kyupinの日記 気が向けば更新 -844ページ目

カフェインとパニック障害

カフェインはパニック障害を悪化させることが知られている。カフェインはコーヒーだけでなく日本茶、コーラ、チョコレート、その他ダイエット薬など様々なものに含まれる。タバコと並ぶ嗜好品の1つであり、やめることは耐えられないと感じる人もいるだろう。コーヒーが好きで中等度以上使用していると急にはやめられないし、急にやめようとすると、頭痛、頭がどうもはっきりしない感じ、いらいら感、疲労感などが出現する。このような、いわゆる離脱症状を最小限に押さえるため徐々に減量することが必要。コーヒーの量を少しずつ減らしながら、カフェインを含まないハーブティなどへの切り替えを行うのが良い。ハーブはそれ自体に鎮静効果(飲用した時ホッとする感じ)があるので、離脱症状を減らすことができる。具体的に言えば、カモミールやペパーミントなどがお薦め。

(これは2000年頃にウエブにアップしたもののほとんどそのままです。すいません。)


ルーラン

一般名;ペロスピロン
ルーランとセディール

日本における5つの非定型抗精神病薬の1つ。SDAの範疇に属する。住友製薬(現、大日本住友製薬)の自社開発の薬物であり本来セロトニン1A部分アゴニストであるセディール(ベンゾジアゼピン系でない抗不安薬)を基に作られている。構造式的には、ジプラシドン(本邦未発売)などの非定型抗精神病薬にみられる骨格にセディールを組み合わせた形になっている。本来ルーランはD2レセプターに親和性が強いので、一見、錐体外路系副作用が出やすそうに見える。薬物プロフィール的にもリスパダールより錐体外路副作用が出やすそうだが、臨床的にはそれほどではない。これにはいくつかの理由がある

薬物プロフィール

まずルーランに含まれるセロトニン1A部分アゴニスト部分が副作用を減らす役割も果たしているようである。ルーラン(未変化体)は体内で代謝されて、ルーランの代謝物に変化する。この代謝物はヒドロキシペロスピロンであり、ID-15036と呼ばれている。実はこの代謝物こそ、理想に近い抗精神病薬なのだという。

ルラシドン

ルーランとこのID-15036は薬物特性が異なり、ルーランを服用した場合、主にこの2薬剤の総合的な薬理作用により治療効果が発現する。ID-15036はルーランに比べD2遮断作用が弱く、それに比し強い5-HT2A遮断作用を有している。しかも、血中濃度もルーランの数倍であるため、ルーランの薬効は主にID-15036の薬理作用によるところが大きい。
アメリカでは、ID-15036の方で治験が開始されている。(数年前の話、現在はよく知らない)大日本住友製薬は今のところルーランをアメリカで発売する気はないようだ。

ID-15036はルーランに比べ副作用が少なく、クロザピン(本邦未発売)の薬物プロフィールに似ているという。また、ルーランからID-15036への代謝は個人差が大きいとも言われている。ということはルーランの薬効や副作用も比較的個人差が大きいと言えるのかもしれない。治験に協力した臨床家は、ルーランではなくID-15036の方を発売することを推奨したらしいが、結局受け入れられなかったと言われている。

セロトニン1A部分アゴニスト部分は、ルーランの抗不安作用、抗うつ作用、副作用の減少に貢献している。近年、リスパダールの高プロラクチン血症が問題にされるようになってきたが、ルーランは高プロラクチン血症はほとんどきたさない。厳密に言えば、ルーランを服用した直後一過性に上がる。しかしD2受容体からの解離が早いので、すぐにプロラクチン値は下がってしまうのである。プロラクチンの持続的上昇が、乳汁分泌、インポテンツ、肥満などの有害作用をもたらすので、この点ではルーランは欠点がないのである。ルーランによる乳汁分泌はほとんど出現しない。また、リスパダール、セロクエル、ジプレキサなどが体重増加をもたらすのに比べ、ルーランは体重にほとんど影響しない。

