kyupinの日記 気が向けば更新 -843ページ目

ジプレキサザイディス

口腔内崩壊錠。味は甘い。薄い黄色。極めて軽い形状であり、口腔内に入れて服用する。軽く密度が低いのか、おそらく空中で落としても直線的に落ちない。きっと風で飛んでいくと思う。剤型は5mgと10mgしかない。(ジプレキサ錠は2.5mgもある) 


これは比較的最近発売されているが、最初は意味あるんかにゃ~とか思っていた。リスパダールは液剤があり、錠剤と液剤は差があるので存在価値がある。ジプレキサザイディスの場合、口腔粘膜から吸収されて効くわけではないので、溶けたあとに唾液で飲み込む必要がある。一応、服用に水は必要ないとされている。


臨床上、ジプレキサザイディスはいろいろと便利だ。問題点は、最低でも5mg錠なので、せいぜいこの半分、2.5mg程度しか正確に処方できないこと。このジプレキサザイディスで衝撃的な出来事があった。ある少年が自傷行為で自分の手を噛み続け、まさに血がダラダラ。状態的には亜昏迷だと思う。トロペロンを注射してみたら、3Aでも全然効かない。そこで、ジプレキサザイディスの5mg錠を1つずつ服用させていくと、本当にみるみるうちに改善。結局、30mgまで服用させたが。(この患者の場合、自費だったので上限は問題ない) ああいう風に、リアルで数10秒単位で良くなっていくのはあまりみたことがないのでちょっと感動。




ジプレキサ

一般名:オランザピン


薬物プロフィール

非定型抗精神病薬の1つ。日本で抗精神病薬が発売されるようになって、ジプレキサほど精神病の治療に質的な面で貢献した薬剤はないだろう。それほどの傑出した薬剤と思われる。少なくとも僕はそう思っている。この薬物はもともとクロザピン(本邦未発売)を改良してできた薬物であり、クロザピンの重大な血液系の有害作用が出現しない。クロザピンは、通常の抗精神病薬では治療困難なケースで有効な場合があり、将来的には日本でも発売になるかもしれない。


ジプレキサは、幻覚妄想など陽性症状に有効であり賦活作用も持ち合わせているので、この薬剤が合う人にはこれほど良い薬はないと言えるだろう。最初、ジプレキサが発売になった時、あまりにうまくいかないので、しばらく処方を控えたほどであった。合う人には合うが、合わない人には全然合わない。どのようなことになるかと言うと、幻覚妄想が賦活し病状が悪化する。ひどい精神運動興奮や昏迷を来たしうる。何人の患者さんが、この薬で保護室に入らないといけなくなったことか。従来の抗精神病薬は副作用は出ても、本来の病状を悪化させてしまう薬物は非常に限られていた。以前は、クロフェクトンなどが病状を悪化させることがあった。クロフェクトンで何度か病状を悪化させると、いい加減使うのが嫌になる。しかしこのクロフェクトンも使いようで、合う人にはとても良い薬物ではあるのだ。


従来の抗精神病薬は副作用が酷いとか、効果が足りないから中止するパターンが多かったが、非定型抗精神病薬が出現以降、病状悪化のために中止するというパターンが生じた。リスパダールでも病状を悪化させることがあり、何度かこういうことがあると使い辛くなったものだが、なんだかんだ言ってリスパダールは極めてセレネース的な薬剤なのである。対照的に、ジプレキサは賦活作用も強いのか酷い悪化をきたし、時に、けっこう長患いになる。ある僕の患者さんは、その後始末に1年を要した。2ヶ月は保護室に入っていたと思う。ある時、とてもじゃないが電撃療法でないと切り抜けられないと思ったことがあったが、結局そうせずゆっくり治療をすることを選んだ。現在はとても良くなっているので、それによる後遺症はない。現在の治療薬はトロペロン(15mg)なのである。僕の患者さんだけで、数ヶ月クラスの病状悪化を来たした人は最低5~6名はいるんじゃないだろうか?


