娘を救った治療法 「承認 1日も早く」 | スクラップブック(2011年夏~現在)

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2011年8月以降、私(編集委員・安藤明夫)が中日新聞で書いた医療記事や、中日メディカルサイト(2018年3月末で休止)に載せたネットコラム「青く、老いたい」の保存版などを、載せていきます。

画像中国での治療を受けて1年5カ月。ショッピングセンターの遊び場ではしゃぐ馬場心奈ちゃん=愛知県稲沢市で

 名古屋大、信州大が申請していたCAR−T細胞療法の臨床試験がいよいよスタートする。一昨年に中国の子ども病院・北京児童医院で同治療を受けた馬場心奈(ここな)ちゃん(3つ)=愛知県稲沢市=の母(34)は、その強力な効果を実感。「闘病する子たちのため、1日も早く日本で薬事承認を」と待ち望む。

 心奈ちゃんは、生後5カ月で急性リンパ性白血病を発症。名大病院小児科に入院し、骨髄移植手術を受けたが、わずか半年で再発した。従来の治療では助かる見込みが薄い中、高橋義行教授(50)から「国の承認が出ていないので、ここではできないが…」と、中国でのCAR−T細胞療法の情報を得た。

 北京児童医院に問い合わせてもらい「滞在費を含め400万円程度」と説明されて決断。米国で同種の治療を受けるには1億5千万〜2億円かかると聞いていたからだ。

 中国も米国と同様、「ウイルスベクター方式」による治療だが、前・米国フロリダ大教授のチャン・ルンジ氏らが製薬会社を介さず、臨床試験の形で実施しているため費用が安い。年間数100人を治療しており、名大とも協力関係があることから、心奈ちゃんを受け入れた。

 強力な抗がん剤で白血病細胞を一時的に抑えた後、名大病院を退院して北京へ。約3週間入院し、培養したCAR−T細胞を点滴で体内に入れた。数ミリリットルの透明の液体で「これでいいの?って不安だったけど、副作用も起きず、ずっと元気で、本当にすごいと思いました」。高橋教授らが同行してくれたのも心強かった。名大の研究を応援する名古屋小児がん基金からも100万円の補助があった。

 それから1年半。毎月の受診でも異常はなく、身長もぐんぐん伸びた。「1日中走り回っていて、人見知りしなくて、でも我慢強い子です」と母はほほ笑む。

 心奈ちゃんが発病したばかりのころ、小児科病棟で一緒だったのが、同じ病気により2歳で亡くなった柳田優芽(ゆめ)ちゃん=名古屋市南区。米国での治療を目指し1億円以上の募金を集めたが、受け入れ側の事情や本人の病状悪化で、渡航を果たせぬまま、亡くなった。

 「日本でこの治療が承認されていれば、優芽ちゃんは今も元気だったはず。安全性の確認は大事だけど、患者にとっては時間との争いであることを国はもっと考えてほしい」と、声を詰まらせた。