ルーランの個人的な感想だが、副作用がわりあい少ないが、やや扱いにくいという印象がある。セロクエルに比べ作用がより安定していることは感じられる。(セロクエルも好きな薬物なんだけど) 初めて処方したとき、患者さんが眠いという訴えをすることがわりとある。抗うつ作用がいくらかあって、うつ病でうまくいかない人に併用で用いるといくらか良い場合があること。統合失調症に限らず、うつ病の人でも、さほど服用し辛くないのである。 

また、抑うつを伴う統合失調症にうまくいく場合がある。それでも効果がいまひとつはっきりせず、抗うつ作用はみられるが、なんとなくいつも浮ついていて落ち着かない感じになることもある。幻覚妄想などの陽性症状、うつ状態、陰性症状のバランスが単剤投与だとうまく取れない場合がある。そんなわけで、僕の処方の場合、単剤もあるけど他の薬剤との併用の処方が比較的多い。このあたりが扱いがやや難しいと言った理由だ。

ルーランは抗精神病薬の中では半減期が比較的短いので数回にわけて処方されることが多いが、僕は1日1回処方も行っている。その人は全く問題ない。もともとD2レセプターの持続的遮断は必要性は少ないはずで、またID-15036などの存在と薬理特性も考慮している。ルーランは4mgと8mgの剤型を持ち、一般に48mgまで処方できる。換算的にはルーラン8mgはリスパダール1mgと同等とされている。(後に16㎎錠も発売されている)

ルーランは国内の製薬会社の開発であったため、薬価は、同系統のリスパダールを基準に決められた。こんなことは皆あまり知らないだろうが、ある時(数年前に)リスパダールの薬価が上がったのである。普通、薬価が下がるならわかるが、本当に上がったのであった。その結果、ルーランのみ安い薬価に置き去りにされた。ルーランは最高量の48mg処方しても、1日268円しかかからない。例えば、ジプレキサを20mg処方した場合、992円、セロクエルを600mg処方した場合、1047円かかる。ルーランは他の非定型抗精神病薬に比べ、ダントツに安いのである。僕が薬価のことをよく話すのは、僕が院長をしていて、いろいろ病院の事情などが処方に影響することがあるのを知っているからだ。(これはいつかまとめて話したい) 

当初、ルーランは安価な薬物にもかかわらず、売上的にさっぱりだった。今でもそれほどは使われておらず、年間の売り上げが30億くらいらしい。リスパダールは300億くらい売れていたが、近年、リスパダールの液剤なども出たので(これは錠剤に比べ更に高価)もっと増えている。ルーランは薬価が安いのでやや額的に少なくならざるを得ないが、それを考慮してもあまり処方されていない。 

今や、ルーランの最大の利点は薬価が安いことになりつつある。これは別にバカにしているわけではなく、今後、大きな利点になってくると思われる。ルーランはちょっとわかりにくい面があって使われていないところがあるから、もう少しエビデンスが揃ってくると状況は変わってくるに違いない。ルーランは住友製薬の自社製品なので、発売当時、海外でのエビデンスが全然なかった。ジプレキサやセロクエルほどの期待感がなかったのもある。精神科医からすれば、海外で定評がある薬物の方がやはり処方しやすい。患者さんからの薬物の指名があることさえある。知名度の差が大きいのである。僕は、今後、少しずつルーランも処方されるようになると思っている。(セディールブスピロンの項を参照)

携帯電話

一時期、病院内で携帯電話の使用を控えるよう徹底されていた時期があった。携帯電話はその電磁波により医療機器の誤作動を起こしうるため、というのが主な理由だった。現在でも携帯電話を使用できない病院も多いかもしれない。それでも、最近は病院内で携帯電話を厳しくは禁止していないように見える。精神病院に関しては、精密医療機器がたいしてないのもあり、厳格に禁止はしていない病院が多いのではないのかしらん。少なくとも、外来の待合室なんかでは。僕の病院の場合、特に禁止していないので、時々、診察中に患者さんやその家族の携帯の呼び出し音や音楽でびっくりすることがある。外来で携帯の使用が許可されるにしても、周りに人がいる状況でのおしゃべりは控えるのがマナーであろう。


問題は、入院時の携帯電話の取り扱いである。一応、僕の病院では入院時の携帯電話は原則的に許可している。これは僕が決めた。(携帯電話どころか、携帯型のゲーム(任天堂DSなど)も許可している) ただ、深夜にかけると他の患者にも迷惑がかかるので、消灯以降はナースルームで預かる。ただ、これも原則であり個室の人は24時間持ってよいこともある。