それでもなおジプレキサは、試してみる価値がある薬剤なのである。特に良いのは、自然な治り方であること。表情も明るくなるし病前に出来ていて発病後できなくなったようなことでもけっこう回復する場合がある。たいていの薬物は、単に病気の対症療法っぽく見えるのに対し、ジプレキサは根本治療的に作用するように見える。ある研究によると、ジプレキサは統合失調症発病後の脳の神経細胞の脱落をかなり抑えるという。僕は思うが、ジプレキサで治療した場合、10年後の結果が相当違うような気がする。治療のクオリティが高いのである。最初、病状の時期というか、ステージ的に合わないことがあるのかもしれないと思ったことがあった。つまり、病状が悪い時に処方すると悪くなったように見えるのではないかと。しかし、失敗する人は何度でも同じように失敗するのである。2回失敗すると、さすがに永久的に禁忌とした。ジプレキサは、普通、抗パーキンソン薬の必要もないし、単剤で、しかも1~2錠、1日1回服用するだけでいいのが良い。ジプレキサの血中半減期は29時間程度と言われている。(脳内クリアランスははっきりわかっていない)この薬で合うと、錠数的にあまり薬を飲まなくて良いのである。


ジプレキサは、肥満や高脂血症などの副作用があり、その点は現代的ではない。肥満は、ハンパじゃなく増えることがあり、これが一部の患者さんに嫌われるところである。僕は真に合っている人は肥満の副作用すらないように見える。むしろ体重が減るのである。あの人はとてもジプレキサが合っていると言える人は、体重増加もない。ただ、体重増加があっても精神的にはかなり良い人もいる。


またジプレキサは高血糖を来たすことがあり糖尿病には禁忌になっている。当初、高血糖をきたすことは知られていたが、その副作用が軽視されていた。糖尿病は禁忌でなかった。その後、急激な高血糖で死亡者が出るに至り、禁忌に変更された。(アメリカでは禁忌ではない。体格や人種による差と思われる) これは、医師からすれば大きな制約である。なぜなら、統合失調症の人は糖尿病の合併率が高いからである。その後セロクエルも肥満、高血糖の副作用があるため、同様に禁忌とされた。注意して処方できるなら良いが、最初から禁忌で使えないとなると、これは非常に困る。ジプレキサやセロクエル使用者は、定期的に血糖検査を行い、常に監視しておかないといけない。高血糖はずっと問題がなくても突然、生じることがある。


一般に向精神薬は既に海外で発売されていて、その後日本で発売になった場合、常用量、最高量とも海外より低く設定されていることが多い。ジプレキサに限れば、そのかかわる酵素の関係から、日本人でも減量しなくても良いように言われていた。(人種差があまりないということ) しかし臨床上、たくさんは服用する必要がない患者さんがわりといる。うちの病院では、外来でデイケアに参加しているような程度の人は5mgで問題ない人が多い。一時15mg程度服用していても、その後、減量が可能である。うちの病院の患者さんの場合、20mg必要な人はそれだけで解決しないケースの方がむしろ多い。他の薬物も併用してやっとコントロールしている。本当は、ある程度効果がある場合は、30~40mgくらい使わせてほしいと思う。医師の感覚では、40mgくらい服用すれば、きっとうまくいくと思うことがある。しかし、地域により差があるかもしれないが、20mgを超えて処方すると保険で通らないのである。(ジプレキサが高価なためチェックが厳しい) あと、普通の薬剤は徐々に漸増することを推奨されているが、ジプレキサに関しては最初にドンと最高量の20mgくらいを処方することを推奨されている。このやり方の方が良いんだそうだ。このあたりも普通の薬物と違う。


