ病的な不機嫌である。そのような人は本人は入院して貰った方が家族は助かる。うつ状態の入院は希死念慮の程度、家族との人間関係の悪化などが判断材料となる。

 

参考

 

 

 

 

 

 

エチレングリコールとオランザピンが検出された幼児殺害事件

 

 

 

最近、オランザピンが幼児殺害に使用されたと言う報道があった。僕は、そのニュースを聴いた時、なぜオランザピンなのかと思った。と言うのは、オランザピンは自殺目的に使用されない薬だからである。

 

このオランザピンだが、母親が睡眠薬として服用していたと言われているが、記事には「購入した」とあり、病院ではなく海外から購入したのかもしれない。

 

不凍液として使用されるエチレングリコールは明らかに有害物質で、過去にも殺害目的で利用されたことがある工業用薬品である。一方、オランザピンは精神科治療薬なので、この組み合わせに違和感があったのである。

 

母親は詳しいことを知らずにオランザピンを睡眠薬と思っていて、単に幼児にとって体の負担が大きいと思ったのかもしれない。もし、真に殺害目的だったとしたらである。

 

今回の事件のポイントは、ニュースを知った人が、オランザピンがエチレングリコールと同様な有害性を持つ薬品と見誤りかねないことだと思う。

 

実際、僕の患者さんで長くオランザピンを服薬している人から、自分の内服薬について不安に思っていると聴いた。

 

僕は最初、患者さんが何を言っているのかピンと来なかったが、間違いなく今回の事件のテレビ報道の影響である。

 

今回の事件の影響で、オランザピンを服用しつづけるべき患者さんが安易に中止しないように祈るだけである。