子どもに多い急性リンパ性白血病の治療法として、名古屋大、信州大の小児科合同チームが研究してきた免疫療法CAR−T(カーティー)細胞療法について、厚生労働省の厚生科学審議会再生医療等評価部会は24日、臨床試験の開始を承認した。欧米で行われている従来の手法より、費用は大幅に安い。試験が順調に進めば、今後の治療法の主流となる可能性がある。(編集委員・安藤明夫)
同療法では、患者の血液を採取して、免疫細胞のT細胞の遺伝子を操作。がん細胞を認識して攻撃する力を高めたCAR−T細胞を作り、培養して患者の体内に戻す。
欧米では、この細胞作製過程で、特定のウイルスを使う「ウイルスベクター方式」が進んでいる。米国での治験では難治患者の70〜90%でがん細胞がなくなったという。米国で昨年承認された2社の製品は、日本でも近い将来、認可されるとみられているが、点滴1回5千万円と超高額なのが難点とされる。
これに対し、信州大の中沢洋三教授(47)が米国留学中に開発した手法は、ウイルスではなく、酵素を使う「酵素ベクター方式」。製造・培養の工程が簡易となった。さらに名大の高橋義行教授(50)、信州大の盛田大介助教(36)らが、発現効率などを改善した。材料費は、ウイルスベクター方式の1割以下。製薬企業の援助を受けず、国の科学研究費だけで開発したことも低コスト化につながった。
臨床試験はまず成人を対象に実施。安全性を確かめてから、小児にも使う。並行して製薬会社と契約。この手法で作ったCAR−T細胞を含む液体を新薬として開発し、早期の薬事申請を目指す。
高橋教授は「高額だと、最後の手段としてしか使えない。低コストで早い段階から複数回使うことが可能になれば、治療成績がさらに上がる」と期待。「日本発の技術でより安く供給できる道を模索し、少しでも早く病気の子どもたちに届けたい」と話す。
CAR−T細胞 遺伝子を改変し、がん細胞を認識する「キメラ抗原受容体」(CAR)を発現させたT細胞のこと。免疫細胞ががん細胞を認識するのを助けるオプジーボなどの「免疫チェックポイント阻害剤」とともに、がん免疫療法の主役として注目されている。臨床応用は、米国と中国が先行。血液以外のがんの分野でも、開発競争が激化している。