ジプレキサは安定して治療を続けていると、半年くらいして更に病状が改善することがある。ある患者さんはもう服用し始めて、3年くらい経つが、今でも少しずつ良くなり続けている。体重も当初から比べ8kgくらい減っている。不思議なことに、うちのデイケアのメンバーさんのうち、ジプレキサ単剤の人はすべて体重がかなり減っている。うちの病院で僕の処方に関して言えば、ジプレキサは相当に処方数が多い。(セロクエルが一番多い時期があったが、ここ1年で逆転した) しかし15mgとか20mgはあんがい多くはないんだな。外来患者さんで状態が良好の人は5mgが多く、時々10mgがいるくらい。1mgだけ処方している人も相当にいる。ジプレキサ1mgは、セレネースで言えば、0.75mg程度になる。ジプレキサは非定型抗精神病薬の中でも、陽性症状、陰性症状とも治療効果の高い極めてバランスのとれた薬物といえるだろう。

円形脱毛症

セレネースの稀な副作用に円形脱毛症というのがある。(らしい) そんなことを、精神科専門誌に写真つきで記載してあるのを見たことがある。もともと円形脱毛症には心身症的な要素があるので、なぜセレネースが原因と特定できたかが謎だ。免疫学的に調べられるのだろうか? アレルギー性皮膚炎のように。まさか、セレネースを中止したら良くなったからと言うんじゃないだろうな。

入院患者の数%くらいだろうけど、精神面の調子を崩した時のみ、ストレスのためか円形脱毛症が出現する人がいる。外来患者でも同様だ。だから医師からみると、薬が原因なんて言う風には見えないんだな。僕は円形脱毛症には、フルコートスプレーかフロージン液を処方する。すぐには治らないけど、しばらくすると良くなるか、かなり改善するのが普通だ。精神疾患の患者さんは、皮膚が弱いというか、蕁麻疹などが出る人が多いね。あるいはアトピーを持ってるとか。もともと脳と皮膚は発生学的に由来が同じなので、脆弱性が似ているのではないかと思われる。(中学校の理科で習ったでしょ)


「患者さんを生物学的に診る」タイプ

今日はとても忙しかったんだな。うちの病院は、外来人数は月間にのべ800人台。しかし半分以上はデイケアが占めるので、純粋の外来患者がひどく多いわけではない。僕は基本的に火曜日と木曜日を担当し、月曜日、土曜日は隔週で担当する。他の曜日も、自分の患者さんが来ればもちろん診る。うちの病院は外来は朝から夕方までやるので、午後から来てもダメというのはない。外来が空いた時に病棟に行き病棟の患者さんを診るか、あるいは回診をする。概ね午前中に来る人が多いので、午後は外来もトビトビといった感じ。そうでないと、午後から回診なんてできないでしょ。時々、土曜日のそれも4時過ぎに新患が遠方から来たりする。聞いてみると、土曜日の夕方に新患OKの病院はあまりないんだそうだ。


今日は午前中に2人新患が来た上、ほかに患者さんも多くて大変だった。しかもデイケアの患者はけいれんを起こすし・・ お昼頃、お茶を飲んだらどっと疲れが出た。昼までは病棟に手が付けられない状態で、午後から回診もしたが最後はエネルギー的にはぴったりといった感じ。僕は過食症とかは苦手だと思っていたんだが、今、診ている子は以前に比べるとずいぶん良くなった。過食症でも、それにともなう症状、うつ状態とか不眠とかイライラ感などはわりに簡単に良くなる。もちろん手ごわいこともあるけど。しかし過食などの中核といえる症状のコントロールは難しい。


僕は、いわゆる「患者さんを生物学的に診る」タイプなので、心理療法的治療が良さそうなタイプの患者は自分にはやや難しいと思っていたんだ。最初、うちに来た時、その子は心理療法的なありとあらゆる治療を既に受けており、しかも全然良くなってなかった。検査所見であまり目立たないが、少し不自然に思える所見があった。彼女に言った。僕は生物学的に治療するタイプだから、難しいことはほとんど言わないけど、まあいろいろとやれる範囲でやってみるので・・(中略)・・だいたい心理療法とか行動療法とか精神療法で良くなるくらいなら、あなたはもうとっくに治ってるでしょう・・ 今も過食症は完全には良くなってないけど、少なくとも初診した当時より断然良い。これは本人も言っている。これはひょっとすると、まだまだいけるかもしれない。