しかし患者さんの病気の性質によれば、携帯電話を持っていると非常にまずい場合がある。例えば、入院していることをいろいろな人に電話やメールをする場合などだ。もしかしたら、良くなった後に本人が後悔するかもしれないことは未然に防がないといけない。このように本人に判断力がない場合、家族と話し合って決める。長期に精神病院に入院している人、つまり年配の人は、携帯電話を持つ文化がないので、携帯うんぬんが問題になることはほとんどない。携帯電話は、やはり若い人の入院の場合に判断を要する。人によれば、携帯電話を持てないなら入院しないという人がいる。ぜひ入院が必要な場合、そのくらいなら譲歩した方が良い。僕はそんな考え方なんだ。絶対必要と言っているが、何がしたいかといえば、友人にメールがしたいくらいが多いのだけど。


たまに携帯のサイトを持っていて終日管理しているような人もいるので、携帯が持てるかどうかが切実な問題である場合もある。全然、判断力がなくて放っておくと何回も警察に電話したり、そこらの大学教授に意味不明に電話するような人には携帯は持たせられない。なぜなら相手にも迷惑がかかるし、ここが大切だが、本人の名誉が傷つくからだ。これこそ人権を尊重する対応だと思うし、何でも許可するのが人権を守ることではないのは理解してほしい。

トリプタノール

一般名:アミトリプチリン

トリプタノールは代表的な3環系抗うつ剤の1つで、抗うつ剤の中では最強に属するものと考えられる。薬物プロフィールとしてはトリプタノールはセロトニン優位だが、体内で代謝されてノルトリプチリンになってしまうので複雑である。ノルトリプチリンは商品名はノリトレンで、これはノルアドレナリン優位である。全体のNAと5HTのバランスは微妙だが、いくらかノルアドレナリン優位と思われる。トリプタノールは半減期は8~24時間で作用時間は長い。代謝物のノリトレンの半減期もかなり長く18~96時間と言われており、トータルで考えて半減期の長い薬物といえる。トリプタノールはH1受容体阻害作用を持ち、眠さの副作用がみられる。3環系抗うつ剤で体重増加をきたすことがあるが、このH1受容体阻害作用が関係していると考えられている。また鎮静に関係するα1受容体阻害作用も強い。代謝活性物質のノリトレンはトリプタノールの欠点である口渇、便秘、起立性低血圧などの自律神経系の副作用は(トリプタノールに比較し)少ない。

 

パキシルなどの比較的効果が強いSSRIでうまくいかない場合、しばしばトリプタノールくらいまで行ってしまう。トリプタノールは「眠さ」という副作用があるため、これで効果的であったとしても、実用にならない場合もある。なぜなら、眠すぎると仕事にならないからである。これでは職場に復帰できない。僕は、アモキサン、アナフラニール、トフラニールくらいで治療していて、まあまあ良い治療状態だが、あと1歩と思われる時、トリプタノールに一部変えてみることがある。たいていトリプタノールへの変更のため、以前より良いと言われることが多い。トフラニール、アナフラニールくらいを支障なく服用できる人は、トリプタノールも大丈夫なことが多い。

 

意外なことに完全にトリプタノールに変更するのではなく、一部だけトリプタノールにしてほしいと言う希望の人がいる。なぜそうした方が良いのかよくわからないが、その方がバランスが良いのだと言う。だから、アモキサンとトリプタノールの2本立てという変な処方になってしまった。1人だけではなく、時々こういう人がいるということは、きっとその方が良いのだと思う。こんな変な処方はまぁ良いのだが、レセプトをチェックするドクターが専門医の場合、何を考えているんかな~と思われそうなのがちょっと。こういう処方は、抗精神病薬の場合もそうだけど、バカっぽく見えるのが辛い。

 