セディール

一般名:タンドスピロン

ルーランとセディール

ルーランの話の際にセディールが出てきたので、この機会に書いておこう。基礎研究でベンゾジアゼピン系抗不安薬がバルビツール酸系薬物やアルコールと同じ部位に結合していることがわかってきた。これが従来型抗不安薬に耐性や依存性が生じうる大きな理由であった。依存性といえば、確かにデパスやレキソタンには熱烈なファンがいる。その後、向精神薬の薬理学的プロフィールがだんだんわかってきた。3環系抗うつ薬の主な薬理作用はセロトニンまたはノルアドレナリンの再取り込み阻害作用だが、ある種の不安に大変有効なのが知られている。例えばアナフラニールは強迫神経症などにしばしば処方される。


一般に、3環系抗うつ薬には耐性や依存性はないと考えられている。すなわち、3環系抗うつ剤は長く服用しているうちに多く使わないと効きにくくなるという傾向はほとんどない。ベンゾジアゼピン系の眠剤が長く使用しているうちにいくらか効き辛くなったり、錠数が増える傾向があるのと対照的である。このようなことから、セロトニンかノルアドレナリン、あるいはその両方をコントロールすれば、耐性や依存性のない抗不安薬を作れるかもしれないと考えられるようになった。グレイが不安の主座と考えた中脳ー海馬系に存在する受容体のサブタイプは主にセロトニン1Aだった。以上のような臨床的経験、薬理学的データなどから、選択的にセロトニン1A受容体に作用する薬物が理想に近い抗不安薬になるのではないか?


1970年頃、ブリストール・マイヤーズ・スクイブ社によって合成されたブスピロン(本邦未発売)というセロトニン1Aアゴニストは、動物実験で抗コンフリクト作用があることが確認された。ブスピロンは1985年、初めて西ドイツで医薬品として認可されている。その後、住友製薬(現、大日本住友製薬)によって合成されたタンドスピロンは、1996年にセディールという商品名で発売されている。


セディールの評価であるが、抗不安薬としてはあまりにも人気がない。なぜならソラナックスやレキソタンのように服用後、すぐに強い不安感を解決してくれないからだ。そんなわけで患者さんからも不評なのである。医師から見ても、セディールの効果を確認しにくい。普通、単独でセディールなどを服用することが少ないので、ひょっとしたら眠剤の抗不安作用に負けているというか、まぎれてしまっているのではないかとすら思うことがある。セディールはおそらくあまり処方されていないと思う(僕の推測


セディールがこのありさまなのに、ルーランはいやに抗不安や抗うつ作用があると思う。ルーランの中には、すっぽりセディールが入っているのだ。もしかしたら、構造式のバランスが良いのかもしれない。セディールは服用し始めて長期間経たないと効果が発現しないと言われる。だから数ヶ月くらい頑張って処方したこともあるが、所詮、これだけで頑張るのは無理なのである。不安状態があるのに、ベンゾジアゼピン系の薬物(ソラナックスなど)を服用しないでいてくれというのは、患者さんにとってむごすぎる。ベンゾジアゼピンを服用し始めるのなら、セディールを合わせて飲むのは無駄とは言わないまでも、単に日々服用する錠数を増やすだけだ。


近年、セディールをSSRIと合わせて服用した場合、抗うつ作用が強くなることが言われ始めた。(エビデンスまであるかどうかまでは知らない) これを強化療法と言うらしい。僕もそんなことを試みたことがある。セディールは時間がかかるので、もしSSRIで治療効果が不十分なら難しいことを考えずに3環系または4環系抗うつ剤に切り替えた方が早いような気がする。というか、ひょっとしたら、SSRIとデパスの組み合わせの方がもっと良かったりしないか?と思ったりw


本邦未発売のブスピロンの方が効果的には良いのかもしれないと思うが、使ったことがないので、どのくらいのものかは謎なのである。