うちの病院はトリプタノールの10mg錠は置いておらず、25mg錠だけでやりくりしている。たいてい25mgか50mgでスタートし、150mgを目指す。75mgで十分良くなる場合はそのままだ。75mgはなんとか飲めても、100mg以上はきつさ、口渇、眠さなどの副作用で難しいということもある。尿閉が出ると、この症状を改善する気の利いた方法があまりないのと、仮にちょっと良くなったとしても本人の苦痛が大きいので、この薬を諦めることが多い。トリプタノールは、僕は最高225mgまで使用したことがあるが、これは本当にうまくいかなかった人で、普通は150mgぐらいを最高量にしている。はっきり言ってトリプタノールは150mgより多く使いたくはない。

 

トリプタノールは、本当に強い抗うつ剤なのだが、この薬で良くならない人も現実にはいるのである。トリプタノールでうまくいかない場合、他の抗うつ剤で使ったことがないようなものがある場合、順番に試してみる。トリプタノールは確かに強い抗うつ剤だが、人により個人差があり相性があるからだ。たいていの3環系抗うつ剤でうまくいかない場合で、病状が深刻な時は電撃療法を考慮する。医師によれば、とっくに電撃療法をする人もいるだろうが、ゆっくりした経過の場合は、薬で可能なら薬でやっていく方針ではある。

 

電撃療法は重いうつ病の患者にかける場合、非常に有効ではあるし長期的なデメリットがあまりないように見える。しかし電撃療法は永久には効かないので、いずれ薬物療法でコントロールしなければならない。いずれ薬物療法を考慮するなら、急いで電撃療法をするのではなく、なんとか薬物で頑張るべきだ。僕はそういうスタンスではある。期間をおいて電撃療法を繰り返す方法もあるが、僕はそんな方法は好きではない。それしか方法がないなら別だが。その時、電撃療法をしなければ、ちょっと目を離した隙に自殺してしまうような急を要するような患者の場合、電撃療法は十分な適応になる。なぜなら、もう薬物では間に合わないからだ。うつ病の自殺企図や、亜昏迷状態には電撃療法は奏功することが多い。今回は電撃療法の話ではないので、このくらいにしておきたい。

 

ごく最近、トリプタノールでまったく効果がないという患者さんに久しぶりに遭遇した。この患者さんはたいてい薬物はあまり効果がないか無効だったが、アンプリットがまあまあ良かった。アンプリットで軽快退院したが、こんなこともあるのである。アンプリットは面白い薬物でいずれ話したい。

(これは2000年頃にウエブにアップしたものをいくらか加筆、改変したものです)

エビリファイ(その3)

エビリファイは、2002年にアメリカでいち早く発売された。大塚製薬が開発したのにもかかわらず、日本ではなく先に海外で発売されているのである。エビリファイは、アメリカでは30mgまでの用量で使用されるが、時に45mgまで使用できる。けっこう評判が良く、売り上げを伸ばしているらしい。日本では24mgまでの処方で、時に30mgまでとされるが、アメリカとの差がさほど大きくないような感覚がある。エビリファイの薬効であるが、換算では24mgはコントミン600mgに相当すると言われる。セレネースだと12mgだ。日本の治験では、15mg程度使われたことが最も多かったらしい。だいたい治療域は6mg~24mg程度とされている。


最近、既に30~40人くらいの患者さんに処方しているが、あんがい少ない量でも薬効が大きいような気がし始めている。6mg追加処方しても全然違う場合がある。アメリカでは単剤で使用することが多いらしいので、置き換えてできるだけ単剤で行くように努力はしているが、今のところ単剤が実現した人は少ない。表情が明るくなると言うか、いかにも非定型という感触はあるが、効き方はジプレキサやセロクエルなどとだいぶん違うね。


ところで、未だに大塚製薬は全くといって良いほど宣伝をしていない。大塚製薬は今まで向精神薬を発売した経験がないので、ひょっとしたら慣れていないというか、どうしたら良いかわからないんじゃないの?と思ったりしていたが、最近ちょっと考えが変わった。発売直後は調査が義務付けられており、この時期、いらん宣伝をして、副作用(報告)がたくさん出てきたら非常に困る。つまり、9月頃まではじっとしていた方が会社としては利口なのだ。詳細な勉強会をして、比較的珍しい副作用まで意識されると、とうてい挙がらなかったかったであろう副作用報告も出てくる可能性がある。あまりにも副作用報告が多い場合、厚生労働省に心証が悪くなる。なんつったり。